矢部太郎をバッドボーイズ清人が故郷・志賀島を案内して回る。おじさん2人旅は新作漫画のヒントを彼らに与えたのか!? 【紀行&対談】(後編)
更新日:2024/12/30
お笑い活動をしながら漫画も描くという芸人ではとても珍しい共通点を持つ同期芸人の矢部太郎とバッドボーイズ清人。そんな2人が旅に出て、新作漫画のテーマを探すというのが今回の企画。
後編は、清人が芸人になるまで過ごした志賀島へ行き、海のスケッチ&思い出の地巡り。果たして新作のテーマは見つかったのか!?
コミックエッセイ旅・福岡編2日目①
清人が生まれ育った志賀島で海を描き、実家跡地を訪ねる
2人旅2日目は、清人が目の不自由なおばあちゃんと、その息子たち3人と奇妙な共同生活を送った(詳しくはコミックエッセイ『おばあちゃんこ』)故郷・志賀島へ。
レンタカーの車中では、かつてバラエティ番組『エンタの神様』で矢部太郎が先輩芸人・鉄拳を模した「せっけん」なるキャラクターをやらされていた件などで盛り上がりつつ向かったのは勝馬海水浴場。この海岸は、高校時代の清人がバイクで通った思い出の場所だ。当時住んでいた家も目の前が海だったが、対岸に広がる福岡市街はあまりに眩しくまた現実を突きつける風景だった。
ずっと貧しく明るい未来が見えない現状に息が詰まると、人が少なく、船もあまり通らず人工物が視界に入らない、勝馬海水浴場の広い海を見に行ったのだという。ここでの目的は「スケッチ」。風光明媚なこの海を真剣に描く……はずだったが、前日の山下清展の余韻の残る2人の作品はというと……。この後のインタビューでなぜ「写生」について真剣に語っているのか、謎である。

次に向かったのは、清人が幼少時から芸人になるまで暮らした家。「2019年に老朽化がひどすぎて取り壊されました。ま、当時から人が住めるような場所じゃなかったんですけど」(清人談)、ということで正確には旧清人邸跡地を訪ねたわけである。清人も通った西戸崎保育園の前で車を降りる。この奥にあった家からおばあちゃんは壁伝いに清人を迎えにくるのだが、目の不自由なおばあちゃんにとってその数十メートルの距離は果てしなく遠く、電柱にぶつかりケガをしたり時には迷子になってしまうこともあったそう。

そんなエピソードにしんみりしながら辿り着いた場所は……結構な草むら。そして海岸沿いというかもろ砂浜。波の音に癒される距離ではなく、波の音に苦しめられるほど海が近い。清人の昔話に矢部がツッコミを入れながら周囲をしばらく散策したが、笑い声に感傷が混じるのは致し方ないところ。
三たび車に乗り込んで、昼食に。「見た目的に食に興味のなさそうな矢部さんを僕の育ったグルメでもてなし、『こんなおいしいものを食べさせてくれてありがとう』とひれ伏せさせる」のが裏テーマだったという清人が、この旅最後の食事に選んだのは「中西食堂」。清人の同級生のおかあさんがやっているというこの食堂に清人が通い始めたのは芸人になってからで、最初はロケだったそう。なのに息子のように接してくれるこの店と人が、清人は大好きなのだという。不漁で数が少ないというサザエのつぼ焼きや丼などでもてなしていただき、元気をチャージして志賀島巡り最終章へ突入。移動の車中で、午前中の出来事を簡単に振り返ってもらった。
――本日の前半戦が終わりましたが、感じるものはありましたか?
矢部 『おばあちゃんこ』で描かれた、清人さんがかつて過ごした家を見れたのがうれしかったです。残念ながら建物は取り壊されて雑草が生い茂っていたけれど、海が想像よりはるかに近くていいところだったんだなって。僕も生まれてから住んだ家はもうないから、ちょっと思い出しちゃいましたね、裏にどぶ川が流れていたなとか……。
清人 年をとるといろんなものがなくなっていっちゃうからね。ちょっと寂しくなった?
