“人を信じない”がデフォルト? 結婚する気はなかった? 夫は外国人、妻はマンガ家の私生活が明らかに!

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更新日:2014/9/29

(左から)小栗左多里さん、トニー・ラズロさん、ヤマザキマリさん

“気持ち”が決め手の移住 子どもは諦めの境地!?

【ヤマザキ】お2人は海外移住は最初から念頭にあったんですか?

【小栗】トニーには、10年くらい前から海外に住もうってずっと言われていました。『さおり&トニーの冒険紀行 イタリアで大の字』を描いたときのコーディネーターの方が「ベルリン面白いよ」と教えてくれたんです。とくにオススメの、ミッテという旧東側の地区に行ってみたら、確かに、これはいいねと。

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【トニー】治安、医療、教育環境などの条件も考慮しましたね。

【小栗】でも最後はやっぱり気持ちかな。あ、ここだなっていう。

【ヤマザキ】私は今、イタリアのパドヴァ(ヴェネツィアの近郊)にいるんですが、今まで一度も自分の住みたいところに住んだことがないんですよ。イタリアに最初に渡ったのも、もともとは母が勝手に決めましたから。

【小栗】ほんとはどこに住みたかったんですか?

【ヤマザキ】ブラジルとか。全然当てが外れた。ポルトガルやアメリカは、旦那の仕事についていきました。子どもも私と同じ状態で、自分の意志と関係なくいろいろな場所に住まわされてます。

【小栗】子どもには諦めてもらうしかないですよね。

――トニーニョ君の小学校入学も、移住のきっかけの一つと描かれていましたが、海外で教育を受けることは重要でしょうか?

【トニー】もちろん日本の教育がダメというわけではないです。むしろ、子どもにどの国のシステムが合いそうかという問題ですね。

【小栗】私は自分の中学校時代が辛すぎて。中部地方出身なんですけど、校則が厳しくて徹底した管理教育。皆と同じでなきゃダメで、少しでもはみ出す言動をしたら悪と決めつけられる。それを考えると、海外の自由な教育環境がいいのかなとは思いました。

ダーリンは外国人 お願いされて結婚しました!

――小栗さんとヤマザキさんは、ご主人が外国人という共通点も。

【小栗】でも外国人は一つの要素にすぎないですよ。トニーは“知識が豊富なおじさん”っていう印象。そもそも男性としてあまり意識してなかったんですけど、どうしてもつきあってくださいとお願いされたんでね、そこまで言うなら考えましょうと(笑)。どうしても国際結婚だと、私が憧れて、ゴールイン! みたいにイメージされるんですけど、違いますからね。そこは一つ主張しておこうかなと。

【ヤマザキ】私も全然結婚は意識してなかった。男性に養ってほしい、守ってほしいという願望もまったくなかったし。

【小栗】そうですよね。私、小学3年生くらいでマンガ家になろうと決めたんです。それからずっと、自分はマンガで稼いでいくから、自分の力で夫も子どもも養えるって信じてて。今思うと変わった子どもですよね。でもなんとなくそう思い続けてて。だから収入を条件に結婚相手を選ぶ必要がなくて、それがかえって自由でよかったかなと思いますね。

日本という平和な社会 異質なものを認める心を忘れずに

――小栗さんは、ベルリンに移って日本の見方は変わりましたか?

【小栗】日本はすべてが便利すぎてびっくり。まずスーパーがすごい。食材を買うのにも、豚の薄切りのパックがあって、しかも琉球豚、三元豚とか銘柄まで選べる。とにかく選択肢が揃ってる。

【ヤマザキ】便利すぎて、あまり工夫しない脳みそになりますよね。私、シリアに住んでたときにどうしてもうどんが食べたくなって、自分で小麦粉練りましたもん。細長いすいとんができたけどね(笑)。そこまでしても食べたいっていう執着が、日本だと生まれない。

【小栗】お金さえ出せばほぼ何でもできる。『ベルリンにお引越し』では部屋探しの違いを描きましたが、ほぼ自力でなんとかしなきゃ、誰もやってくれない。不動産業者がみあたりませんから。でも、日本では初対面の不動産屋さんを信頼して任せておける。日本にいれば、人を信じて、すーっと生きていける。

