大人の心も癒す 冬に読みたい絵童話

文芸・カルチャー

公開日:2023/12/24

外の寒さが厳しくて、室内で過ごす時間の長い冬休み。ゲームや動画も良いけれど、せっかくなら新しい物語に出会ってほしいと思うのが親御さんの心理ではないでしょうか。でも、いきなり長い物語や文字ばかりの児童文学を手渡しても、読んでもらえずそっと本棚に戻されるのも事実。それなら、美しい挿絵がふんだんに描かれた「絵童話」はいかがでしょう?
「絵童話」とは、
・絵本よりも文章が長く、読み物よりも絵がたっぷり入っている作品。
・お話の内容が、子どもが楽しめるものでありながら、大人が読むとさらに味わい深く感じられるもの。
・本のサイズがA5ぐらいで読み物の体裁をしているもの。

今回、寒い冬に心をポッと温めてくれるような、あたたかい飲み物と一緒に味わいたくなる珠玉の絵童話2作品をご紹介します。

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注目の新進作家・北川佳奈さんと大人気イラストレーター・くらはしれいさんによる、とびきりキュートなふたりのおはなし『クーちゃんとぎんがみちゃん ふたりの春夏秋冬』

クーちゃんとぎんがみちゃん ふたりの春夏秋冬

作:北川佳奈 絵:くらはしれい

みどころ

カカオの町に暮らす、板チョコレートのクーちゃんと、仲良しのぎんがみちゃん。二人は、どんな一年を過ごしているのでしょう。

春、南からの風に誘われて、家の外に出かけた二人が考えたことは?……「1 春のいちばんはじめの日」
夏の朝、海に出かけたふたりの荷物は大きさがまるで違っていて……「4 なくてもいいもの」
秋も本番、よく晴れた午後、二人はたき火を囲んで……「6 ふたりの音楽」
冬、風邪をひいてしまったぎんがみちゃんとどうしてもおしゃべりがしたくて……「8 マフラーと糸でんわ」

クーちゃんとぎんがみちゃんが一緒に過ごす春夏秋冬。それぞれの季節の空気がたっぷり詰まった8つのお話が入っています。

お話の中で素敵だと感じたのは、仲良しだからといって、好きなものが同じだったり、性格が似ているわけではないところ。読めば読むほど、面白いほどに二人の違いが見えてきて、読む私たちもクーちゃんやぎんがみちゃんと一緒にびっくりしたり、笑っちゃったり。
たとえば、おしゃれが好きなクーちゃんが、ぎんがみちゃんがもっとおしゃれをしてもいいんじゃないかと考えて、つやつやした水色のリボンを大切に包んで渡すお話。喜んで受け取ったぎんがみちゃんは迷わずあるところに結んでしまって。さて、どこに結んだと思いますか?

作者は、児童文学作家の北川佳奈さん。お話の中には、チョコウエハースの女の子、ミルフィーユショコラさん、クリの木通り、モンブラン商店街など甘ーい香りがしてきそうな名前がいっぱい出てくるところも魅力です。他にどんな名前が出てくるかぜひ探してみてくださいね。『ぼくに色をくれた真っ黒な絵描き シャ・キ・ペシュ理容店のジョアン』(Gakken)で第28回小川未明文学賞大賞を受賞し、児童文学作家デビューされたという北川さん。北川さんの物語世界をもっと読んでみたくなりました。
また、とびきりキュートなクーちゃんとぎんがみちゃんを描かれたのは、イラストレーターのくらはしれいさん。二人の可愛らしい洋服や髪型をはじめ、それぞれの持ち物やお部屋のページなどじっくり眺めたい場面がいっぱい。表紙も見返しも中の挿絵もまるごと一冊、可愛らしさにあふれています。

