第41回「福岡」食と文化が栄える豊かな都市の本棚には、どんな本が並んでいるのか?【あの町の本棚】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2026/1/7

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年1月号からの転載です。

 今回の舞台である福岡は、博多ラーメン、モツ鍋、水炊きといった「グルメの町」というイメージが強い。しかし、実は文化的な取り組みも盛んで、「福岡市子どもと本の日」「ブックオカ 福岡を本の街に」などを通して、読書文化を広めようともしているという。そんな町に暮らす人々の本棚にはどんな作品が並ぶのか。少しだけ覗かせてもらおう。

太宰府天満宮 権禰宜 山口敬也さん

『赤と青のガウン オックスフォード留学記』
『赤と青のガウン オックスフォード留学記』(彬子女王/PHP文庫)1320円(税込)

女性皇族として初めて海外の博士号を取得したという彬子女王殿下。瑞々しい文体で、英国留学の日々を綴る。「言葉選びにご配慮が感じられ、ユーモア溢れる表現に心が引き込まれます。殿下の温かいお人柄を身近に感じられる一冊です」

『夢をかなえるゾウ文庫版』(全5巻)
『夢をかなえるゾウ文庫版』(全5巻)(水野敬也/文響社)968〜1265円(税込)

あるとき“僕”の前に現れたゾウの神様。偉人たちを育てたというゾウが説く教えは、どれも地味なものばかりで……。「ガネーシャとの出会いは中学生の時でした。その“当たり前”の教えとこの出会いが、今思えば私にとってとても大きかったと実感しています」

『踏み出す一歩 そして僕は夢を追いかけた』
『踏み出す一歩 そして僕は夢を追いかけた』 (倉野信次/ブックダム:発行、日販アイ・ピー・エス:発売)1650円(税込)

日本一のピッチングコーチを目指し、48歳でアメリカ武者修行に出た著者が、夢を叶えるために大切なことを説く自己啓発エッセイ。「倉野さんの講演を拝聴した後、思わず本屋へ向かいました。指導の本質と、挑戦する勇気を教えてくれる、学びに満ちた一冊です」

[太宰府天満宮]
〒818-0195 太宰府市宰府4-7-1 
☎ 092-922-8225 
HP:https://www.dazaifutenmangu.or.jp
御祭神・菅原道真公を祀る全国約1万社の天満宮の総本宮。現在御本殿大改修につき、令和8年5月上旬までは仮殿でお迎えしている。

キャナルシティ博多 販促統括マネージャー 上田彩加さん

『アッコちゃんの時代』
『アッコちゃんの時代』(林 真理子/新潮文庫)737円(税込)

狂乱の時代だったバブル期に、男たちを翻弄しながらのし上がっていった“魔性の女”。彼女の半生と恋愛を蠱惑的に描く長編小説。「バブル期の煌めく東京を舞台に、時代の空気感や消費文化を主人公の女性を通して描き、社会の変化を深く読み解く一冊です」

『69 sixty nine』
『69 sixty nine』 (村上 龍/文春文庫)759円(税込)

舞台は1969年の長崎県佐世保。若さを持て余す高校生のケンは仲間を誘い、学校をバリケード封鎖するが――。「69年当時のロックや映画といったカウンターカルチャーを、若者たちのエネルギッシュな感性で描き出し、その熱狂はどの世代にも響く原動力です」

『渋谷音楽図鑑』
『渋谷音楽図鑑』 (牧村憲一、藤井丈司、柴 那典/太田出版)2640円(税込)

渋谷に流れる“都市型ポップス”。その系譜を、歴史や人、ファッションなどから解き明かす。「私たちの世代に繋がる90年代渋谷の音楽、ファッション、都市カルチャーの魅力を多角的な視点で知ることができ、都市がいかに文化を育むかのヒントも与えてくれます」

[キャナルシティ博多]
〒812-0018 福岡市博多区住吉1-2 
☎ 092-282-2525(キャナルシティ博多情報サービスセンター) 
HP:http://www.canalcity.co.jp
1996年4月20日に再開発プロジェクトで開業した複合商業施設。「都市の劇場」をコンセプトに、ショッピングモール、映画館、劇場、アミューズメント施設、2つのホテル、ショールーム、オフィスなどさまざまな業種業態が軒を連ねている。

マリンワールド海の中道 魚類課飼育員 山口絢子さん

『十角館の殺人〈新装改訂版〉』
『十角館の殺人〈新装改訂版〉』(綾辻行人/講談社文庫)946円(税込)

孤島に建つ十角館を舞台に、次々と起こる惨劇。犯人は誰か。ミステリー史上、最大級の結末が待ち受ける。「最後に“ある一文”で物語が変わってしまう衝撃は忘れられません。マンガしか読まなかった私が “どんでん返し本”を読み漁るきっかけになった大切な一冊です」

