善を信じる欲求こそが悪政を正す。作家・島田雅彦が選んだ「いまの時代こそ読みたい3冊」【私の愛読書】
さまざまな分野で活躍する著名人にお気に入りの本を紹介してもらうインタビュー連載「私の愛読書」。今回、ご登場いただいたのは、『時々、慈父になる。』(集英社)を刊行された作家の島田雅彦さん。作家生活40周年を迎える島田さんがセレクトしてくれた本は全部で3冊。一体どんな本なのか、さっそくお話をうかがった。
(取材・文=荒井理恵、撮影=桐山来久)
歴史の重さを痛感する『紙の世界史』
『紙の世界史』(マーク・カーランスキー:著、川副智子:翻訳/徳間書店)
――最初の一冊は『紙の世界史』(マーク・カーランスキー:著 川副智子:翻訳 徳間書店)ですね。
島田:私は一種のマテリアリストで素材に対するフェティシズムがあるんですね。これは「紙」の歴史について書かれた本で、紙は軽いけれど、その背後にある歴史というのは極めて重いものだと痛感させられました。もともと中国で発明された紙は門外不出の技術だったものがペルシャに伝わり、さらには13世紀にヨーロッパに伝わり、のちには紙幣にまで発展していきます。出版文化においても紙の時代がとても長く、1455年のグーテンベルク聖書が活版…