瑞穂が中学から憧れていた早見先輩。勇気を出して想いを伝えると…/5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール②
更新日:2022/7/20
著:橘つばさ、桃戸ハル、絵:かとうれい著の小説『5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第2回です。全編、意外な結末で大人気の「5分後に意外な結末」シリーズ。今回は、恋と友情をテーマにした女子高生3人の青春ストーリーをお送りいたします。恋の悩みを抱えている人や恋愛真っ只中の人、感情移入したい人にぴったりの青春小説。『5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール』で、キュンとしたり、意外な結末にドキッと驚いたり、様々な感情をお楽しみください。瑞穂にはずっと憧れている先輩がいた。先輩と同じ高校に進学したが、瑞穂は思いを伝えるどころか、ひっそりと胸を高鳴らせているのが精一杯だった。紗月にアドバイスをもらい、ついに先輩に想いを伝えるが?

受験生の恋愛
瑞穂には、ずっと好きな人がいた。3年生の先輩、早見大輔だ。
じつをいうと、大輔は同じ中学の先輩でもあり、そのころから瑞穂は彼のことが気になっていた。バスケ部で活躍していた大輔は、校内ではちょっとした有名人で、ファンを自称する女子生徒たちが練習を見学するほどだった。
そんなに人気者なら、一度くらい見ておこうかな、と、中学に入学したばかりだった瑞穂は軽い気持ちで体育館をのぞき――そして、軽々とダンクシュートを決めて汗を光らせる大輔の姿に、一瞬で恋に落ちたのだ。
ただ、子どものころから内気だった瑞穂は、いつになっても大輔に話しかけることができなかった。たまに廊下ですれ違うたび、密かに胸を高鳴らせるのが精いっぱい。大輔が卒業したあとは、内気な自分を責め、やっぱり気持ちを伝えておけばよかった、と、どれだけ後悔したかわからない。
だから、瑞穂が自分の進学先を選ぶ時期になったとき、大輔の存在は、とても大きな要素になった。瑞穂は、大輔が進学したのと同じ高校を受験したのだ。合格できたのは恋するパワーのおかげだ、なんてことを思ったのは秘密である。
大輔は、高校でもバスケットボールを続けていた。そのことが嬉しくて、その姿を見たくて、瑞穂は何度も何度も、体育館へ足を運んだ。大輔のまわりには、いつも、中学のときと同じようにファンの女子生徒たちがいて、黄色い声を上げていた。ああいうふうに気持ちを声にできたらいいのに……とうらやましく思いながら、やはり瑞穂には――かつて後悔したにもかかわらず、ひっそりと胸を高鳴らせているのが精いっぱいだった。
瑞穂は、同じ中学から進学してきた友人の紗月に、大輔を好きだということを打ち明けた。紗月は、瑞穂から見ても「かわいい」女の子だ。男子にも積極的に話しかけるタイプなので、「気さくだ」「話しやすい」と人気がある。一方で、これは嫉妬の現れなのか、「男子にコビてる」などと言う女子も多い。
瑞穂としては、一度も、紗月をそんなふうに思ったことはなかった。実際に接してみるとわかるが、紗月は明るく、さっぱりした女の子で、「コビを売る」ようなタイプではないのだ。
だから、何かで悩んで相談すれば、紗月は自分の考えを聞かせてくれる。相手の顔色をうかがうということをしないぶん、紗月の言葉は「真剣に自分のことを思って言ってくれているんだな」と感じられて、素直に胸に入ってくるのだ。
それに、瑞穂の友人のなかでは、恋愛経験が一番豊富だ。大輔のことだって、相談すれば、またいいアドバイスをくれるかもしれない、と瑞穂は思った。
「そんなの、好きですって言うしかないじゃん」
瑞穂が自分の気持ちを話すと、紗月は、ためらいもなくそう言った。
「『恋愛は駆け引き』とかって言うけど、それって、経験値の高い人がやってこそ、成功率が上がるものだと思うんだよね。初心者がいきなり応用問題を解こうったってムリに決まってるんだから、まずは、ストレートに告白するしかないじゃない」