矢部 寂しいとまでは思わないけど、景色って変わっていくものだなぁってしみじみはするよね。
清人 実家のすぐそばの、親父が一人になってから借りていた家も矢部さんに見てもらったじゃない?
矢部 ちょっとおしゃれな。
清人 あそこは親父が施設に入ってからも借りたままなんだけど、いつか漫画がヒットして予算ができたら買い取りたいと思ってるのよ。
矢部 何にするの? 大溝清人記念館みたいな?
清人 じゃないけど(笑)、時々こもって漫画を描いてもいいし。矢部さんも使っていいよ……というか、半分ずつ出して2人のアトリエにしようか?
矢部 え~⁉︎
――朝は勝馬海水浴場で絵を描きましたがいかがでしたか。
矢部 写生的に海を描くのは初めてだったんです。海自体は何度も描いてきたけど、漫画で描くときは画像検索して描いちゃいますよね。今日は、砂浜も海も空もよく見て描いたから、解像度が高かったんじゃないかなと。
清人 僕も学校を卒業して以来、写生するのは初かも。漫画では目の前のものを描くんじゃなくて、昔の思い出とか感情を込みで風景も描いてきたから、そのままを描くって発想がなかった。ましてや海はそこにあって当たり前のものだったから。だから目の前に海があってそれを描くのは、なんか新鮮だったな。
――お二人とも写生とかスケッチとか言ってますけど、違いますよね? 矢部さんの絵には実在しなかった子どもたちが砂浜を走ってますし、清人さんの絵にいたっては、タコとかサメとか描いてましたよね。
矢部・清人 ……。


――お二人が描かれるコミックエッセイって、実際にあった生活や出来事が主軸になるわけじゃないですか。漫画の中でも、ノンフィクション要素がかなり多いと言いますか。どれくらい、実際にあった風景や出来事を忠実に再現するものなんでしょうか。
清人 僕の場合は、腑に落ちるところまで記憶を辿っていくんです。そうすると忘れていた記憶とか情景が浮かんできたりするんです。それが重要な場面だったりしたら、ネットで画像を調べたり……。時々その風景がヒットしたりするんですが、僕の記憶とは違うこともあって。そこに折り合いをつけながら描いてます。リアルと思い出を照らし合わせながら描いていますね。
矢部 思い出したことを精密に再現しよう、ということは僕はないんですね。フィクションとしてある程度創作しているから、描きやすい舞台空間を自分で設計しています。実際の家はああだったけど、漫画として描くにはこういう間取りにして、こういう屋根で、こういう木が生えてて、って設計したものの中にはめ込んでいるから。描くときはそういう作業ですね。それとは別に「思い出す」という段階が一番最初にあって、自分の記憶をじっくり見つめます。そこからストーリーが浮かび上がって、そして描き始めるんです。
コミックエッセイ旅・福岡編2日目②
志賀島巡り後半戦 地元の人たちとの触れ合いから漫画のテーマを探す⁉︎
宿を出発した時には晴れ渡り、頑張ればTシャツ一枚でも過ごせそうな陽気だったのが、一変して冷たい冬の風が吹き始め、今にも雨が降り出しそう。そんな中、「矢部さんに会わせたい人がいる」と清人が言い出し向かった先は志賀島名物・金印ドッグで有名な「やすらぎ丸」。昼ごはんの直後にホットドッグかよ⁉︎ という矢部の心の声は届くことなく現地に到着。ここは清人の仲間が3人集まってそれぞれの店を構えているという志賀島唯一の複合施設(⁉︎)らしい。

「全部は食べられないよ、一口しか入らないかもよ⁉︎」と訴える矢部を無視して、清人おすすめのメニューを人数分注文し、席につく。そして、オーナーさんとご対面。この方は清人の小学校からの同級生で、なによりビックリしたのが、なんとバッドボーイズの元メンバーでもあったのだ。バッドボーイズがトリオだったとは知らなかった……。清人の当時のエピソードを面白おかしく話す術は、たしかにお達者。あっという間に時間は過ぎ、この旅最後の目的地に。ちなみに金印ドッグは、具材にイカフライとサイコロステーキを挟んだ唯一無二のもので、矢部は一口を余裕で超えて、半分食べました。
