第42回「岡山」桃太郎伝説をはじめ、伝統文化があふれる都市の本棚には、どんな本が並んでいるのか?【あの町の本棚】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2026/1/29

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年2月号からの転載です。

 今回の舞台は、あの“桃太郎伝説”で知られる「岡山県」。備前焼や倉敷はりこなどの工芸品や、まつりずし、さばずしといった郷土料理、そして岡山三大だんじり祭りと、さまざまな伝統文化にあふれる魅力的な土地だ。そんな岡山に暮らす人々の本棚には一体どういった作品が並ぶのか。ほんの少しだけ覗かせてもらおう。

倉敷アイビースクエア 景山春萌さん

『小説は書き直される 創作のバックヤード』
『小説は書き直される 創作のバックヤード』(公益財団法人 日本近代文学館:編/秀明大学出版会:発行 SHI:発売)2750円(税込)

名作として世に残る小説はどのように生まれたのか。原稿用紙の改稿跡や校正刷りへの手入れの様子を公開し、完成までを明らかにする。「名作たちにスポットを当てて、実際の原稿や当時の出来事に想いを馳せて、小説という形になっていくまでを見てみませんか」

『旅の絵本』
『旅の絵本』(安野光雅/福音館書店)1760円(税込)

中部ヨーロッパを舞台に、ひとりの旅人の旅を追体験する絵本。人の営みや自然の豊かさを思う存分味わえる。「この絵本にはいっさい文字がなく、決まった読み方はありません。ただ眺めるもよし、人々の会話を想像するもよし。想像を広げて読みたくなる一冊です」

『東京喰種 トーキョーグール』 (全14巻)
『東京喰種 トーキョーグール』 (全14巻)(石田スイ/集英社ヤングジャンプC)各594円(税込)

事故に巻き込まれ、半“喰種(グール)”となってしまった主人公。絶望の果てに待つものとは? 「突然、昨日までと日常が一変したら? 決して明るい内容ではないけれど、迫力ある作画と独特な台詞がとても印象的。すべてを乗り越え、受け入れた主人公の最後は……」

[倉敷アイビースクエア](株式会社倉敷アイビースクエア)
〒710-0054 倉敷市本町7-2 
☎086-422-0011(代表) 
HP:https://www.ivysquare.co.jp
明治時代の倉敷紡績所(現:クラボウ)発祥工場の外観や立木を可能な限り保存し再利用して生まれた、ホテル・文化施設を併せ持つ複合文化施設。2007年には、旧倉敷紡績所が日本の産業近代化に大きく貢献したとして、創業時の紡績工場の建物群が「近代化産業遺産」に認定された。

岡山城の皆さん

『句集 けむりの木』
『句集 けむりの木』(小西瞬夏/現代俳句協会)2200円(税込)

現代俳句界をけん引する俳人のひとりによる、第三句集。安易な理解や共感を跳ね飛ばしながらも、読み手に「解釈する喜び」を感じさせてくれる俳句ばかりが収録されている。「ひと作品はたった17音。だけど、日常から少し遠くて新しい世界に連れて行ってくれます」

『サラサーテの盤 内田百閒集成4』
『サラサーテの盤 内田百閒集成4』(内田百閒/ちくま文庫)1210円(税込)

友人の死後、〈私〉のもとに友人の妻が遺品回収のため訪ねてくるように。幻想的な描写のなか、生と死の境界がぼやけていく(表題作)。「あらすじでは、作品のおもしろさが伝わらないのがツライ! 不思議な情景描写や雰囲気を楽しんで」

『カラスの親指 by rule of CROW’s thumb』
『カラスの親指 by rule of CROW’s thumb』(道尾秀介/講談社文庫)1034円(税込)

詐欺師として生きる中年二人組のもとに、ひとりの少女が現れる。それを機に同居人は増えていき、やがて他人同士の家族が完成するが……。「不思議なタイトルだけど読むと納得。前半の重厚さと後半の痛快さのコントラストがすごいです」

