『変な地図』発売1カ月で70万部突破! ビルボード第1位を獲得した覆面ホラーミステリー作家・雨穴氏が明かした「変なシリーズ集大成」×「王道小説」の裏側【イベントレポ】

文芸・カルチャー

公開日:2025/12/24

 
 2025年12月16日、ビルボードライブ東京で「Billboard Book Charts 授賞式」が行われた。当日は、覆面ホラーミステリー作家でYouTuberの雨穴氏が登壇し、2025年10月発売の著書『変な地図』(双葉社)にちなむ歌を初披露するなどして、会場を盛り上げた。

■最新刊『変な地図』では「主人公と一緒に旅をしている気分を味わってほしい」

 日本におけるBillboardブランドのマスターライセンスを保有する株式会社阪神コンテンツリンクが2025年11月に日本初となる紙書籍・電子書籍・図書館貸出を統合した総合書籍チャート「Billboard JAPAN Book Charts」をスタートした。立ち上げ初週(集計期間:2025年10月27日~11月2日)で第1位となったのは、雨穴氏の『変な地図』だった。

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 雨穴氏による『変な地図』は、ベストセラー『変な家』『変な絵』『変な家2 〜11の間取り図〜』に続く“変なシリーズ”の集大成となる最新作。雨穴氏の作品ではおなじみの登場人物である大学生の栗原さんが、亡くなった祖母が所持していた“7体の妖怪が描かれた何かがおかしい古地図”の謎を解き明かしていく。出版からわずか1ヶ月で70万部を突破し“2025年後半No.1ベストセラー”との呼び声も高い

 当日の授賞式では、阪神コンテンツリンク ビルボード事業本部 研究・開発部 上席部長の礒﨑誠二氏が挨拶。トレードマークの白い仮面と全身タイツの姿で登壇した雨穴氏に、同社の会長である百北幸司氏が笑顔でトロフィーと花束を手渡した。

 スピーチでは、ビルボードライブ東京のステージに立った感動もあらわにした雨穴氏が新作『変な地図』をはじめとする作品にかける思い、そして、当日の授賞式を見守った全国の書店員、出版関係者、そして読者への心からの感謝を口にした。

 自身の著書にはイラストや図版が多用されており「文章とイラストを交互に組み合わせることで生まれる、軽い読み心地や独特のリズムが、私の本の特色だと思っています」とアピールした雨穴氏。『変な地図』にも200枚以上の地図とイラストが描かれており、普段本を読まない人にもわかりやすく事件の謎の解くヒントの役割を果たしている。共通して、読者の日常における辛さに寄り添い「本を読んでいる時間だけは嫌なことを忘れて、物語の世界に入れる。そう思っていただけたら、これ以上の幸せはありません。そんな数時間をプレゼントすることを目標に今まで(作品を)書いてきました」と熱く語った。

 一方、過去作と異なり最新刊『変な地図』の執筆時には、これまで抑えてきた自身の「表現欲求」を一部解放したことも初めて語った。背景には、主人公が道中で仲間と出会い敵と対峙して最後は思い出を胸に別々の道へと別れるような「王道小説」への憧れがあり「本作に多くのイラストや地図を入れたのも、読者の方に主人公と一緒に旅をしている気分を味わってほしい」という思いがあったからだと明かした。

 完成までの10ヶ月以上の日々では「今までのホラーやミステリーの要素、自分の世界観を保ちながら王道の物語を組み合わせる」という苦労もあり、前作『変な家2 〜11の間取り図〜』の出版から2年弱で「世間から忘れられているのではないかという不安もありました」と吐露。しかし、『変な地図』発売後には大きな反響を集め「多くの方に手に取っていただき、全国の書店員のみなさまにも素敵な売り場を作っていただき、本当に温かい気持ちになりました」と、喜びを伝えた。

■持てる力をすべて使い「文芸の世界で立っていよう」と覚悟

 当日のステージでは、スピーチに加えて、雨穴氏が作詞・作曲・編曲を担当した歌でも感謝を届けた。全国の書店員たち、出版関係者や読者への感謝を綴ったオリジナルソング「STORE LIGHT SERENADE~ストアライト セレナーデ~」の披露時には、ステージ後方のスクリーンにアコースティックギター、ドラム、ベースを弾く自身の“雨穴・バンド”動画を投影しながら、マイクを手にした“口パク”のパフォーマンスで会場を盛り上げた。

 その後の記者会見では、マスコミ関係者からの質問に回答。「Billboard JAPAN Book Charts」の第1週で歴史に残る第1位を獲得した感想を聞かれて喜んだ雨穴氏は、次に授賞式へ立つ著者にも覆面を被ってもらい「ビルボードの1位といえばお面だよねという変な伝統を作っていただけたらと思います」とジョークを交え、会場の笑いを誘った。

 作品づくりについての質問では「物を作るのはすごく好き」だと率直な思いを吐露。先輩作家の東野圭吾氏にふれ「新人作家だからといって東野圭吾さんの本よりも安く売られるということはありませんので」と述べ、持てる力をすべて使い「文芸の世界で立っていよう」という覚悟を抱いていると語った。

 また雨穴氏は作家人生では、ミステリー作家の横山秀夫氏に影響を受けたとも語り「モブキャラに至るまで人生を深掘っていくような筆致に衝撃を受けまして、自分はそういう作品を書く力がないから、真逆で攻めようという自分のスタンスを明確にするきっかけ」になったと明かした。

 そうした思いも重なって生まれた最新刊『変な地図』は、自身の作品では一番大事にしているという「ゾクゾクワクワク」した気持ちで読んでほしいと吐露。「肩の力を抜いて、軽い気持ちで深い世界を楽しんでいただきたい」と、読者へのメッセージを発した。

 そして最後は、自身の著書を世に広める全国の書店員たちと記念撮影。雨穴氏と同様の白いお面を手にした“30人の「雨穴仮面」”がステージに集合し、最新刊『変な地図』の70万部突破と、「Billboard JAPAN Book Charts」初週第一位の喜びを皆で分かち合った。

取材・文=カネコシュウヘイ

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