瑞穂が中学から憧れていた早見先輩。勇気を出して想いを伝えると…/5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール②

文芸・カルチャー

更新日:2022/7/20

「なんで断っちゃったの!? みっちゃん、あんなに早見先輩のこと好きだったじゃない」

 すっとんきょうな声を上げたのは、話を聞いていた紗月だ。それを詩都花が「落ち着きなさいよ」となだめる。そんな2人を見ていた瑞穂は、ささやかな苦笑を浮かべた。

「好きだったけど、冷めちゃった。早見先輩、わたしが思ってたような人じゃなかったの」

「何かあったの?」

 エミの問いかけに、瑞穂は少し考えるそぶりを見せたが、やがて決意が固まったらしく、体を前にかたむけた。そんな瑞穂を見た紗月と詩都花とエミも、無意識のうちに身を乗り出す。屋上にできた少女たちの秘密の輪が、少し小さくなった。

「わたし、紗月以外にも、女子バスケ部に友だちがいるんだけど、じつは、その子からたまたま聞いちゃったの」

「何を?」

「早見先輩が、女子バスケ部の1年に告白してフラれたっていう話」

「えっ、どういうこと!?」

 声を上げたのは、またしても紗月だ。のけぞった紗月の腕をつかんで引き戻した詩都花が、輪の中心に向かって再び声をひそめる。

「それって、瑞穂が早見先輩に告白する前? あと?」

「告白した、あと。前だったら気にしないんだけど、あとだったからね。それに……」

「それに?」

「……告白してフラれた相手、1人だけじゃないんだって」

「えっ!?」

 瑞穂の言葉に、紗月と詩都花の声がぴったり重なった。

「もう1人、名前は言えないけど、女子バスケ部の2年生と、美術部の部長をやってる3年の先輩にも告白してフラれたって……」

「なにそれ……」

「早見ぃ! バスケ部の先輩だけど、みっちゃんに何してくれてんだ!」

「え、え、どういうこと?」

 どうやら、自分だけ状況を把握できていないらしいと悟ったエミが、不安げにほかの3人の顔をキョロキョロと見回す。詩都花は、「エミのこういう動きも小動物っぽいんだよね」などという場違いな考えはおくびにも出さず、「つまり、こういうことね」と解説口調で話し始めた。

「瑞穂に告白された早見先輩は、瑞穂への返事を保留にしておいて、別の女の子たちに告白したの。きっと、その1年のバスケ部員が早見先輩の本命で、その子にフラれたから、第2候補、第3候補に、次々と告白していったんじゃないかしら」

「つまり、早見は、みっちゃんを『キープ』して、この際だからって、自分が気になってる女子に告白したのよ。だけど全員にフラれたから、みっちゃんの告白をOKしたっていうわけ。3人のうちの誰かがOKしてたら、みっちゃんには、『ほかに好きな子がいるから、やっぱりきみとは付き合えない』とでも言って、断るつもりだったんでしょ」

「なにそれ、ひっどーい!」

 ようやく状況を理解したエミが、小さな拳を握りしめて頰をふくらませる。まったくだ、と言わんばかりに、紗月は腕を組んだ。

「ほんと、サイテー。いくら見た目がカッコよくて、スポーツ万能でも、その考え方、ぜんっぜんイケメンじゃない」

「紗月の言うとおりだわ。最初からだましてくるなんて、あり得ない。瑞穂には、もっと誠実で、まっすぐ向き合ってくれる人が似合うと思うよ」

 それぞれに憤る3人を前に、瑞穂の表情は先ほどよりもスッキリしていた。

「それでね、早見先輩のしたことを聞いたら、もう気持ちが冷めちゃって。だから、わたしから告白しておいてあれだけど、断ったの」

「早見に、ビシッと言ってやった?」

 眉をつり上げてそう尋ねたのは、今度も紗月だ。紗月の剣幕にタジタジになることもなく、瑞穂は今日一番の笑顔で「うん」とうなずいた。それから、ふいに真顔になる。冷たささえ感じさせるこの表情こそが、早見大輔に見せた表情なのだろう。

「『恋愛は受験じゃないんだから、第2希望も第3希望も、すべりどめもないよ!』って、言ってやった」

 紗月が、ぱちくり、と音が聞こえてきそうなまばたきをした。しばらくして、ふっとその唇がゆるみ、笑い声がもれてくる。

「いいね、みっちゃん! 『恋愛にすべりどめはない』って、名言だよ!」

 紗月の言葉を聞いた瑞穂の顔に、微笑みが戻った。

「わたし、ほんとは、自分のしたことが間違いだったんじゃないかって、ずっと不安だったの。好きだった人と付き合うチャンスだったし、先輩、二股をかけたわけでもないし……。だから、フッちゃってよかったのかなって、ずっと考えてたの。でも、紗月たちに話して、やっぱり自分のしたことは間違ってなかったって思えた」

「当たり前だよ! そんなことするヤツ、みっちゃんと付き合う資格なんてないんだから!」

 両手を握りしめて言う紗月に、瑞穂は「ありがとう」と、ようやく心からの笑顔を向けた。

「聞いてもらって、よかったよ。自分の決心に自信がもてた」

 そこに、「はぁ……」と、ひどく重たいため息が聞こえた。

「こういうズルいこと平気でするから、男の子ってほんとヤダ……」

 落胆するような口調でつぶやいたエミの肩が下がる。それを軽く叩いて元気づけるのは、いつも詩都花の役目なのだった。

5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール

<第3回に続く>

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