友だちの思いもよらぬ反応に驚いたり、違うからこそ尊敬したり、気づけばその子のことを考えている……そんな友だちへの思いや、一緒に過ごす楽しさが詰まった温かな一冊。小学生から大人の方まで。自分用にはもちろん、大切なお友だちへの贈り物にもおすすめです。
(絵本ナビ編集部 秋山朋恵)

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港町・神戸の美しい風景と共に紡がれる、ふたつの物語『チョコレートのおみやげ』は、チョコレートのような濃厚な時間を味わって

チョコレートのおみやげ

著:岡田淳 絵:植田真

みどころ

チョコレートの箱をそっと開けるようにページをめくりたいとびきりのお話。
作者は、物語を紡ぎ出す名手、児童文学作家の岡田淳さん。

小学五年生のわたしとお母さんの妹・みこおばさんとの神戸デートの1日。
港の公園のベンチに座って、途中で買ったチョコレートを開けるほんのひとときの時間。
箱のなかにチョコレートは六つ。赤や青や緑色の紙で包まれたちょっと贅沢そうなチョコレート。
わたしとおばさんで三つずつ。まずは私が緑色、おばさんが青。
そっと紙をはがして、ふたりいっしょに口にいれる。
舌の上で、かたまりがゆっくりととけていく。

「時間がとけていくみたい」

そう言って、みこおばさんは、ふいにこんな話をしてくれたのでした。

「坂道の上の洋館に、ひとりの男とニワトリがくらしていました。」
風船売りの男と、その相棒のニワトリ。
ニワトリは、その日の風の様子を風船売りに伝える役目をし、そのおかげで風船はよく売れていました。風船がたくさん売れると、男はおみやげにチョコレートを買って帰りました。男もニワトリも、チョコレートが大好きだったからです。チョコレートを食べながらふたりでいろんな話をして、ふたりはとっても幸せでした。しかし、ニワトリのあるたったひとつのうそにより、ふたりに、思いがけないことが起こっていきます。

チョコレートを一つずつ食べながら、ゆっくりすすんでいく物語の時間。
物語は甘くて優しく、けれどもほろ苦さを残して結末を迎えます‥‥‥。

「なんとかならへんやろか」
納得がいかないわたしは、お話の続きを加えます。

港の公園、異人館、神戸の美しい風景と、チョコレートの濃厚な甘さが頭をかすめながら、わたしとみこおばさんの物語、風船売りの男とニワトリの物語という二つの物語が、ゆっくりと心に沁みわたっていきます。物語を紡ぐ楽しさと共に、その楽しさを共有できるわたしとみこおばさんの関係性の素敵さが伝わってきます。

特筆したいのは、造本の美しさ。素敵な表紙のデザイン、カバーを開くと現れるチョコレート色の中表紙や見開きページ、1枚1枚めくりごたえのある分厚い紙、まるで1枚の絵画のようで、絵も物語を語っているような植田真さんの挿絵。すみからすみまでまるごとを味わいつくしたくなるような贅沢な1冊です。
対象年齢は、小学校高学年ぐらいから大人の方まで。小学生や中学生にもぜひこの造本の美しさを感じてもらえたらと思います。

もともとは、愛蔵版 県別ふるさと童話館「兵庫の童話」(1999年リブリオ出版)に収録された作品が、今回単行本化されたというこちらのお話。力のあるお話というのは、こんな風に形を変えながら読み継がれていくものなのですね。これから、より多くの子どもたちや大人の方に広まっていきますように。
(絵本ナビ編集部 秋山朋恵)

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いかがでしたか? これほど上質で心が満たされる物語を子どもだけの楽しみにしてしまうのはもったいない。今、絵童話は大人も十分楽しめるジャンルなのです。

この記事でほかの作品も気になった方は是非「大人も楽しみたい絵童話の世界」から、めくるめく絵童話との出会いをお楽しみください。

クーちゃんとぎんがみちゃん ふたりの春夏秋冬

作:北川佳奈 絵:くらはしれい

チョコレートのおみやげ

著:岡田淳 絵:植田真

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