恋愛経験が豊富で、大学生の彼氏までいる紗月が言うのだから、そうなのかもしれない。瑞穂は友人の言葉を真摯に受けとめた。そして、どうしようかと2週間ほどかけてじっくり考えたあと、紗月の言うようにストレートに想いを伝えることにしたのである。
瑞穂は、部活の練習を終えた大輔が更衣室から出てくるのを待っていた。しばらくして、制服に着替えた大輔が、まだ暑そうにシャツの胸もとをパタパタさせながら瑞穂の前に現れた。
身長は、中学のときよりも10センチ以上伸びていて、たぶん180センチを超えている。半袖からのぞく腕にも、あのころより筋肉がムダなくついているのが、瑞穂の目から見てもわかった。さっぱり切られた前髪は、まだいくらか汗で額に張りついている。高校3年生になって受験をひかえた今も、バスケに対する姿勢は変わらないらしい。大学でも続けてほしいな、と瑞穂が思っていると、目の前を大輔が通り過ぎそうになった。
「はっ、早見先輩!」
瑞穂のあわてた声に気づいた大輔が瑞穂のほうに顔を向け、かすかに首をかたむけた。そんな何気ないしぐさにも、瑞穂の胸はキュンとしてしまう。鼓動がどんどん速くなっていくのを感じた瑞穂は、心臓が暴走を始める前に、大輔に話しかけた。
「せっ、先輩に……ちょっと、お話ししたいことが、あるんですけど……!」
「え……うん、いいけど」
答えた大輔が、ちらりと一瞬、目をよそに向ける。
もしかしたら、心の中をぜんぶ見すかされているんじゃ……。そう思うと、顔から火が出そうになる。けど、ここで引いちゃったら意味がない。瑞穂は、通学カバンを握る手にギュッと力をこめた。
言え。言うんだ、わたし。ここまできたんだから、ちゃんと気持ちを伝えるんだ。
「あ、あの……わたし、じつは中学のころから、早見先輩のことが、気に、なってて……」
「え……」
尻すぼみになった瑞穂の言葉に、大輔が目を丸くした。もう最後まで言うしかない。
「わたし、早見先輩のことが、好きです。だから……よかったら、わたしと付き合ってください!」
言ったあとは、大輔の顔を見ることができなかった。瑞穂は、ただただ目を伏せて、爆発しそうなほどに響いている自分の鼓動を聞いていた。
「ありがとう」
聞こえてきた大輔の静かな声に、ドクッとまたひとつ鼓動が跳ねる。おそるおそる顔を上げると、ひかえめに笑う大輔と目が合った。
ああ、きっと今の自分は顔が真っ赤だ。そう思うと恥ずかしいのに、今度は大輔の顔から目をそらすことができない。少しだけ目尻を下げて笑うこの顔も、中学のころから、ずっと瑞穂は見てきた。
「嬉しいよ。でも……返事は、ちょっと待ってもらえないかな」
「え……」
「少し、考えさせてほしいんだ。あっ、俺、今年、受験生だし……」
そのあと、自分がどう返答したのか、瑞穂は覚えていない。気づいたときには、駆け足で遠ざかってゆく大輔の背中を、ただ呆然と見送っていた。
思いきって告白したが、OKの返事はもらえなかった。でも、フラれたわけではない。「少し考えさせてほしい」ということは、可能性はゼロではないということだ。
極度の緊張が過ぎ去った解放感と、フラれなかったという安心感。それから、返事を保留にされたことへの新たな期待と不安とで、わけがわからなくなりそうになりながら、瑞穂は家路についた。
大輔から「話がある」と声をかけられたのは、それからちょうど1週間後だった。今日は、大輔のほうがどこか視線が落ち着かない様子だ。1週間前とまるで立場が逆転していることが、おかしい。こんなことになるなんて、瑞穂には予想できなかった。
「この前は、ありがとう。嬉しかったよ。それで、1週間じっくり考えたんだけど……」
どういう言葉が続くのか。瑞穂は静かに、そのときを待った。
「俺も、きみのこと、もっと知りたいなって思った。だから、なんていうか……この前、言ってくれたこと、OKだよ」
瑞穂は、決めていた。大輔から、もしもそう言われたときに、どう返事をするのかを。
すうっと息を吸いこんで、用意していた言葉を、ゆっくり伝える。
「ごめんなさい。お断りします」
大輔は、何を言われたのか理解できなかったらしい。豆鉄砲を食らったハトよりも、目をまん丸にした。
「……え?」
信じられない、と言いたげな様子で聞き返してきた大輔に、今度は満面の笑顔で、キッパリと告げる。
「この間の告白、なかったことにしてください」