30年越しの夢が叶うとき! めざせ、『絵本作家』デビュー (講談社)

文芸・カルチャー

公開日:2023/4/19

1979年に創設され、かがくいひろしさん、シゲタサヤカさん(佳作)、石川基子さんなど、たくさんの絵本作家さんを輩出してきた「講談社絵本新人賞」。新人賞受賞作品は単行本として刊行されるため、絵本作家を目指す多くの人からご応募いただいております。

第43回講談社絵本新人賞は応募数442作の中から選考会を経て、『まよいぎょうざ』を書いた玉田美知子さんに決まりました! 受賞からデビューまでの日々を、受賞者自ら書き上げる「制作日記」。「ギョーザの日」でもある3月8日からお届けします。

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玉田美知子の制作日記 1皿目「切れたドクロのブレスレット」(2022年 講談社絵本新人賞受賞者)

はじめまして。『まよいぎょうざ』で新人賞をいただきました、玉田美知子と申します。

まさか私が受賞するなんて、いまだに夢の中にいるようです。

中学生のころに絵本作家になろうと志してから30年。子育てが少し落ち着いて、自分が本当にやりたかったことに挑戦しようと絵本教室に通い始め、このような結果につながりました。諦めずに一歩踏み出してよかったなと、心の底から思います。

いま現在は、コーヒー豆の定期配送便のお店を運営しながら、絵本を描いています。餃子もお菓子も大好きな、きじ猫推しの45歳です。

講談社絵本新人賞受賞作『まよいぎょうざ』の一場面(部分)

2021年に『じごくの2ちょうめ5ばんち9ごう』という作品で佳作をいただいたのですが、実は贈呈式の翌日に、めまいで倒れて救急車で運ばれる、という出来事がありました。

緊張の連続で眠れない日々が続いていたからでしょうか。良性のめまいとの診断ですぐに帰宅できましたが、私自身、初めてのことだったので何が起こったのか理解できず、悪い病気だったらどうしようとすごく不安になりました。

私が元気になってから、家族に「何事もなかったから言えるけど、地獄の絵本なんて描いたから、悪魔に魂を売ったのかと思って心配したよ?」なんて言われて笑い話になりましたが、我が家の歴史に残るであろう大事件でした!

今回は前回のように倒れることがないように、結果の発表があるたびに大騒ぎはするものの、とにかく体調に気をつけて過ごしていました。

受賞のお電話をいただいたときは泣きながら喜び、興奮冷めやらぬ翌日に、またまたこんなことがありまして、ここで話さずにはいられません! ちょっと聞いていただけますか。

私は受賞の喜びをかみしめながら、いつものように机に向かって作業をしておりました。すると突然、床にバラバラッと大きな音をたてて何かが転がり……

驚いて落ちているものを拾い上げると、なんとドクロの形をしたものが散らばっていて……

なんじゃこりゃー!!!

切れたドクロのブレスレット 写真提供:玉田美知子

 

それは十数年前にいただいたブレスレットでした。なかなか個性的なデザインなので、一度も装着する機会はありませんでしたが、机の脇に引っ掛けてずっと飾っていたものです。存在を忘れかけていたので驚いたのなんの!

いくらゴムひもが劣化したとはいえ、このタイミングで壊れるなんて怖すぎませんか…? 誰でも背筋が凍りますよね…? 不吉な予感がしますよね…?

2021年の事件もあったので恐れ慄き、私は今度こそ悪魔と契約してしまったのだろうか、「願いを叶えてやったから、おまえの命はいただく!」とかいって、悪魔が迎えにくるんじゃなかろうかと、本気で怯えました(漫画の読みすぎですね)。

しかし今、こうして元気に制作日記を書いているので、どうやら悪魔と契約したわけではなさそうです! バカバカしい妄想ですみません。

『じごくの2ちょうめ5ばんち9ごう』は、私のように怖い想像が止まらなくなって怯える郵便屋さんのお話でしたが、『まよいぎょうざ』も同じように、ひとりの男の子の豊かなイマジネーションのお話です。

