2022年本屋大賞『同志少女よ、敵を撃て』装画担当・雪下まゆに聞く創作論。「社会への違和感」を抱えた主人公の絵の魅力
公開日:2023/9/2
絵以外の仕事が、また絵に還元される
――DJのほか、ファッションのお仕事もされてますよね。すごく活動が幅広いです。
雪下:ファッションブランドを立ち上げ、デザイナーをしています。最初は「自分には絵しかない」みたいな気持ちでいたんですが、だんだんそれが息苦しくなって…。洋服やDJ、文章を書くなど、新しい経験を積んだところ新鮮な空気が自分の中に入ってきたような感じで。さらにそれが「また絵を描きたい」という前向きな気持ちにもつながることに気がついたので、やりたいことはやってみることにしています。
――さらにご自身の作品作りも?
雪下:ちかごろ「AIに絵を盗まれる」などと言われますが、私の絵もきっと学習されているはずで、はじめは不安な気持ちになりました。ですが、とてつもないスピードで進む時代に逆らうのではなく、あえて新しい技術をツールとして使って作品に取り込んでいこうという考え方にシフトすることにしています。最近は3Dを学びはじめて、それを絵に活かす制作をしています。AIの描く絵の技術が高まりそれが普通の日常になった時、原始的な手法で人間が描いた作品の価値もまたさらに高くなっていくのではと思っているので、流れに身を任せて新しい作品を作っていくつもりです。
――あらためて「絵」だから表現できること、ってどんなことでしょう。
雪下:絵は小さいころから息をするように描いてきたのですごく自然なものなんですけど、絵を描いてきたからこそ、出会えた人たちがいるし、出会えた仕事もあるし、洋服のデザインやDJという経験をすることができている。まさに「絵で作られてきた人生」なんですね。なので、そういう絵によってもたらされたものを再び絵に還元していくサイクルがこれからもずっと続くといいなと。

――最後に雪下さんにとっての「本」とは?
雪下:「なんで生きているんだろう」とか「なんで宇宙はあるんだろう」とか小学生のときからモヤモヤ考えてきたんですが、まったく同じ悩みを考えて研究しているえらい先生たちがいっぱいいるっていうことを本が教えてくれて。だから本は自分にとって「安心材料」みたいな存在なんです。さらにお仕事の面でいえば、本は、普段絵にあまり関心のない人でも、自分の絵を見てもらえるきっかけにもなってくれる。すごくいいなと思います。

撮影協力●まちなか
雪下さんの行きつけでもある、下北沢南口商店街内にあるおしゃれな中華料理店。看板メニューは餃子。席は中華らしい円卓以外にも、4名掛け席やカウンター席なども。
住所:東京都世田谷区北沢2-13-5 2F
TEL:03-5787-5561
営業時間:17:00~25:00