Netflixグローバル・トップ10入りした話題作『金魚妻』。その原作の面白さとは
公開日:2022/4/23

日本ドラマが「Netflixグローバル・トップ10」に入った。美しい画風と丁寧に描かれるエロスが特徴的な漫画『金魚妻』(黒澤R/集英社)を原作とするこのドラマは、耽美的な映像、篠原涼子や長谷川京子といった豪華な女優陣、背徳的な不倫という題材でノスタルジックなロマンポルノの味わいも感じられる。
視聴者に感情移入をうながすため、ドラマでは浮気をする人妻の夫たちを共感できない人物として描写していることがわかるが、原作ではかならずしもそうではない。
たとえば原作第2話の「出前妻」のヒロインの夫は、優柔不断に見えるが、内心は妻と「死ぬまでいっしょにいたい」と考えている。彼は妻の浮気がわかったとき、とんでもない行動をとり読者を驚愕させる。一方で内面には妻への深い愛情があることが読者に明示されているため、彼をダメな男だと言い切るのは難しい。
原作漫画は、「不倫」という範疇を超えて、ときにはラブコメ、ときにはホラーの雰囲気をまとい描かれる。一話完結のエピソードもあれば、「金魚妻」のように1巻に1話入り、物語が続いていくエピソードもある。
最新の10巻では、死んだ父親の不倫相手を母に持つ大学生・佑樹が主人公の「絨毯妻」から始まる。佑樹は父の本妻だった紀恵に惹かれている。紀恵は佑樹が小学生のころから、汚部屋に住み忙しい毎日を送る佑樹の母のかわりにお弁当を作り、かわいがってくれていた。
彼女が絨毯屋を営み、「商談」という名目で何をしているのかがこのエピソードの要点になるのだが、作者は紀恵の背景も詳しく描く。彼女が佑樹にお弁当を作ったのは、彼女自身が忙しい両親のもとで育ち、遠足のときもお弁当を作ってもらえなかったからだ。自分がしてもらえなかったことを、彼女は佑樹にしている。
寂しさは心の中に空洞を作ることを、紀恵はよく知っている。なぜならその空洞からくる苦しみから逃れられず紀恵の兄は自ら命を絶ったからだ。
子供のころに空けてしまった心の穴を 塞ぐのは大変なのよ
紀恵の言葉は、佑樹と読者の心をつかんで離さない。
次のエピソード「金魚妻10」ではさくらの友人の優香がヒロインだ。男と女、それぞれの身勝手さが描かれ、後半では優香の身に衝撃的な出来事が起こる。
最後、彼女は飼っている金魚を見ながらさくらに言う。
人任せじゃダメな気がしてきた…
自分で原因を見つけて 解決しなきゃ…
自分の水槽だもん
この言葉に、優香のどのような決意がこめられているのかを想像すると、だんだんと読者にとっての物語として『金魚妻』の世界観が活きてくる。
多様な女性の生き方や考え方に触れられるのが『金魚妻』を読む醍醐味なのだ。
文=若林理央