益田ミリ、4年半ぶりの書き下ろしエッセイ! かけがえのない一瞬を切り取った子ども時代の宝物のようなエッセイ「先生の質問」/小さいわたし①
公開日:2022/6/13
子ども時代を、子ども目線でえがく。益田ミリ、4年半ぶりの書き下ろしエッセイ『小さいわたし』。幼い頃、胸に抱いた繊細な気持ちを、丁寧に、みずみずしくつづります。「入学式に行きたくない」「線香花火」「キンモクセイ」「サンタさんの家」など、四季を感じるエピソードも収録。かけがえのない一瞬を切り取った、宝物のような春夏秋冬。38点の描き下ろしカラーイラストも掲載!
先生の質問
小学校までの道には、これからお友達になるかもしれない子たちが歩いていた。
「今日は入学式だけで勉強はないからね」
ママが言った。わたしはやっぱり新しいワンピースが心配だった。
小学校につくと、クラス分けの紙が張り出されていた。
「何組に名前があるかなぁ」
パパが一組から順番にわたしの名前を探しはじめたけれど、
すぐに、
「あった。一組だ!」
と笑った。
うわばきにはきかえて教室に行く。小学校の廊下は電車の中みたいだ。長くて窓がたくさんある。うわばきのゴムが足をぎゅっとするのが気持ちよかった。
一階に一年生の教室が並んでいた。一組の教室は一番端っこ。幼稚園のときよりうんとこどもがいるみたい。
教室に入るとひとつひとつ机に名前の紙が貼ってあった。ママがわたしの名前を見つけて、
「ここに座って」
と言い、おとなたちが集まる教室のうしろへ行った。だれもわたしを中学生と思っていないようだった。
席は廊下側。黒板の前にはお兄さんのような人が立っている。
あの人が先生なんだ。
目が合うと先生は笑ってうなずいてくれた。わたしははずかしくなって下を向いた。でもまたそおっと先生の顔を見た。先生はまたにこにこ笑ってうんうんとうなずいた。わたしが一年一組にいることを先生はもうわかったんだなと思うとうれしかった。
全員そろうと、先生は最初にこう言った。
「1たす1がわかる人?」
そんなの簡単。みんな「はーい」と手をあげた。わたしも「はーい」と手をあげた。手のあげかたは知っている。前の日に何回も練習したから。
「せーの! で言おう」
と先生が言った。
「せーの!」
「2!」
「正解!」
みんなも答えをわかっていたことが、わたしはとても自慢だった。もうワンピースのことは心配じゃなかった。