[岡山城]
〒700-0823 岡山市北区丸の内2-3-1 
☎086-225-2096 
HP:https://okayama-castle.jp
宇喜多秀家により築城。1966年、岡山市民らの寄付金により再建。内部は資料館施設で、随時資料を入れ替えながら展示している。黒い外観、金箔の瓦をあげていることから「烏城(うじょう)」という別名がある。

大原美術館の皆さん

画像提供:公益財団法人 大原芸術財団 大原美術館
画像提供:公益財団法人 大原芸術財団 大原美術館
『楽園のカンヴァス』
『楽園のカンヴァス』(原田マハ/新潮文庫)880円(税込)

巨匠ルソーの名画「夢」に酷似した絵を巡り、ふたりの鑑定役が真贋を探る。第25回山本周五郎賞にも輝いた、前代未聞の美術ミステリー。「主人公の一人が働く場所として、大原美術館が登場します! ぜひ美術館に来る前でも後でもお読みいただきたいです」

『カラー版  名画を見る眼Ⅰ 油彩画誕生からマネまで』
『カラー版 名画を見る眼Ⅰ 油彩画誕生からマネまで』(高階秀爾/岩波新書)1364円(税込)

西洋絵画には、実は深い意味が込められていた─。その隠された意味や意図を丁寧に解説しながら、西洋絵画の世界を案内する。「大原美術館の前館長である高階先生による、西洋美術史入門の大定番です。カラー版は絵画や参考図版も見やすいです」

『大人のための印象派講座』
『大人のための印象派講座』(三浦 篤/新潮社)3410円(税込)

ときに美化されがちな印象派の絵画。それらを「お金」や「女性」といったシビアな視点から解き直し、新しい見方を提示する。「大原美術館の現館長による、印象派ファン必読の一冊です。作家の人物像や人生に触れることで、作品の見え方も変わるかも?」

[公益財団法人大原芸術財団 大原美術館]
〒710-8575 倉敷市中央1-1-15 
☎086-422-0005 
HP:https://www.ohara.or.jp
倉敷を基盤に幅広く活躍した実業家・大原孫三郎が、前年に死去した画家・児島虎次郎を記念して1930年に設立した、日本で最初の西洋美術中心の私立美術館。西洋・日本の近代から現代の美術、民藝運動にかかわった作家たちのコレクションを所蔵するほか、教育普及活動なども実施し、21世紀に生きて躍動する美術館として多彩な活動を展開している。

スロウな本屋 店主 小倉みゆきさん

撮影:ieto.me
撮影:ieto.me
『弱さの思想 たそがれを抱きしめる』
『弱さの思想 たそがれを抱きしめる』(高橋源一郎、辻 信一/大月書店)1760円(税込)

弱さとは乗り越えるべきものなのか? 弱さを中心に据えたコミュニティのフィールドワークから、新しい世界の在り方を探る。「ネガティブとされてきたものにこそ、真の豊かさが潜む。損得や効率だけでは辿り着けない世界のぬくもりと知恵に満ちた本」

『線と管をつながない 好文×全作の小屋づくり』
『線と管をつながない 好文×全作の小屋づくり』(中村好文、吉田全作/PHPエディターズ・グループ:発行 PHP研究所:発売)2783円(税込)

太陽光発電、雨水のろ過、ガス不要のキッチン……。線にも管にもつながらない、エネルギー自給自足を持続可能にした小屋づくりの全貌がここに。「失敗すら愉しもう。吉田牧場の美味なるチーズは旺盛な探求心を持つ人の手で作られる。読むと手を動かしたくなる」

『父のビスコ』
『父のビスコ』(平松洋子/小学館文庫)803円(税込)

食にまつわるエッセイの名手として知られる著者が綴った、初の自伝的随筆集。大文字の歴史の裏にある、小さな家族の物語。「食べること、生きることの妙味。内田百閒と大手饅頭。豪雨被災地での炊きだし。岡山の土地と人の気配が随所に感じられる」