ある日「ぎょうざがいなくなりさがしています」という放送が街中に流れます。主人公の男の子が、その放送に驚き、どうしていなくなったのかを考え始めるストーリーです。

私の住んでいる地域で流れる防災無線を聞いていて、このアイデアを思いつきました。無線の内容は、例えば、サルが駅前に出没しました! なんていうものから、詐欺の注意喚起や行方不明者のお知らせまで、さまざまです。

 
町の防災無線 写真提供:玉田美知子

 

私は、行方不明者のお知らせが流れるたびに、その人の姿を思い浮かべ、大丈夫かな? 何があったのかな? と想像します。そして「無事に保護されました」という放送を聞いてほっとするのです。

この絵本を作ってみて、自分じゃない誰かや、ここじゃないどこかに思いを馳せることって大事なんじゃないかなと、改めて感じました。そんな難しいことを伝えたくて作った絵本ではありませんが。とにかく読んでくださる方に喜んでもらえますようにと願っています。

さて、体調を整えて臨んだ贈呈式の様子もお伝えしたいと思います!

会場に到着すると、入り口付近で編集者のみなさまが温かく出迎えてくださって、式が始まる前から感極まりました。

その奥には苅田澄子先生と北見葉胡先生がいらっしゃって、さらに大興奮。お会いして早々に、ただのファン丸出しであれこれと質問させていただきましたが、とても優しく丁寧に応えてくださり、たいへん勉強になりました。

受賞のスピーチは、やはり胃が痛くなるほど緊張しましたが、そんな中でも、今までお世話になった方々の顔を思い浮かべながら、感謝の思いを述べさせていただきました。このときの気持ちをずっと心に持って、制作を続けていきたいです。これから楽しんでもらえる絵本を作ることが、一番のご恩返しかなと思っております。

その後、藤本ともひこ先生、三浦太郎先生からも、貴重なアドバイスをいただきました。かっこいい着地を目指すこと、自分なりに絵のルールを決めること、など、私が一番悩んでいた部分についてのお話が伺えたので、とても心に響きました。励ましのお言葉もいただき、何より嬉しかったです。

改めて選んでくださった審査員の先生方に、心から感謝申し上げます。

先生方の講評のあとは、としやマンさん、torisunさん、殿本祐子さんと一緒にテーブルを囲みました。みなさんの作品を拝見しながら、和気あいあいと絵本談義に花を咲かせました。緊張もほぐれ、とても楽しいひとときでした。

第42回講談社絵本新人賞受賞者の伊作久美さんの制作日記でも書かれていましたが、2021年の贈呈式では、お互いの作品を読み合う時間がなかったので、2022年はこのような場を設けてくださったのだと思います。お心遣いがありがたかったです。

伊佐さんの作品『タコとだいこん』は、発売されてから購入し、じっくりと読ませていただきました。特に見開きのページが大胆でかっこよくて、ハートをタコづかみにされました。

そして絵本を本棚の上に飾り、新人賞受賞を祈願していたので、僅差で新人賞をいただけたのは、伊佐さんとタコさんのおかげかもしれません!ご利益がありました。ありがとうございました。

私とぎょうざたちも、『タコとだいこん』に続いていけるよう、がんばります!

タコとだいこん

作:伊佐 久美

横浜中華街で出会った水餃子たち。ココナッツ味の秘伝のタレも絶品です! 写真提供:玉田美知子 

 

まずは、この日記を読んでくださるみなさまに、ぎょうざが食べたい!ぎょうざってなんてかわいいの!と思っていただけるような内容を書いていけたらいいなと思っています。

初回から「切れたドクロのブレスレット」なんて仰々しいタイトルにしてしまいましたが、これからもお付き合いいただけたら嬉しいです(ブレスレットは針金で通し直し、これからも同じ場所で、守護神として見守っていただくことにしました)。

最後に、年賀状用に描いたぎょうざお節をご紹介し、餃々(ぎょうぎょう)しい一年を祈願して、締めくくりたいと思います!

来月は、編集者さんとの打ち合わせの様子などをお届けする予定です。

ではまた次回もどうぞよろしくお願いいたします~!

講談社幼児図書編集部の年賀状に現れた「まよいぎょうざ」さんとなかまたち

 

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