屋敷を彷徨う少女の亡霊…幽霊退治を目論む少年が辿り着いてしまった“我が家の秘密”とは――?『タラニス 死の神の湿った森』
公開日:2022/9/27

作家・内藤了氏が生み出した「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」シリーズ(KADOKAWA)は、2016年にドラマ化もされた、人気サスペンス小説。人間の心の中にある闇の深さを考えさせられる本シリーズに魅了された人は多い。
そんな同シリーズを好む人にぜひ手に取ってほしいのが『タラニス 死の神の湿った森』(KADOKAWA)。本作は、「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」シリーズに登場する法医昆虫学者ジョージの少年時代が明かされる、ホラーミステリー小説だ。
もちろん本作単体でも楽しめるので、シリーズ作を読んだことがない人にもおすすめの、ゾクっとできる1冊となっている。
無残な死を遂げた少女の亡霊が出る「タラニス屋敷」。そこに隠された衝撃の“秘密”とは…?
鉱山を経営する父が購入した「タラニス屋敷」で暮らす、ジョージ・クリストファー・ツェルニーン。彼は兄のアルフレッドと共に、家政婦のミツコが語ってくれる怖い話を聞くのが好きだ。
ある夜、2人はミツコから自分たちが住んでいるタラニス屋敷に関する“秘密”を聞く。今からする話は、誰にも語ってはならない。そう前置きし、ミツコが語り始めたのは屋敷に蔓延る呪いの話。
実はかつて、メリッサという少女が子どもを食べる「死の神」に捕まえられ、屋敷のかまどで生きたまま焼かれたそう。死の神は、タラニスという名前。その神が少女を燃やした屋敷だから、ここはタラニス屋敷と呼ばれている。
そして、誰にも助けてもらえなかったメリッサは自身が燃やされたかまどがある「死者の間」で幽霊となって彷徨い続けており、目が合った人を、かまどの向こうにある死の国に連れて行き、苦しみを分け与える。だから、あの部屋には近づいてはいけないのだ、と――。
そんなミツコの話を聞き、ジョージは怖くなった。屋敷の廃墟部分である「死者の間」への立ち入りはもともと禁じられていたが、絶対に近寄らないでおこうと改めて心に誓う。
ところが、兄のアルフレッドは違ったよう。出産のために入院している母が、産まれてきた赤ん坊と家に帰ってきた時に渡すプレゼントを探しに死者の間へ行こうと言い出す。
ジョージは躊躇ったが、喜ぶ妹の姿を想像し、その提案に乗ることに。こうして2人は誰にも内緒で、死者の間へ足を踏み入れた。
すると、死者の間には鍵がかかっていて開けられない秘密の扉が。それを無理やりこじ開けたことで、ジョージは夜な夜なメリッサの亡霊を見るようになってしまう。
また、屋敷内ではメリッサの呪いだと感じられるような現象や不幸が続々と発生。メリッサを退治して呪いを解かなければ…と考えた2人は、幽霊の住処を探すことにした。
だが、その先で目にすることとなったのは、屋敷に隠された“本当の秘密”。
呪いは確かに生きていて、タラニス屋敷を包んできたのだ。
そんな恐怖を抱いたジョージは一体、どんな真実を知ってしまったのか…。
メリッサに立ち向かおうとするジョージの冒険にハラハラドキドキさせられる本作は、なぜかアルフレッドに冷たく当たり、異常なまでにジョージを溺愛する母との歪な親子関係にもゾクリとさせられる。
そして、何かを隠しているような使用人たちに抱いていた小さな違和感の正体が明らかになった時、予想外の恐怖が読者を襲う。屋敷にある呪いの正体を知ると、あなたもきっと再度、プロローグへと手が伸びるはずだ。
なお、本作に登場するジョージの主な活躍は「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」シリーズのスピンオフ作品『パンドラ 猟奇犯罪検死官・石上妙子』で楽しむことができるので、読後にそちらを手に取るのもおすすめ。
関連作品もチェックし、描かれている恐怖だけでなく、ジョージというキャラクターの奥深さを噛みしめてほしい。
文=古川諭香