おばあちゃんに伝えたかったのは…『ぼく、いいたい ことが あるの』【NEXTプラチナブック】

文芸・カルチャー

公開日:2023/12/19

絵本ナビがおすすめする「NEXTプラチナブック」(2023年11月選定)から、ご紹介する一冊はこちら!

ぼくは手紙を書こうとしたんだ。でも、なんて言えばいいかわからない。だって……。毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介するのは、『ぼく、いいたい ことが あるの』。カナダの作家と人気絵本作家岡田千晶さんによって生まれたこの絵本、どんな内容なのでしょう?

NEXTプラチナブックとは…?

絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。

そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。

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おばあちゃんに伝えたかったのは…『ぼく、いいたい ことが あるの』

ぼく、いいたい ことが あるの

作:ジャン=フランソワ・セネシャル 絵:岡田千晶 訳:小川仁央

みどころ

ぼくは朝、手紙を書こうとしたんだ。でも、なんて言えばいいのか、わからない。だって、おばあちゃんの家に行った時、おばあちゃんはあんまり疲れすぎていて、少しも動かなかったから。ぼくは、なんにも言えなかったんだ。なんにも……。

きつねのぼうやが思い出すのは、おばあちゃんと一緒につくったもののこと、世界のてっぺんにのぼった時のこと、大発見をしたり、冒険をした時のこと。思い出が次から次へとあふれだす。けれど、とうとうおばあちゃんは行ってしまった。もう帰ってこないって、ママは言う。

「ママの いうことなんか、しんじない。」

大切な人と別れる時の悲しみは、誰にも説明しようがないもの。ぼうやにとっても、それは同じ。おばあちゃんと過ごした日々をたどりながら、心がおしつぶされそうになりながら、それでも時は流れる川のように過ぎていくのです。やがて……

ご自身も「おばあちゃんに伝えたいことがあった」というカナダの作家、ジャン=フランソワ・セネシャルさんによる文章を、岡田千晶さんがきつねのぼうやの気持ちやまわりの自然の風景を優しく包み込むように描き出します。

表紙にもなっている、印象的な川のシーン。

「とめようとしても とめられない。
 じかんが すぎていくように、すぎていく。」 

流れていく川を前にして、じっと佇むぼうや。その「後ろ姿」には、言葉にならないぼうやのさまざまな気持ちが凝縮されているかのようです。作者のジャン=フランソワ・セネシャルさんが、岡田さんの絵を気に入られて、この絵本が実現したというエピソードにも納得してしまいます。

一冊を通して繊細に変化していく表情や愛らしい仕草の一つ一つ。それら全てから幼い子どもの切実な気持ちがまっすぐに伝わってきます。

最後に、ぼうやがやっと言えた言葉とは? いつか上を向いて、おひさまの光を感じられるようになれたらいいね。そんな気持ちとともに贈りたくなる絵本です。

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編集長のおすすめポイントは……

一度心に深く刻まれた悲しみや寂しさは、いつまで経ってもなくならない。経験を積み重ねてきた大人になればなるほど、その実感があるのではないでしょうか。それでも、この小さなぼうやが、受け入れがたい事実に対して、体を動かしながら必死で考え、乗りこえていこうとする姿には、頼もしさを感じずにはいられません。そこに生まれてきた言葉の愛おしさを、しっかりと味わいたいと思うのです。

磯崎 園子(いそざき そのこ)

絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長。著書に『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』(ほるぷ出版)、『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)、監修に『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』『父母&保育園の先生おすすめのシリーズ絵本200冊』(玄光社)がある。

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