「ショップHIRO」では清人の中学の同級生で、清人が最も迷惑をかけたという元学級委員長の女性とそのご家族が出迎えてくれた。店に入るなり響き渡る矢部に向けられた黄色い歓声。満腹により車中では沈黙していた矢部に笑顔が戻る。ここでは、当時奇行を繰り返していた清人の様子と、そんな彼を締め上げてなんとか卒業に導くまでの学級委員長の苦労が語られたのだが、この店の皆さんはもちろん、この日出会った人たちに共通して言えるのは、「キャラが濃くて、めちゃくちゃしゃべる。でも気遣いが行き届いているからか誰もイヤな気分にならない」ということ。要するに、皆さん優しいのだ。清人の幼少時の同居人、かーぼ(実父)とマサおっちゃん(かーぼの兄)と30歳くらいの頃に飲みに来たこともあるという、一角に飲酒スペースもあるこの思い出の店では話が尽きず、飛行機にギリ間に合わないんじゃないか、というくらい居座ってしまった。

大慌てで車に乗り込み、福岡空港に向かう車中で、この旅最後のインタビュー。なお、清人はこの旅で見つけた漫画のテーマを掘り下げるべく、1人残ってロケハンをするらしい。
――全行程が終わりました。2日目後半はいかがでしたか?
矢部 清人さんの友達に今日いっぱい会えたわけですけど、行く先々、場所も素敵だったし人との関係性もいいな、と思いました。みんなが「清人さんは全然変わってない」って言ってて、最後に寄った「ショップHIRO」でも、清人さんのかつての同級生とそのご家族と、時間の経過を感じさせないようないい感じの掛け合いがあったじゃないですか。僕は地元の付き合いはもうほとんどないし、ここに行ったら誰かに会えるという場所もないから、少しうらやましく思いました。
清人 そんなことよりショップHIROでの矢部さん、あれなんだったの⁉︎ あなたが凱旋したのかってくらいキャーキャー言われて。「きれい、きれい!」って声かけられてまんざらでもない顔をしてたけどたけど、あなたは女優さんじゃないんだから(笑)。
矢部 僕のせい⁉︎ でも「きれい!」はパワーのあるワードでしたね(笑)
清人 失礼ながら今まで矢部さんを「きれい」と思って付き合ってこなかったんですけど、今後改めます。今日、地元の友達にたくさん会ってもらってわかったでしょ? 会うヤツ会うヤツ全部が佐田っぽいって。
矢部 全部が佐田っぽい⁉︎ どういうこと(笑)
清人 佐田種族の中に清人がひとりいる感じだったでしょ?
矢部 たしかに佐田さんみたいないじり方をみんながしてました!
清人 そうでしょ、みんなが佐田なんですよ。そして僕はその佐田族から佐田を選んで相方にして芸人になったんです。
矢部 でも図抜けて佐田さんは、佐田族の中でも佐田さんですね(笑)
――あっという間の2日でした。
清人 今回は僕の地元だったので、もっと矢部さんに見てほしいな、という場所がいっぱいあったんです。でもそうなると僕も矢部さんもゆっくりした性格だから。詰め込み過ぎるとパンクしちゃうんで。だからちょうどよかったです。
矢部 いつものテレビのロケに比べたら緩やかというか、話をする時間も程よくありましたしね。
清人 僕、芸人になって6年目に東京に出てきて矢部さんに初めて会ったんですけど、この20年くらいで一番いっぱいしゃべりましたもん。
矢部 10何年分をこの旅で超えましたよね。僕は福岡に来るまで清人さんに少しビビっているところがあったんですよ。なんたってバッドボーイズですから。でもそれは佐田さんだったんだということがこの旅でわかりました(笑)。バッドボーイズじゃなく、清人さんという人間のことがわかった気がします。
清人 僕ひとつめちゃくちゃ気付いたんです、矢部さんのことで。自分で言うのもあれですけど、みんなは僕のこと図太いというか「こいつ、なんにも考えてねーな」と思っているはずなんですよ。でも実はめっちゃ気を遣ってるんですよ、自分なりに。で、矢部さんはもっと気を遣う人なんですよ。そこがすごく似ているな、と思いました。
矢部 僕はなんにも気を遣ってないですよ。どこでそんなこと感じました?
