2020年料理レシピ本大賞・こどもの本賞受賞の名作絵本『おにぎり』。おにぎりで育つやさしい気持ち
公開日:2020/10/14


ちょうどいい塩加減に、食べるとホロリとくずれるごはん。それを海苔がきっちりと包み込んで——。
「日本人でよかった!」と食べるたびに幸せな気分にしてくれる、おにぎり。そんなおにぎりが食べたくなる絵本、その名も『おにぎり』(平山英三:文、平山和子:絵/福音館書店)が、9月8日に発表された「第7回 料理レシピ本大賞 in Japan」でこどもの本賞を受賞しました。

この絵本には、おにぎりができあがるまでの工程が、一つひとつ丁寧に描かれています。できあがったおにぎりの絵に、のどがゴクリ。思わず、「いただきます」と食べるフリをした筆者の息子の気持ちがよくわかります。あまりにおいしそうで、吸い込まれるように手が出てしまうのです。
実際、この絵本をきっかけに、ごはんをたくさん食べられるようになったお子さんや、おにぎりが大好きになって親の代わりにおにぎりをにぎってくれるようになったお子さんもいるのだとか。

絵と文はとてもシンプル。ですが、その中にさまざまな発見があります。
お弁当におにぎりが並んでいる絵からはじまる本書。最後は「はい、どうぞ」とお弁当を手渡すところで締めくくられます。最初にお弁当の絵があるので、おにぎりをつくり、お弁当を手渡すまでの工程が回想のように感じられます。
おにぎりをにぎる“手”を見つめて、お弁当を受け取るのは、子どもの目線でしょうか。そんな目線を通して、この絵本を読む子どもにも、あのお弁当のおいしいおにぎりが、ごはんを炊いて、にぎって、海苔を巻いて、ようやくできあがっていることが伝わります。そこから、彼らは何を感じ取ってくれるのでしょうか。
各ページに登場する「手」にも注目です。熱いままのごはんをぎゅっとにぎっているうちに、指先や手のひらがほんのりと赤くなっています。にぎっている人の表情はひとつも描かれていませんが、子どもや家族のよろこぶ顔を思い浮かべながらにぎっている様子が伝わってくるようです。おにぎりがおいしい理由はきっと、「おいしく食べてほしい」という親の想いがあってこそ。おにぎりをにぎっているだけの描写ですが、そのなかにやさしい眼差しが感じられます。
この絵本を通して、子どもは親からの愛情を感じ取り、自身も愛情深い心を育ててくれるかもしれない、と感じました。
今だからこそ、おにぎりの温もりが心に沁みる絵本
この絵本は1981年(※)に描かれたもの。昔は当たり前につくられていたかもしれないおにぎりに、つくる人のありがたみを感じるのは、自分が親であることもそうですが、現代だからかもしれません。今はおにぎりをにぎらなくてもつくれる便利な道具があり、それでも十分においしくつくれますが、たまには手でにぎってみるのもいいし、たとえ道具を使ったとしても「おいしく食べてほしい」という愛情は持っていたいと感じました。
にぎったおにぎりの先には、食べてくれる人がいます。AIが台頭する時代だからこそ、昔と同じように、人の温もりが大切なのではないでしょうか。何度も読み返して、おにぎりのおいしさや、つくることの楽しさとともに、人に愛情を向けることの大切さを子どもに教えたいです。
文=吉田有希
※月刊絵本「こどものとも年少版」1981年6月号として刊行。その後、1992年にハードカバー化