岡田千晶さんによる『ぼく、いいたい ことが あるの』制作秘話(評論社)

文芸・カルチャー

公開日:2023/12/6

ぼく、いいたい ことが あるの

作:ジャン=フランソワ・セネシャル 絵:岡田千晶 訳:小川仁央

出版社からの内容紹介

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しんじられない。おばあちゃんにもう会えないなんて。ふたりで行ったところ、いっしょに作ったもの、思い出がこんなにいっぱいあるのに……。流れる川のようにすぎていく時間のなかで、やっと言えた「さようなら」。大切な人とわかれる気持ちを、キツネの男の子に託して、あたたかく、包みこむように描きます。自分自身も「おばあちゃんに伝えたいことがあった」というカナダの作家の文章を、人気画家の岡田千晶さんが、かぎりなく愛らしいイラストで飾りました。静かな感動をよぶ作品。

岡田千晶さんインタビュー(聞き手:評論社 池水秀徳)

このたび評論社から、翻訳絵本『ぼく、いいたい ことが あるの』が出版されました。評論社は主に海外の作品を翻訳出版しているため、日本の作家の作品は稀です。ですので、国内でも著名な岡田千晶さんが描かれた絵本がいきなり評論社から発刊されて驚いた方も多いかと思います。作者のジャン=フランソワ・セネシャルさんはカナダ出身の作家。日本で紹介されるのは本書が初めてです。出版社としても、エージェントを通してこの作品を紹介された時は、正直びっくりしました。と同時に、運命を感じるくらい偶然にも出版できる機会を得られたことに感謝いたします。きょうは、翻訳絵本として出版されたそのいきさつと、絵を描かれた岡田千晶さんの作品への思いをお聴きしたいと思います。

この絵本の絵を手がけることになったきっかけを教えてください。

実は、数年前にカナダの出版社からオファーがありました。もう少し詳しく言うと、インスタグラムのメッセージで、カナダの出版社が進めている絵本の絵を描いてほしいと書いてありました。私がこれまで描いた絵本は、何点かは海外でも翻訳出版されています。光栄なことに、その中のどれかをご覧になったジャン=フランソワ・セネシャルさんが、私の絵をとても気に入ってくださり、出版社に指名をしてくださったのです。

依頼の内容は、「おばあちゃんと孫のお話」の絵を描いてほしいとのことでした。

※初めての海外出版絵本はイギリスで出版されました。『For All the Stars Across the Sky(カール・ニューソン/作 岡田千晶/絵)』『ゆめのとびらをひらくとき』(日本語版は岩崎書店)

「ゆめのとびらをひらくとき」(岩崎書店) カール・ニューソン/作 岡田千晶/絵 おかだこう/訳

 

声をかけられたときの気持ちは

嬉しかったです。でも、かなり仕事が詰まっていたので、即答というわけにはいきませんでした。少し悩みましたが、ちょうど二人目の孫が出来た時で、粗訳されたものを読ませていただき、内容がとても良いお話だったので、引き受けることにしました。

主人公をキツネにした理由は?

実は、最初の依頼では主人公のキャラクターは「クマ」だったんです。ところが以前イギリスで出版した絵本がクマのお話で、出版契約の中に「クマのキャラクターは他の出版社では描かない」という面倒な項目があって、別のキャラクターを考えなければならなかったのです。候補として「キツネ」「アナグマ」「ウサギ」などがあげられましたが、「アナグマ」はとても有名な絵本があるので(笑い)、「キツネ」にしました。

※『わすれられないおくりもの』(評論社刊)はアナグマが主人公

色彩がとても素敵ですが、 画材は何を使われているのですか?

陰影などは鉛筆を使っていて、 色は色鉛筆でつけています。色鉛筆は油性色鉛筆を使っています、描き心地が柔らかで色を塗り重ねることができるので気に入っています。色鉛筆はパレットで混ぜるということができないので、たくさんの色数をそろえています。そのためいくつかのメーカーのものを使っています。結構小さくなるまで鉛筆キャップにはめ込んで使っています。

色とりどりの色鉛筆

 

一番たいへんだった絵はどの絵ですか?

7見開き目の、川岸の草原でおばあちゃんキツネと孫キツネが踊っている様なシーンなんですが、編集者からの指示(どのような絵を描いてほしいか)は、「お芝居のポーズ」とだけ書いてありました。いったい何のお芝居なのか?ヒントとか無いので、いろいろ考えたのですが、周辺の細かい指示の中に、木の実で作った人形を立たせたりしているので、歌劇か何かのワンシーンを思い浮かべて、何かの場面のキメポーズの様に描いてみました。しかも、台詞は『すっごい ぼうけんも した』なので、結構たいへんでした。

一番大変だった絵

 

一番印象的な絵はどの場面ですか?

12見開き目の「後ろ姿」です。このお話を一枚の絵に凝縮している様な絵なんです。私は絵本を描くときに、先ずはラフと言うか全体を小さなコマ割りにしたコンテと言うか、ストーリーボードにしてみて、編集者にこれでどうか?と見てもらいますが、すぐに「表紙はこれでいこう」と、「後ろ姿」の絵になりました。私自身も、この絵が一番印象深いものになりました。

一番印象的な場面

 

本日は貴重なエピソードをご披露くださり、ありがとうございました。『ぼく、いいたい ことが あるの』とロングセラー『わすれられないおくりもの』には「別れをのりこえる」という共通のテーマがあります。

わすれられないおくりもの

作・絵:スーザン・バーレイ 訳:小川 仁央

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