毒親も横暴な教師も撃退! 小さな大天才が繰り広げる痛快な仕返し物語

文芸・カルチャー

公開日:2022/10/1

マチルダは小さな大天才
マチルダは小さな大天才』(ロアルド・ダール/評論社)

 生きていると、時折どうしようもなくタチの悪い人間や、いくら頑張っても分かり合えない人たちがいる。それが関わらなくてもいい相手なら遠ざければいいが、時としてそうはいかない状況も発生する。ましてやそれが、両親や学校の先生だったら――。

マチルダは小さな大天才』(ロアルド・ダール/評論社)は、1人の小さな少女が、そんな逆境や理不尽に立ち向かう物語。著者であるロアルド・ダールは、2005年に映画化され話題となった『チャーリーとチョコレート工場』などを手掛けるイギリスの小説家。

 本作品の主人公は、3歳になる前に字が読めるようになり、4歳で有名な文学作品を読みこなす天才少女、マチルダ・ワームウッド。マチルダは、自動車売買業を営むワームウッド家の娘として何不自由ない生活を送っていた。しかし、この家には大きな問題があった。それは、父親であるミスター・ワームウッドはとんでもない詐欺師で、母親はテレビとビンゴにしか興味がない愚かな夫妻であったこと。そして何より、マチルダを「物知らずのチビのばか」と、ことあるごとに罵倒する、彼女の才能に気づかず見向きもしない親だということだ。

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 マチルダは、そんな両親の自分への扱いにずっと憤りを感じていたが、ある日こっそり通い始めた図書館で読んだ本をきっかけに、特に自分への風当たりが強い父親への仕返しをしようと思い立つ。ここから彼女の、悪い大人たちへの仕返しという頭脳戦が始まっていく。そしてマチルダの仕返しの才能は、傲慢で残忍な女校長ミス・トランチブルに出会ったことで一層開花することとなる――。

 マチルダ自身は聡明で、普段は悪さなんてしない優しい女の子だ。なのに、彼女の頭の良さを理解できない大人から「風変わり」「頭のおかしな子」と言われ、ことあるごとに罵られ、悪事の犯人だと思われてしまう。幼い子どもが大人に抗うことは難しく、普通の子どもであれば泣き寝入りするしかない。だが、こうした立場を悪用するような理不尽は、実際に現実社会のあちこちで横行している。そしてそれは、大人同士であっても起こり得る。

 マチルダの担任の先生である心優しいミス・ハニーもまた、とある事情からずっと校長先生に虐げられてきた。彼女は校長先生の搾取のせいで、普通に働いているにもかかわらずとんでもなく貧しい生活を送っていたのだ。マチルダがこれを知る直前、なんと彼女は校長先生に仕返しをしたいあまり超能力を発動できるようになっていた。そしてミス・ハニーへの仕打ちを知り、その芽生えた不思議な力と頭脳を使って、校長先生を退職へと追い込んでいく。

 筆者がこの物語を最初に読んだのは恐らく中学生のときだったと思うが、当時このすがすがしいまでの仕返し、今で言う“ざまぁ”展開に衝撃を受けた。普通の児童書なら、何だかんだで「仕返しはよくない」と我慢を強いるものだが、本書では実際に校長先生を追い出し、それが正義として描かれる。また、マチルダの両親に対しての仕返しも「賢い対応」だと評価されるのだ。この「やられっぱなしじゃなくていい」という展開は、毒親やいじめっ子、横暴な先生の餌食になっている子どもにどれだけの救いを与えることだろう。

 こうしたシリアスさを孕みながらも予想の斜め上をいく痛快な展開は、ダールの「児童文学はまず、面白くなくてはいけない」という持論に基づいているのだろう。しかもラストでは、そんな中でも一層衝撃を受ける結末を迎えることとなる。筆者も本稿を書くにあたって久々に読み返したが、大人になった今読んでも驚くくらいに面白く、あっという間に物語に引き込まれてしまった。

 理不尽にぶち当たったとき、何かと戦わなければならないとき、勇気がほしいとき、きっと本書は踏み出す力をくれるはず。筆者も、マチルダのように運命は行動によって変えられるのだということを頭に置いて、これからも積極的に楽しい道を探していきたい。

文=月乃雫