好きになるひとは全員「犯人」――阿津川辰海が描く、幼馴染男女のラブコメ×どんでん返しの本格ミステリ!【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/2/5

犯人はキミが好きなひと
犯人はキミが好きなひと(阿津川辰海 / ポプラ社)

 悪女には、悪女だけがまとう独特の空気がある。「好きになった相手が、事件の犯人だった」という悲恋は刑事ドラマでおなじみだが、もし百発百中で悪女に引き寄せられる男がいたとしたらどうだろう。美しくも影を帯びたその気配になぜかいつも惹かれてしまう。そんなセンサーをもつ人物がいるなら、名探偵顔負け。どんな事件もあっという間に解決してしまいそうだが……。

犯人はキミが好きなひと』(ポプラ社)は、悪女に惹かれる「特異体質」をもつ男子学生と、名探偵になりたい女子学生のラブコメ×どんでん返しミステリ。新進気鋭の作家・阿津川辰海氏によるこの本格ミステリは、予想外の展開に何度も驚かされる。

 主人公は、名探偵を志す女子・瀧花林(たき・かりん)。彼女の幼馴染である幣原隆一郎(しではら・りゅういちろう)は、花林いわく「女の趣味が悪い」。隆一郎が誰かを好きになると、その相手は給食費を盗んだ犯人だったり、常習的な万引き犯だったりする。隆一郎は、罪を犯した人、あるいは犯そうとしている人の気配を感じ取り惹かれてしまう。隆一郎の特異体質をヒントに、花林は事件の謎を追っていく。

 隆一郎はいつだって犯人に恋をする。そのセンサーに間違いは一度たりともない。「犯人がすぐ分かるなら、事件もすぐ解決してしまうのでは」と思うかもしれないが、そう簡単にはいかない。分かるのはあくまで「誰が怪しいか」まで。事件の核心である「どうやって起きたのか」は、推理で解き明かさなければならない。死者が遺した意味深なダイイングメッセージ。切り崩せない完璧なアリバイ。差出人不明のラブレター。消えた遺体。――花林は、隆一郎のセンサーからヒントをもらいつつも、それに頼り切ることなく、それぞれの事件の真相を探る。解き明かされるトリックはなんとも魅力的。犯人がすでに分かっているはずなのに、だからこそ、意外な真実に驚かされる。

 犯人を指し示すセンサーがいくら正確だからといって、その持ち主が素直に教えてくれるとも限らない。名探偵を目指す花林にとって、隆一郎はこの上なく優秀なセンサーだが、決して優秀な助手とはいえないのである。それはそうだろう。隆一郎からすれば、花林は疫病神。誰かを好きになれば、その人物が犯した罪を花林が暴いてしまうのだから、花林を煙たがるのは当然のこと。隆一郎は次第に好きになった人の存在を隠すようになり、ときに相手をかばい、花林に嘘までつく。隆一郎は何を隠しているのか。それに花林は惑わされずに済むのか。ふたりの心理戦は見ものだ。

「お前が謎を解くと、決まって俺は相手と引き裂かれる。お前は俺にとって、失恋の悪魔――いや、失恋名探偵だ!」

 そして、気づけば、事件の行方以上に花林と隆一郎の関係が気になってくる。花林は名探偵を目指すがゆえに隆一郎のセンサーに執着しているが、本当にそれだけなのか。そこには本人も気づかない思いがあるのではないか。どうしたって読み手の私たちは邪推せずにはいられない。やがて高校に進学すると、隆一郎に恋焦がれる同級生も現れ、花林の心は揺れ動く。もどかしいふたりの関係にヤキモキさせられっぱなし。事件の果て、幼馴染のふたりの関係はどう変わっていくのだろう。

 この作品は、本格ミステリとして、そして、もどかしいラブコメとして、私たちの胸を高鳴らせてくれる。意外な真実にハッと驚かされたかと思えば、事件が解決するたびに変わっていくふたりの距離に、たまらなく歯がゆい気分に。そんな新感覚の本格ミステリ×ラブコメを、ぜひともあなたも体感してみてほしい。

文=アサトーミナミ

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