食の観点から綴られる豊臣兄弟の逸話をセレクト! 今が旬の知識本など、本読みの達人たちが教える選りすぐりの新刊本
公開日:2026/2/4
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年2月号からの転載です。

本読みの達人、ダ・ヴィンチBOOK Watchersがあらゆるジャンルの新刊本から選りすぐりの8冊をご紹介。あなたの気になる一冊はどれですか。
イラスト=千野エー
[読得指数]★★★★★
この本を読んで味わえる気分、およびオトクなポイント。

村井理子
むらい・りこ●1970年生まれ、静岡県出身。翻訳家、エッセイスト。著書に『村井さんちの生活』『兄の終い』『ある翻訳家の取り憑かれた日常』など。訳書としては『ゼロからトースターを作ってみた結果』『家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法』ほか。

予想以上に深い
関西に住んでいると、関西の人間関係の8割ぐらいが雑談で成り立っていると思うことがある。とにかく関西人は、「今日は寒いなあ」からスタートし、そこから何分でも、台本の一切ない雑談を繰り広げ、自分の主張をすべて吐き出し、相手の主張にもとりあえず耳を傾け、そして互いに「ほなね」と言って別れる……ということを繰り返していると思う。本書を手に取った関西人の私が抱いたのは、「雑談が苦手な人っているんだ」という素朴な驚きの感情だった。だが読み進めてみたら、なるほど、深い。そして、理解した。私たち関西人だって、決して雑談が得意な人ばかりではないのだろうということ。本書は、関西人が今一度、対人コミュニケーションの手法を学ぶための一冊ではないだろうか。つまり、雑談とは相手に切り込んでいくことだけではない。相手の言葉を引き出し、耳を傾ける。そして自分を知る行為でもある。学びの多い一冊だった。
文芸/エッセイ
誰かと話したくなる度
★★★★★

この一冊が、まさに贈り物
人気校正者の牟田都子氏が、作家、ミュージシャン、俳優、マンガ家など、37人に依頼して、忘れられない贈り物についてエッセイを綴ってもらった。その37編がまとめられた豪華な一冊。とても読みやすく、リラックスした読書がしたいときにはぴったりの一冊とも言える。楽しいエピソードもあれば、ぐっと胸にくるエピソードもある。次々と読み進めていくうち、誰かに何かを贈ることとは、相手の記憶に残ることにもなると気づく。重要なポイントは、この書籍自体が素晴らしい贈り物になるという仕掛け。美しい造りで、書店でも目を引くのではないだろうか。コンパクトだが、手に馴染むサイズ感。美しい装幀、読みやすいページ。そしてなにより、各エッセイのちょうどよい長さが心地よい。誰かに何かを贈りたくなったら、本書はいかがだろうか。私だったら、本書と小さな箱入りのチョコレートをセットで贈る。そんな気持ちにさせる一冊だ。
文芸/エッセイ
贈り物にぴったり度
★★★★★

本間 悠
ほんま・はるか●1979年生まれ、佐賀市在住。書店店長。明林堂書店南佐賀店やうなぎBOOKSで勤務し、現在は佐賀之書店の店長を務める。バラエティ書店員として書評執筆やラジオパーソナリティなどマルチに活躍の幅を広げている。

2025年最凶本は「家族」の意味を問う衝撃作
恐ろしいのに読む手が止まらない。
2011年に発覚した尼崎連続変死事件を基にしたフィクションである。主犯・夜戸瑠璃子や共犯者の生い立ち、彼女が実際に被害者を取り込んでいく手口、そして事件発覚後に明らかになる生き地獄の全貌……数十年間の歳月を、時系列や語り手を変えながらつぎはぐような構成は、彼女に蹂躙された被害者の恐怖や苦しみをより一層際立たせ、その根深さに絶望する。
どうすれば逃げられたのかと被害者が悔恨する場面があるが、出会った時点で脱出不可能と思ってしまう。自分はいつまで正気を保っていられるだろうか。こんな怪物には生涯出会いませんようにと祈るしかない。
「人はもらったものしか与えられない」と共犯者の一人が語る。だとしたら、私は私の家族に何を与えられただろう。そして受け取った彼らは、誰に何をどんな形で与えるのだろう。本を閉じた今も、「家族」に囚われている。
文芸/小説
相関図で絶望したの初めて度
★★★★★

好きな人を笑わせたい…! 堅物大学生がM-1に挑む
京都の国立大学で言語学の研究に勤しむ耕助は、同じアパートの百合子さんに片思いをしている。そんな百合子さんが「お笑い」好きで、とある学生漫才コンビのファンだと知った彼は、幼馴染とコンビを組んでM-1を目指す。タイトル通り、耕助には“笑い”がわからない。どうやったら人を笑わせられるのか、そもそも漫才がフィクションであることも知らなかったのに「M-1優勝」を条件に百合子さんに賭けを持ち掛けるのだから、若気の至りとはまさにこのこと。優勝って!!
不純な動機で漫才を始めた耕助だが、持ち前の研究熱心さでもって、かなりユニークな角度から漫才の世界にのめりこんでいく。言語学の知識を詰め込んだ彼のネタは最後までちんぷんかんぷんで、痛々しくて、不思議とおかしい。呼び込みを合図にマイクの前に駆け出して、光に包まれる興奮……読んでいるこちらの頬までが熱くなる、確かな臨場感が味わえた。
文芸/小説
お笑い観劇がしたくなる度
★★★★★

