島田雅彦がマンガ原作に挑戦! 古代中国を舞台にした歴史活劇『アンセスターズ』【書評】

マンガ

PR 公開日:2026/1/22

 アンセスターズ
アンセスターズ(Ⓒ島田雅彦、これかわかずとも/講談社)

 いつの世も、歴史は勝者側の視点から語られがちだ。敗れ、奪われ、踏みつぶされた者の怒りは、陰に押し込められてきた。『アンセスターズ』(島田雅彦:原作、これかわかずとも:作画/講談社)は、そんな敗者たちの視線から古代中国の「徐福伝説」を書き直そうとする作品である。

■歴史が苦手な人ほどハマる“敗者たち”の物語

 物語は、巨大な流星が夜空を切り裂くところから始まる。六国が滅び、始皇帝が中華を統一した直後の世。死屍累々の戦場でただ一人生き延びた鍛冶屋の青年・無量は、死体を漁っていた自称「墓掘り」の少年・童平と出会う。

(C)島田雅彦、これかわかずとも/講談社
(C)島田雅彦、これかわかずとも/講談社

 賊に襲われる危機を共に乗り越えた二人は、生き延びるため、無量の故郷へ向かうことに。一方その頃、故国・楚を滅ぼされた姫(楚姫)は、始皇帝へ復讐の念を燃やしていた。やがて無量と童平、楚姫は、それぞれの思惑から「徐福」のもとを目指す。

 本作は、異端の文豪・島田雅彦による初の書き下ろし漫画原作だ。作画を手がけるのは、『東京カリニク鉄砲隊』などで知られるこれかわかずとも。文豪の思想と骨太な筆致が混ざり合った、ダイナミックな歴史活劇となっている。

 歴史を題材にした漫画と聞くと、「セリフの情報量が多そう」「知識がないと楽しめない」などと苦手意識を持つ人もいるかもしれない。だが本作は、そんな予感をいい意味で裏切ってくれる。必要以上に説明せず、登場人物たちの行動と絵で語る。ページをめくるたびに世界の状況が見えてきて、セリフのひと言が染みる構造になっている。筆者は古代中国の歴史や徐福について詳しくないが、読んでいて置いていかれる感覚はなかった。

■謎多き青年と、復讐に燃える姫。彼らが目指すは「徐福」

 一見すると穏やかで気のいい青年である無量と、やんちゃな少年の童平。しかし実は二人とも、一筋縄ではいかない複雑な内面を抱えているようだ。特に無量は、傷を負った状態でも平然と人を殺す冷静さや、鉄剣に空いた「孔」を見抜くという鍛冶屋ならではの特殊な才能も持ち合わせている。何を考えているのか掴みにくく、童平も「やっぱりコイツまったく分からねぇ」と心のなかでこぼしている。成り行きで出会ったちぐはぐのコンビが共に旅をする様子は、どこか微笑ましくもある。

 もっとも印象に残ったのは、楚姫にまつわるシーンだ。目元にサイバーチックな目隠しをつけたミステリアスな美女。ビジュアルが魅力的なキャラだが、それにもまして内側からあふれる憎悪に惹かれてしまう。

(C)島田雅彦、これかわかずとも/講談社
(C)島田雅彦、これかわかずとも/講談社

 焼け落ちた祖廟から略奪されずに残った品々を、従者が棺に詰めて持ってくる場面で描かれる、姫の顔が真っ黒に塗りつぶされた一コマには息をのんだ。蹂躙された者の怒りが迸るその表情には、思わず目が離せなくなってしまった。

『アンセスターズ』の第1巻は1月22日発売。1巻ではまだ、作品公式が掲げる「徐福伝説」や「日本人の起源」といったテーマは輪郭を現していない。だからこそ、無量、童平、楚姫たちの物語がこれからどのように繋がっていくのか、期待せずにはいられない。

文=倉本菜生

あわせて読みたい