安倍晴明の娘は美しき妖狐!? やんちゃな姫が活躍する平安あやかしファンタジー「晴明の娘」シリーズ最新刊【書評】
PR 公開日:2025/12/3

平安時代を舞台にした小説の中でも、陰陽師ものは根強い支持を受けている人気ジャンルである。中でも伝説的な陰陽師として有名な安倍晴明は、これまで多くのクリエイターの想像力を刺激し、さまざまな作品が生み出されてきた。
『よろず占い処 陰陽屋』などで知られる天野頌子氏が手掛ける「晴明の娘」シリーズ(ポプラ社)は、晴明の娘で妖狐として生まれた少女を主人公にした、ユニークな平安あやかしファンタジー。魅力的なキャラクターを中心に、シリーズ第3弾となる『晴明の娘 白狐姫、皇太子にみそめられる』を紹介したい。
安倍晴明と妻の宣子の間には、三人の子どもがいる。長男の吉平、次男の吉昌、そして娘の煌子だ。煌子だけは晴明の母の妖狐・葛の葉の強力な妖力を受け継ぎ、ふさふさの狐耳と尻尾のある身体で生まれてしまう。家族はみな煌子を愛し可愛がっているが、人間からの差別や迫害を恐れて屋敷の外には出そうとしなかった。
けれども好奇心旺盛で活発な煌子は、とある手段を使って外の世界に飛び出してしまう。たぐいまれな美貌と妖力を持ち合わせた彼女は、京で起こるさまざまな事件や妖怪に関わる中で「白狐姫」と呼ばれるようになり、都にその名を轟かせていくのであった――。
平安時代の女性といえば異性の前では扇で顔を隠し、屋敷の中に閉じこもって暮らすのが通例だが、煌子は大人しい姫君とは一味も二味も違う。好奇心旺盛で活発な煌子は、最強の妖狐を目指しており、式神たちを使役しながら妖怪たちと戦い、京を揺るがす事件を解決してみせるのだ。やんちゃな武闘派でありながら、明るく愛嬌にあふれた性格はなんともチャーミングで、安倍家で溺愛されているのも納得の可愛らしさである。
娘にはどこまでも甘くて振り回されぎみな晴明、父親と同様に妹には甘い吉平と吉昌、そして唯一娘には厳しくも優しい宣子が、それぞれの特技を活かして煌子をサポートする。稀代の陰陽師としてだけでなく、パパとしての一面が楽しめる晴明を筆頭に、どのキャラクターも個性豊かで、煌子を心の底から愛している姿が微笑ましい。温かで頼もしい安倍家の絆と力を合わせた戦いぶりは、本作の大きな見どころだ。
妖怪側の造形も多彩で、とりわけ煌子が使役する鞍馬の大天狗の常闇や、白いイタチのような姿をした菅公らが印象深い。式神としての活躍をみせる一方で、好物の棗と栗で餌付けされている姿が笑いを誘う。キュートな式神から京を脅かす恐ろしい妖怪まで、バラエティ豊かなあやかしたちが物語を彩っていく。
最新刊では、新キャラとして次期帝の東宮が登場。元服したばかりの若い東宮は、煌子の強さを耳にして勝負を挑み、あっさりと負けてしまう。以後煌子は東宮から妃になれと迫られたり、修業のために京を抜け出した東宮を連れ戻しに行ったり、東宮を狙う呪詛事件に関わったりしていくことになる。
一本気でやたらと行動力にあふれた東宮は、トラブルメーカーだが憎めない性格をしており、今後も物語をかき回す存在として活躍が期待される。いつも妖怪事件に巻き込まれては煌子に助けられている藤原道長や、煌子への思わせぶりな言葉が気になる帝を含め、白狐姫を慕う男たちとの関係もますます盛り上がりそうで、今後の展開も楽しみだ。
文=嵯峨景子