清人 いや、気を遣ってる風だよ。金印ドッグも半分残してたし……。
矢部 あれは、昨日から食べ過ぎで、本当に食べられなくて半分残しちゃっただけで……。
清人 素直に満腹だっただけかよ! じゃ、全然似てない! でもなんか似てる気がするんだけど、どう? 矢部さんと比べるのはおこがましいけど、たとえば漫画家としてとか。
矢部 まだスケッチしたくらいで何も創作してないじゃない。だからわからないよ。
清人 おもしろくないくらい、矢部さんは想像通りの人でした。即答でしゃべる人ではなくて、頭の中で自問してからようやくしゃべりだす感じで。だから気を遣う人かな、って勘違いした。あまりに想像通りでまるで僕の創り出したキャラのようだと思いました。
矢部 僕はとにかく清人さんと一緒にいるのが楽だった。
清人 へー、今まで矢部さんに言われたことで一番うれしかった。矢部さん、言わないもんね、人が喜ぶこと。
矢部 旅って、険悪になりそうな雰囲気もありますけど、でも、清人さんとはそうはならなさそう。
――旅と創作、うまくいきそうですか?
矢部 1泊はインプットにはすごく効率がいいんです。たくさん刺激を受けました。でもアウトプットには短すぎる……。3泊くらいして夜に集中して描いたらいいものが生まれそうな気がしました。今はまだインプットだから。
清人 旅と創作は、めちゃくちゃ相性がいいし、間違いない。でも3泊だともうそれはカンヅメでしょ。僕は3泊もいたらかえって描けない。遊んじゃう。渾身の漫画を描くには、「環境」と「テーマ」と「僕自身の状態」が高得点でそろう必要があるな、ってこの旅で思ったんだけど……矢部さんとの旅は100点、テーマも100点、でも僕自身がもっと成長しないといけないんですよね。とはいえ、刺激を受け取りに近いうちに矢部さんとまた旅に行きたいしこの企画は続けていきたいね。
矢部 その前に僕はテーマを見つけないと……。
駆け足だったけれど、多くの刺激と感じるものをもたらしてくれた福岡漫画旅もついに終了。12月30日夜の放送(欄外参照)ではより詳細に現地での様子が観られるので、是非ご覧ください!次回(時期未定)もお楽しみに!
矢部清人の漫画旅~コミックエッセイ執筆物語~
12/30(月)22:00~23:00に放送! YouTubeの配信も!
今回の旅はBSよしもととの連動企画! ということで福岡に到着してからの、旅の全行程をより詳しく、笑いと学び満載でお送りする。山下清展での矢部太郎のハイテンションぶり、そして清人のコミックエッセイ『おばあちゃんこ』で描かれた志賀島の実家跡地ほか思い出の地巡りや現地の人たちとの触れ合いは必見だ。なお、再放送やYouTubeでの配信もあるので、見逃した方はそちらをどうぞ!
【BSよしもと】
https://bsy.co.jp/programs/by0000021510
12/30(月)22:00~23:00
(再放送)1/5(日)17:00~18:00【YouTube】
前編 12/30(月)23:00公開
【矢部清人の漫画旅】コミックエッセイを描くためにネタ探しの旅へ!【一泊二日福岡旅密着】1日目:天才画家 裸の大将 山下清展でインスパイア。
https://youtu.be/n06X_w6-vc8後編 12/31(火)18:00公開
【矢部清人の漫画旅】コミックエッセイを描くためにネタ探しの旅へ!【一泊二日福岡旅密着】2日目:「感慨深い」清人の地元巡り
https://youtu.be/kKmkUXfgpul