渡辺祐真
わたなべ・すけざね●1992年生まれ、東京都出身。2021年から文筆家、書評家、書評系YouTuberとして活動。ラジオなどの各種メディア出演、トークイベント、書店でのブックフェアなども手掛ける。著書に『物語のカギ』がある。

熊と中華の美術史的な共通項とは
熊と中華、いま日本はこの二つの脅威に晒されている。本書を読むと、この二つにはマニエリスムという共通項が見出される。マニエリスムとは狭義では、16世紀のイタリアを中心に興った美術潮流を指す。奇妙なまでのデフォルメ、相反する要素の結合などを特徴とする。一方広義では、16世紀以外のヨーロッパ世界に普遍的に現れるそうした誇張や綺想を指し、シュールレアリスムなどが具体例として挙げられる。
本書は東アジアにもマニエリスム的な発想があるという大胆な見立てを打ち出す。東アジアでは中国王朝との冊封体制が敷かれ、中華への同化と自国文化の維持を共存させたいところに、異文化を結合するマニエリスムが現れた。その具体例として、中華趣味が垣間見える大猷院、そして脅威と神聖さを兼ね備えた熊を挙げる。東アジア圏の壮大さにクラクラしてほしい。
論考/美術史
中国・韓国に行きたくなる度
★★★★★

自然との付き合い方を根本から考える
我々は暮らしの中で自然環境に影響を与えている。中でも地球温暖化や環境汚染などの負の側面が顕在化し、SDGsが叫ばれるようになってきた。本書で提唱されるのは「拡張生態系」という考え方だ。環境保護というと、自然に対して距離を置くことが強調されがちだが、拡張生態系は反対に、科学技術を生態系の可能性を広げるために適切に活用していこうというもの。
その実践として挙げられているのが、シネコカルチャーだ。耕したり肥料を与えたりといった直接の関与はしないが、その代わり、植物たちが自分たちで生きていくのに最適な環境を整える農法のこと。だが言うは易しで、その最適とは何かが曲者だ。本書は理論と実践の両面から詳しく検討されている。いかに環境という概念が広いかが明らかにされ、翻って、我々がいかに環境によって生かされているのかも分かる。人間中心的に狭窄した視野も拡張されるはずだ。
技術/農業
自然を見る目が変わる度
★★★★★

前田裕太
まえだ・ゆうた●1992年生まれ、神奈川県出身。芸人。高岸宏行とともにお笑いコンビ・ティモンディを結成。数々のバラエティ番組に出演し活躍。著書に『自意識のラストダンス』がある。

食の観点から綴られる豊臣兄弟の逸話
本作では豊臣家の兄弟である秀吉と秀長の命運が描かれている。名家である豊臣家を扱う作品は多々あるが、ここで注目すべきは大角与左衛門という実在した人物を主人公に置いている点である。大坂城で台所頭を務めていた大角にフォーカスを当てながら、豊臣家の繁栄を、料理を通じて描いている。
食欲をそそり、かつ局面を一変させる品々が随所に登場する本書では、一章「喧嘩飯」から六章「契り飯」までは秀長、七章は秀吉、八章は秀頼が語り手を務め、彼らの死を包丁人・大角は独り生き残り、見届ける。
私が読んでいて思ったのは、戦国時代に焦点を当てた料理の数々が異常に美味しそうだということだ。特に本作に出てくる泥鰌の味噌鍋は読んでいるだけで食欲がそそられる。こちらの食欲を掻き立てる料理と共に豊臣家の話が進んでいく様を、是非とも見届けていただきたい。
文芸/歴史小説
お腹の空く歴史小説度
★★★★★

図解で分かりやすい読みやすいミステリー
本作は「変な」シリーズで謎解きに欠かせない設計士の栗原という人物が大学生の頃に、既に亡くなっていた祖母の家から見つかった地図を手掛かりに、ある地域で謎を解いていくミステリーである。祖母の死の原因、古地図の謎、描かれた妖怪らしきものの正体など、次々と出てくる謎。雨穴さんのシリーズ特有の不穏な雰囲気が作品全体を覆っていて、ページを繰る手が止まらない。
本作は地図などの挿絵が多いため状況が分かりやすく、理解を手助けしてくれる構成になっているのでとても読みやすい。
私は、栗原さんのお父さんの「わからずやの社会に自分を合わせないと生きていけないんだ。時には、相手が望む人間を演じることだって必要だ」という言葉が印象に残った。
散りばめられた伏線の回収も見事なので、読書初心者にも手に取って欲しい作品である。
文芸/小説
初心者でも読みやすい度
★★★★★
