三毛猫&土鍋ごはんが心を癒す。入院中の祖母に晴れ姿を見せたい天才少女の願いはどうなる? 寒い冬に読みたいほっこりストーリー【書評】
PR 更新日:2025/12/3

『しっぽ食堂の土鍋ごはん 結婚歌と優しいプリン』(高橋由太/ポプラ社)は、読者をほっこり温かい気持ちにさせてくれる、「しっぽ食堂の土鍋ごはん」シリーズ第2弾である。
売れないシンガーソングライターが訪れたのは…コワモテ店主と三毛猫のしっぽがいる「土鍋ごはん」の店
売れないシンガーソングライターの悠木紬(ゆうき・つむぎ)は、準レギュラーとして出演していたローカル番組が突如終了してしまい、落ち込んでいた。
新しいアルバイトを探すか実家に帰るか。沈んだ気持ちで神社の裏手を歩いていた際、陶器で作った猫型の突き出し看板が目に入り、古民家風の建物「しっぽ食堂」を訪れることに。
しっぽ食堂は、不愛想でコワモテだが、本当は優しい店主・中堂陸(なかどう・りく)が営む「土鍋ごはん」のお店だ。美味しいご飯に癒された紬は、中堂からの誘いもあり(実は紬のファンだった)、しっぽ食堂でアルバイトをすることに。
中堂の作る真心いっぱいの料理と、陶芸家でもある彼の手から生み出された土鍋と、看板猫の三毛猫・しっぽは、ほっこり優しく、訪れる人々の心をほどいていく。
前作『明日の歌とふるさとポタージュ』に引き続き、第2巻でも紬は元気に明るくアルバイト中――だったのだが、いつも前向きな紬が歌手をやめようと思うまで追い詰められてしまう出来事が。
話題のミュージカル『初恋ゴースト』の最終選考に残ったものの、同じくオーディション参加者である一人の少女に圧倒されてしまうのだ。
その少女の名前は葉月羽矢(はづき・はや)。
弱小事務所の紬と違い、大手芸能プロダクションに所属する18歳、「百年に一度の逸材」と称される天才だった。
しかしそんな羽矢が、何故かしっぽ食堂を訪れる。しかもなんと「病気で入院しているおばあちゃんに結婚式を見せたい」なんて話すではないか。
一体どういうことなのか。驚く紬と中堂だったが、羽矢から、祖母の咲(さき)への想いを聞き、協力することに。
というのが、あらすじ。
思わずメモしたくなる、優しい名台詞の数々
本作は表紙から醸し出されている通りの、優しい雰囲気たっぷり癒されストーリーだ。大人も子どもも楽しめる内容で、日々の学校疲れ、職場疲れを、ふんわり包んでほぐしてくれるような読後感がある。
また作中には、ちょこっと手帳にメモしておきたいような優しい名台詞が、ところどころちりばめられているように感じた。
例えば、紬が羽矢の結婚式のために作詞作曲した「結婚歌」の歌詞。
今日は結婚式 わたしとあなたの結婚式
「愛している」と「ありがとう」を
たくさん、たくさん、たくさん伝える日
中堂の妹、結菜から「嬉しい贈り物をされた」同級生の司の言葉。
結菜ちゃんと出会ってから、「人生でいちばん」の連続だ。
病気で後ろ向きな気持ちになっていた咲が、改めて家族の愛情を噛みしめる言葉。
大好きという言葉を聞けないまま、この世を去らなければならない人間がいる。そういう意味では、自分は幸せなのかもしれない。いや、幸せだ。
などなど、あなたの心にそっと残るようなさりげない言葉たちを、ぜひ探してみてほしい。
紬の歌、中堂の土鍋ごはん、しっぽの可愛らしさに癒される本作。また中堂に縁談話が持ち込まれ、紬との関係も進展する(……かも?)。2巻からでも楽しめるので、ぜひ読んでほっこりしてほしい。
文=雨野裾