【ヤマザキ】イタリアでも、まず人を信じないのがデフォルトです。愛も信頼もそこから育てていきましょうという考え方。

【小栗】そうなんですよね。でもそれはいろんなことが表裏一体で、日本はとにかく平和なんです。先進国が平和になると、日本みたいな社会になるってことだと思うんです。平和ボケと嘆く話も聞きますが、皆こういう社会を望んでいたんじゃないのかなとも思います。

【トニー】日本は、基本的に日本で育った人が多いですよね。それも関係あるかもしれないと思います。例えば、2012年の年のドイツへの移住者は40万人。外国人住民の割合が日本と比べてだいぶ大きい感じですね。育った環境も考え方も違う人たちの集まりなんです。日本では、細かいところまで秩序や価値観が共有されてるけど、ベルリンでは状況がちょっと違う。

【ヤマザキ】その分、日本はまだ異質なものを認められないところがあるのかなとも思いますね。だから管理教育みたいなことも行われちゃうのかなと。『プリニウス』の1巻の最後に彼の筆記官が盗みに合うシーンを描いていますが、言いたかったのはまさにそのこと。古代ローマは非常に多くの属州を抱えて、宗教も言語も文化も法律も、あらゆるものが混在する多様性溢れる帝国でした。プリニウスは、「盗みがお前達ギリシア人にとっては罪であったとしても カバンを盗ったあの男の国ではそうではないのかもしれんのだ」と筆記官を諭しています。こういう多元性、異質なものを認める心を、日本の人たちにも知ってほしいなと思うんです。

第2弾はドイツ語が流暢になってから!?

――『ベルリンにお引越し』の第2弾のご予定は……?

【トニー】まずさおりのドイツ語が流暢になってから。

【小栗】出たよ(笑)。あのね、私、アイドリングが長いんです。原稿描くときもそうなんですけど。エンジンがかかるまで時間がかかる。

【トニー】僕がベルリンでのいろいろなことを全部引き受けてるから、それを一歩二歩引いて、もっとさおりが自分でやってみるといいかもね。あとね、今、トニーニョの学校の休みごとに日本に帰国してるでしょ。それを減らして、かわりにドイツを見て回るといいかもしれない。ドイツのいろんな側面がわかって新鮮な刺激になる。

【小栗】うん、それもう家族の話だからね、あとでね。まあ、第2弾はベルリン生活のことがもう少しわかってからですね。頑張ります。

【トニー】ヤマザキさんはしばらくパドヴァですか? 僕らもしばらくベルリンなので……。

【小栗】しばらく? いつまでかな?

【トニー】え、トニーニョの中学入学まではいようよ。

【ヤマザキ】(笑)私はしばらくいますよ。あちらでもお会いしましょう。中間地点のウィーンとかで。

【小栗】世界のどこかで。ぜひお会いしたいです。ヤマザキさん、デジタルで作画されてますよね。デジタルでの作画方法を教えてください(笑)!

取材・文=松井美緒

ダーリンは外国人 ベルリンにお引越し トニー&さおり一家の海外生活ルポ

ダーリンは外国人 ベルリンにお引越し トニー&さおり一家の海外生活ルポ』(小栗左多里トニー・ラズロ/KADOKAWA メディアファクトリー)

『ダーリンは外国人』シリーズ6年ぶりの新刊。愛息トニーニョの小学校進学を機に、ベルリンに引っ越したさおり&トニー。今度はさおり自身も「外国人」。意外なお部屋探しの方法、日曜日の過ごし方、小学校生活など驚きと発見がいっぱいの日々をレポート!

プリニウス

プリニウス』(ヤマザキマリ/新潮社)

ヤマザキマリがどうしても描きたかったプリニウスという男。古代ローマ帝国随一の知識人で『博物誌』の著者として知られる。ローマ艦隊の司令長官にして風呂好きでもあった。ヴェスヴィオ火山の噴火にも遭遇したこの愛すべき変人の偉大で奇怪な人生をたどる!