[スロウな本屋]
〒700-0807 岡山市北区南方2-9-7 
☎086-207-2182 
HP:http://slowbooks.jp
岡山駅からほど近い場所に残る木造長屋の一角に、2015年開業。「ゆっくりを愉しむ」をコンセプトに、絵本や様々な書籍を扱う。読書会やトークイベントも随時開催。毎月一冊絵本が届く「絵本便」が人気。

451ブックス 店主 根木慶太郎さん

『ウマに なれたら いいのにな』
『ウマに なれたら いいのにな』(ソフィー・ブラッコール:作 山口文生:訳/評論社)2200円(税込)

ウマになって、一日中走り回りたい――。主人公はなぜそんな夢を見るのか、一枚の絵から、その複雑な思いがひもとかれていく。「なにげない物語が、プールサイドにおかれた車椅子を見ることで一変します。他者とは何かを考えるきっかけになる絵本です」

『なみにきをつけて、シャーリー』
『なみにきをつけて、シャーリー』ジョン・バーニンガム:作 辺見まさなお:訳/ほるぷ出版)1650円(税込)

両親とともに海を訪れたシャーリーの前に広がるのは、海賊のいる冒険の世界。子どもの見ている世界の豊かさを教えてくれる一冊。「季節外れの海岸を両親と娘・シャーリーが訪れ、海賊の物語と並行する物語は、絵本の“絵”を読むことを改めて気づかせてくれる」

『キジムナーkids』
『キジムナーkids』(上原正三/現代書館)1870円(税込)

集団自決、大空襲、疎開……。沖縄戦の痛みを少年の目線で綴る、感涙の自伝的小説。「岡山市が主催する第33回坪田譲治文学賞受賞作。敗戦後の沖縄を生き抜いた少年たちの物語は、子どもだけでなく大人にこそ読んでもらいたい」

[451ブックス]
〒706-0222 玉野市八浜町見石1607-5 
☎0863-51-2920 
HP:https://www.451books.com
読んで、見て、手に取って楽しいと思った本を扱う書店。洋書や雑貨、DVD、ポスターなども扱う。店舗はリアル店舗とネットショップの2本立て。店名の由来は、本を読むことも所持することも思考することも禁止された近未来の焚書の世界が描かれたレイ・ブラッドベリのSF小説『華氏451度』から。本を扱い、本無しでは生きられない人たちの店として、屋号に引用している。

あの町と本にまつわるアレコレ

 岡山県にゆかりのある作家は非常に多い。小説家でいうと、テレビ番組などでも岡山出身であることを公言し活躍する岩井志麻子が真っ先に思い浮かぶだろう。ユニークなキャラクターが先行するかもしれないが、『ぼっけえ、きょうてえ』や『岡山女』など、岡山を舞台にした因習を描かせたら右に出るものはいないくらいの作家である。『妊娠カレンダー』で芥川賞を受賞し、以降、美しさと残酷さが共存する作品を書き続けている小川洋子も、そのひとり。他にも、『バッテリー』で知られるあさのあつこ、『流星ワゴン』『ナイフ』の重松清なども。ちなみに、かの文豪、夏目漱石も岡山にゆかりがあり、岡山市には「漱石ロード」と名付けられた地域が存在する。

 マンガ家はというと、『NARUTO -ナルト-』の岸本斉史、『有閑倶楽部』の一条ゆかり、『To LOVEる-とらぶる-』の矢吹健太朗、『金の国 水の国』の岩本ナオなど、錚々たる顔ぶれ。なかでも国民的マンガになった『ナルト』の影響は相当なもので、過去には津山城を利用したラリーイベントが開催されたほど。確かに忍者と城趾の相性はぴったりかも。

 それにしても、岡山はなんてクリエイティブな土地なのだろう。今後もきっと、人気作家が続々生まれてくるに違いない。

構成・文:イガラシダイ イラスト:千野エー

<第9回に続く>

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