わが子に会えない、その時父は何を思うのか? ―下北沢B&Bトークイベント―

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

下北沢B&B

『わが子に会えない』(西牟田靖/PHP研究所) 2017年1月、ノンフィクション作家の西牟田靖さんが『わが子に会えない』(PHP研究所)を上梓しました。この本は、離婚によって自分の子どもに会えなくなった父親18人に取材した内容を収録したもの。なぜ彼らは会えなくなったのか。そして今、どういう人生を歩んでいるのか。

著者自身も子どもに会えなくなった当事者であることから、企画は出発しています。そんな西牟田さんが気になっている人物が同じノンフィクション作家の角幡唯介さん。彼も探検で、長く家を空けることが多いことから、西牟田さんは、家庭は大丈夫なのだろうかと心配します。そこで、西牟田さんが角幡さんに声をかけ、「家族」をテーマに、下北沢にある書店B&Bでイベントを行うことになりました。ふたりのノンフィクション作家の家庭の事情をあますことなく語り合ったイベント、ぜひお楽しみください!

角幡唯介(以下、角):今回、『わが子に会えない』という本のイベントを開くにあたって、なんで僕が呼ばれたかというと、西牟田さんが「こいつは探検ばっかりして、結婚して子どもができても毎年のようにいなくなってるのに、なんで別れないんだ?」ということに疑問を持たれたらしく…(笑)。

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西牟田靖(以下、西):失礼いたしました(笑)。

:「角幡さんとこはなんで大丈夫なんですか?」というメールがきて。僕も、実は幻冬舎の『小説幻冬』で、去年の秋から子どもに関してのエッセイを始めたんです。やっぱり子どもができるというのはものすごく…僕ももう40歳過ぎて、子どもが生まれたのが38歳ぐらいの時で、結構革命的に人生が変わったなという感じがあったんです。それで、西牟田さんから話をもらって、やっぱり子どものこと、なんか言いたいという気持ちがあったんです。では、西牟田さんにこの本の紹介を軽くしてもらえますか。

西:この『わが子に会えない』は、子どもに会えなくなった18人の父親のインタビュー集です。で、なんでこんな本を書こうと思ったのかというと、僕自身3年前の4月に離婚をして、それ以降1年半ぐらいは子どもに会えませんでした。そういう経験もあって、これライターの性みたいなもんですけども、何かやっぱりトラブルがあると、そのことについて知りたい、突き詰めたい、書きたい、発表したいという気持ちがむくむくと湧いてきて、それで自分自身のリハビリという気持ちでインタビューして、まとめたのがこの本です。

僕が、角幡さんに聞きたいことは、書いたり冒険したりという生き方を今後も続けていくのか。書くこと自体は別に命の危険そのものはないと思うんですけど、非難される可能性はある。探検に関しては、山登りがそうですけど、命の危険があるわけじゃないですか? まあ、だからこそ生きている実感が得られるということでもあると思うんですけど、そういうことをやりたいという気持ちと、できるだけ長生きして子どもが成長していく様子を見届けたいという気持ちとのバランスのとりかたってどんな感じなんですか? ちなみに今娘さんは何歳ですか?

:3歳と5ヶ月です。バランスは、最終的にはとれないと思いますけど、意識は確実に変わりましたね。やっぱり死にたくないという気持ちはものすごくて、特に子どもが生まれてから2年ぐらいはすっごい強かったです。それ、なぜなのかなと自分なりに考えたんですけど、やっぱり僕も40歳だし、なんとなく将来が見えているわけですよ、ある程度。これから自分の人生が激変することはないだろうと。いろいろ探検したり、書いたりとか、その時々でテーマは変わるだろうけど、基本的にはその路線で進んでいくわけじゃないですか。そう考えたら子どもの将来の方がやっぱ面白そうなんですよね。どうなるか分かんないから。

西:面白いですね、確かに。

:だからそういう意味で、子どもの将来を見られないっていうことに対して、死に対してのリアリティが出てきて、すごく安全になった。危険、リスクに対して今までどっちかと言ったら杜撰だったんですけど。長期の取材で家を空けていても、子どもの顔を見たら安心するんです。今回は北極から帰ってきて、3日間ぐらいベッタリだったんです。帰ってきてからしばらくは、「ちょっとランニングしてくるね」と言うだけで泣くんですよ。「行かないで~」「もう二度とはなれたくないって言ったのに~」と言って泣くんですよ。

西:え~! 本当!?

:それで、ウワ~ッて泣いて、でも「いや、俺は行くんだ」みたいな感じで(笑)、ランニングに出るんですよ。そうすると…手紙書いて待っていたりして。

西:娘さん?

:はい。うちの子どもは字が好きで、平仮名がもう書けるんですよ。

西:早いね。うちの子も早かったですけど、3歳では書いてない。

:字が結構好きで、字をもう覚えちゃって…それで「かなしいよ」「もうはなれたくないよ」「おとうちゃんだいすき 41さい」みたいなことも書いているんですよ(笑)。

西:41歳は余計ですけどね(笑)。

:そういうのを書いているぐらい、ベッタリなんですよね。それがパタリと、ある日止むんですよ。女子だから。もう飽きてるんですよね。

西:飽きる!?

:そう、僕がいるということに。帰ってきてから、子どもと会うのが久しぶりだから、もう可愛いから、寝る時も一緒に寝かしつけたりしていたんですけど、その日を境に「おとうちゃん、もうあっち行って」とかって言い出すんですよ。

西:あはは。でも、そんな杜撰で長期に家を空けても上手くいっているのは、やっぱり金銭というところでの、上手くいっている、奥さんも認めるみたいなところに繋がるんじゃないですか?

:それはあるかもしれないですね。

西:だから、僕は逆にそこが上手くいかなかったから結果的にダメだったってところは正直ある。角幡さんは前にお会いした時もお話ししましたけど、最初の本を出した時はもういきなり賞を総なめして売れてみたいな感じで。

:でも稼ぎが少なくなったらパートはしてくれとは言っていますよ。家にずっといても暇だから、うちの奥さんも。働きにはそのうち出たいとは思っているらしくて。

西:なんか、奥さんいた頃を思い出す…(笑)。

:僕も、わが子に会えなくなるかもしれないから…(笑)。

西:僕のようにならないように、ちゃんとマメに気をつけてあげていただければと思いますけど(笑)。

『わが子に会えない』のレビューはこちら

文=神田桂一 写真=内田和稔