夏目漱石の名著の謎に迫る 「ビブリア古書堂」新シリーズ第4弾! 昭和・平成・令和と時代を超えて受け継がれる想いとは?

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/23

ビブリア古書堂の事件手帖IV ~扉子たちと継がれる道~
ビブリア古書堂の事件手帖IV ~扉子たちと継がれる道~』(三上延/メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 鎌倉有数の資産家が開催するガーデンパーティーに招かれたビブリア古書堂の一族。店主・栞子。その娘・扉子。そして栞子の母・智恵子。祖母、娘、孫娘の三人が一堂に会したとき、鎌倉の歴史にまつわる古書の謎がひもとかれる――。

 北鎌倉の古書店を舞台に、卓越した本の知識と頭脳をもつ店主が、様々な客の持ち込む古書の謎と秘密を解き明かす大人気シリーズ「ビブリア古書堂の事件手帖」。栞子とその夫、大輔の間に生まれた扉子を主人公にしたシーズン2の第4弾『ビブリア古書堂の事件手帖IV ~扉子たちと継がれる道~』(三上延/メディアワークス文庫/KADOKAWA)が発売された。

 高校生に成長した扉子は、母以上に本に詳しくミステリアスな魅力を放つ祖母の智恵子に興味津々。油断ならない母親、智恵子と一応は和解しつつも、今なお警戒を怠らない栞子。孫である扉子を、自分の後継者に育て上げようと目論む智恵子。こうした関係にあるビブリア古書堂の女性たちが今回遭遇するのは、舞台となる地、鎌倉にかつて存在していた貸本屋「鎌倉文庫」だ。

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 これは太平洋戦争末期の1945年に、鎌倉在住の文士たちが各人の蔵書を持ち寄って始めたもの。貴重な書物も多数あったが、それら貸出本の大半は現在は行方不明となっている。その事実を踏まえて、扉子、栞子、智恵子がそれぞれ17歳のときに鎌倉文庫と遭遇するエピソードが展開される。

 また、シーズン1の第1巻以来となる夏目漱石を取り上げている点にも注目したい。それも日本近代文学を代表する“文豪”としての漱石という観点からだけでなく、欠点も限界もあるひとりの“人間”として捉えている点が興味深い。

 第一話の令和編では、散逸した鎌倉文庫の中の一冊、夏目漱石の初期作品集『鶉籠』が登場。子どもの頃からの親友、圭の大伯父が所有しているその本の出どころを調べるうち、扉子は圭と仲たがいしてしまう……。知識というものは人の心を傷つける諸刃の剣ともなることを学びつつある扉子の成長も、垣間見える。

 続く第二話は夏目漱石の『道草』に焦点を当てた昭和編。ビブリア古書堂の前店主であった栞子の父・登の視点から、店の常連客だった智恵子との出会いと、彼女と共に鎌倉文庫の謎を追う物語が綴られる。

 ミステリやビブリオ要素ももちろんだが、ある意味で今回最大の読みどころは、智恵子の過去が初めて詳細に描かれていることだろう。これまでずっと彼女は“悪い人間”という立ち位置だった。本のために家族を捨てて出奔し、本のためならどんな悪辣な行為にも手を染める、常軌を逸したところがある。

 だが若き日の登の目には、常人離れしていながらもどこか危うさのある少女として映る。昼食代で本を買って空腹を抱える智恵子に、登がインスタントラーメンを振る舞うくだりが、なんとも微笑ましい。

 そして第三話、平成編では十代の栞子が主役を務める。鎌倉文庫に執着していた成金紳士から、『吾輩ハ猫デアル』初版本にちなんだ依頼を受けるのだが……。ここでは智恵子はすでに家を出ており、残された登と娘たち(特に幼い妹・文香の健気さ)の喪失感が胸を打つ。

 母と娘、そのまた娘の世代を超えたドラマとしても、いよいよ広がりを見せてきた本シリーズ。それぞれに個性的なビブリア古書堂の3人の女性たちの活躍を、ぜひ見守ってほしい。

文=皆川ちか

◆『ビブリア古書堂の事件手帖 IV ~扉子たちと継がれる道~』詳細ページ
https://biblia.jp/