私の未来は「すし」か、それ以外か。小説すばる新人賞受賞の須藤アンナが、人生に悩む全世代に贈る青春すし・スペクタクル【書評】
PR 公開日:2025/12/20

『グッナイ・ナタリー・クローバー』で第37回小説すばる新人賞を受賞してデビューした2001年生まれの注目作家・須藤アンナ氏。その最新作はなんと、女子高生が養成学校に通い「すし」になることを目指すという、未曽有の青春物語だ。
コロナ禍真っ只中の2020年3月。第一志望の東京大学の入試に落ちた相川咲弥、通称サッチャーのもとに、「西東京すし養成大学」の合格通知が届く。東大生という称号を得ることが叶わず、大学5年生に突入する姉、二浪中の兄、都合が悪くなると口を閉ざす父、自分に無関心な母と暮らす家の居心地も最悪。そんなサッチャーは、うさん臭さを感じながらも、西東京すし養成大学のオリエンテーションに赴く。そこには、同じく合格通知を手にしたという、中学時代からの3人の親友の姿もあった。
彼女たちはオリエンテーションで、怪しすぎる学長・板ノ上真魚の指導のもと、すしへの第一歩として「シャリ化」に成功。味わったことのない喜びに魅了されたサッチャーは、親友たちとともに、続く「ネタ」になるための実技試験や、「ガリ」としての中間試験、「サビ」のプレゼンテーションと、「すし」養成の講義を重ねる。彼女たちが目指すのはすし職人ではなく、「すし」そのもの。雑居ビルに突如現れたプールでの水中呼吸の習得、手からワサビが出る等の驚異の身体的変化、海上での激しい総力戦などを経て、サッチャーたちはすしへの階段を一歩ずつ登っていく。
その一方で、高校生という肩書消滅のリミットが近い2020年3月のサッチャーの日常も続く。滑り止めの大学に進学する選択肢も残されているサッチャーは、親友との「すしってる」日々の中、揺れ動いていくのだが――。
頭がクラクラするほど不条理な展開に痺れる。泣きながら眠ったのに、素っ頓狂な夢で目覚めた自分に呆れてしまう感覚に似た、苦悩と隣り合わせの脱力的なユーモアも本作の魅力。しかしそんな先鋭的な物語で描かれるのは、友情、家族、そして自分探しという、普遍的なテーマだ。
鬱陶しいが、その振る舞いが自分の心を支配してしまうほど近い家族への思い。何者かになりたい、でも大人になるのは怖いという、人生最大のわがまま。誰もが経験するであろう10代の葛藤と、生きることへの希望が、チャレンジングな切り口で、ビビッドに綴られている。須藤氏の過去のインタビューを読むと、主人公の抱えた疎外感や敗北感は、須藤氏がリアルに経験したものと近いと想像できる。著者自身も現在進行形で抱えている問題だからこそ、生き方に悩む年代の切実さが痛いほど伝わるのだろう。
苦しいけれど、だから人生は面白い。謎の言葉「すしってる」の本質に触れた時、経験したことのない感動と文学の喜びに包まれた。須藤アンナ氏の今後の作品もとても楽しみだ。
文=川辺美希