『水滸伝』(全19巻)
『水滸伝』(全19巻)(北方謙三/集英社文庫)各935円(税込)

北宋末期、腐敗した政府を倒すべく漢たちが立ち上がる。著者を代表する壮大な革命譚。「熱い漢の物語としてだけではなく、役職や立場の違う一人ひとりの正義が書き込まれていて、今の社会と通ずると感じます。私の推しは林冲と王進と扈三娘です!」

『瞳のなかの王国』(全3巻)
『瞳のなかの王国』(全3巻)(岡野史佳/白泉社花とゆめC)*電子書籍にて発売中

近くの水族館で不良と噂される一矢と知り合った深青。彼の意外な顔に深青の心は揺れ動いていくが……。「マリンワールド海の中道が舞台で、勝手に登場人物の一員になった気でいます。この本に出合ってなければ今の私はいないであろう大切な作品です」

[マリンワールド海の中道]
〒811-0321福岡市東区西戸崎18-28 
☎ 092-603-0400 
HP:https://marine-world.jp
九州の海をテーマに、350種3万点の海の生き物が展示されている水族館。
12月1日(月)~25日(木)には「海のクリスマス」のイベントが実施され、イルカアシカショー、外洋大水槽でのショーなどがクリスマスバージョンで楽しめ、サンタダイバーと記念写真撮影もできる。24日(水)、25日(木)はクリスマスナイトとして夜間営業(10:00~21:00)を実施。年末年始も営業している。

BOOKSHOP 本と羊 店主 神田 裕さん

『深夜特急』(全6巻)
『深夜特急』(全6巻)(沢木耕太郎/新潮文庫)693〜737円(税込)

インドからイギリスまで、乗合いバスで行ってみたい。そんな衝動に駆られて世界へ飛び出した著者が綴る、珠玉の旅エッセイ。「自由に旅する中で価値観が揺さぶられ、人生観を広げてくれる青春の必読書。令和の若い人に読んでほしい。僕も影響を受けた一人です」

『街を知る 福岡・建築・アイデンティティ』
『街を知る 福岡・建築・アイデンティティ』(松岡恭子/古小烏舎)1760円(税込)

常に更新を続けている街・福岡。その生まれ変わっていく姿を通して“街らしさ”とはなにか、建築家の著者が考察を深めていく一冊。「天神の大型再開発が進む中、福岡に暮らす人間としての“当事者意識”を持たせてくれる部分が特に読むべき点です」

『舟を編む』
『舟を編む』 (三浦しをん/光文社文庫)682円(税込)

辞書編集部に引き抜かれた馬締光也。奥深い辞書編集の世界へ足を踏み入れた彼は、いつしか情熱を燃やしていく。「言葉への情熱と人の絆を描く、静かで深い感動作。読後、言葉が愛おしくなる一冊。辞書作りの忍耐力にはシンパシーを感じます」

[BOOKSHOP 本と羊]
〒810-0044 福岡市中央区六本松 4-4-12エステートモア六本松2-102B 
☎ 非公開 
HP:https://hontohitsuji.thebase.in
2020年8月に福岡市中央区六本松に開店。「新刊と古本をメイン販売とし“誰かの背中を少しだけ押せる本屋”をコンセプトに、副店主(妻)と日々奮闘中。よくしゃべる本屋です」

構成・文:イガラシダイ イラスト:千野エー

あの町と本にまつわるアレコレ

 福岡県はマンガ家の宝庫だ。たとえば、ここ数年で大人気マンガ家へと上り詰めた、『鬼滅の刃』を生み出した作家・吾峠呼世晴。大正時代を舞台に人と鬼との闘いを描いた本作は、社会現象を巻き起こすほどのヒットを記録。連載は終了したがアニメは定期的に制作されており、いまだに人気の炎が燃え続けている。『東京喰種』の石田スイも福岡出身。“人を喰らう喰種(グール)”という衝撃的な設定を考案し、作品はアニメや実写映画などメディアミックスも盛んに行われた。他にも、『GANTZ』や『いぬやしき』で知られる奥浩哉、『ちはやふる』で競技かるたブームを起こした末次由紀など、いずれも第一線で活躍し続ける者ばかり。一体、福岡にはなにがあるんだ? と圧倒されてしまう。

 一方で小説家にも錚々たる顔ぶれが揃う。『日蝕』で芥川賞に輝いた平野啓一郎、『流』で直木賞を掴んだ東山彰良、『夏と花火と私の死体』で鮮烈なデビューを果たした乙一……。名前を挙げればきりがないほどの文筆の才能が、福岡から誕生している。マンガ家、小説家ファンならば、一度その地に足を運んでみるのも面白そうだ。作家を醸成するなにかが、そこにはあるかも。

<第8回に続く>

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