芥川においてけぼりにされた百閒は何を思うのか『百鬼園事件帖』三上延インタビュー
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年11月号からの転載です。
「内田百閒事件帖があったら面白いですよね」。飲みの席での編集者のそんな一言から、三上さんの最新作『百鬼園事件帖』は始まったという。内田百閒は、三上さんの大好きな作家だ。「ビブリア古書堂」シリーズの第8作『ビブリア古書堂の事件手帖〜扉子と不思議な客人たち〜』にもその短編『王様の背中』が登場する。
取材・文=松井美緒 写真=TOWA
「百閒は高校の頃から熱心に読んでいました。とくに『冥途』や『旅順入城式』などの怪奇ものが好きでした。百閒は名文家としてもよく知られています。物事の気配や何か起こったときに比喩、そういう表現が非常に上手いんです。自分が作家になるときにも影響を受けました。というか、こんなふうに書けたらいいなと思います」 『百鬼園事件帖』の舞台は、昭和6年冬から8年春までの東京。大学生・甘木は、神楽坂の「不純喫茶・千鳥」で、彼の通う私大のドイツ語教授だった百閒と出会う。背広がもたらす不思議な夢(第1話「背広」)、千鳥の謎の女給と人語をしゃべる猫(第2話「猫」)……二人が遭遇する…