小説、音楽、映像…秋元康を基点に、人気クリエイターたちと動き出した壮大なプロジェクト『Bullets』とは何か?

文芸・カルチャー

公開日:2023/1/7

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年2月号からの転載になります。

『Bullets』キービジュアル

 稀代のヒットメーカー・秋元康さんの原作を基点に、Z世代に人気のクリエイターが小説、音楽、映像へと展開を広げていくプロジェクト『Bullets』が始動! 秋元さんおよびキービジュアルを担当するダイスケリチャードさんの寄稿、小説を執筆した坂上秋成さんのインタビューとともに、壮大なプロジェクトの一端を明かしていこう。

取材・文=野本由起

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10代の焦燥を描いた原作から音楽、映像、小説へ広がる世界

 真夜中の歩道橋で出会ったルイとリョウマ。お互いのことは名前以外ほぼ知らない。それぞれ、なぜ歩道橋に来るのかもわからない。そんな居場所のないふたりが、ある日拳銃を見つけたことから世界は一変する──。

 10代の焦燥や寂寥をつづった秋元康さんの原作を軸に、小説、イラスト、音楽、映像へとメディアミックス展開を広げるMUSIC&NOVEL PROJECT『Bullets』。各ジャンルのクリエイターが原作からインスピレーションを得て、それぞれの手法で世界観を深めるというゆるやかなコラボレーションを体感できる。

 参加クリエイターの顔ぶれは、実に豪華。キービジュアルを担当したのは、さまざまな小説の装画をはじめ、多くの企業やアーティストタイアップを手掛けるダイスケリチャードさん。作詞・作曲はMIMIさん、歌はこばしり。さん、konocoさんと、YouTubeなどの動画配信サービスで絶大な支持を得る歌い手やクリエイターが名を連ねている。

 イラスト、ミュージックビデオがすでに公開される中、このたび新たな展開として小説が発表された。ノベライズを手掛けたのは、純文学とエンターテインメントを行き来しながら独自の世界を紡ぐ坂上秋成さん。少年少女が抱く葛藤や社会に対する息苦しさ、拳銃を見つけたふたりの逃避行を、瑞々しく描き出している。小説単体でも十分満足できるが、音楽や映像と併せて楽しむとさらに世界観の広がりを感じられるはずだ。

 今後は、さらに多角的な表現でプロジェクトが広がっていくもよう。まずは、興味を引かれたメディアから『Bullets』の世界に足を踏み入れてほしい。

寄稿 原作:秋元康さん
「Bullets」は、ずっと、温めていた構想でした。夜中になると、歩道橋の上にやってきて、下の道路を通り過ぎる車をぼんやり眺めている見ず知らずの女の子と男の子の物語です。夢も希望もなく、生きる目標もない二人が、偶然、油紙に包まれた拳銃を男の子が拾うことから、運命は大きく変わります。歩道橋から、ずっと、下を見て、何かを探していた二人は何を見つけたのでしょうか? そんな僕のプロットを小説にしようか、ドラマにしようか、映画にしようか迷っている時に、人を介して、ダイスケリチャードと知り合い、物語を象徴するような素敵な絵を描いてくれました。そして、MIMIやこばしり。konocoが音楽を担当し、坂上秋成がノベライズしてくれるという若き天才クリエイターたちとのコラボが実現したのです、青春時代のやり場のないエネルギー、みなさんはどうしていますか。どうしましたか? あの頃の熱さを思い出して欲しい作品です。

寄稿 イラスト:ダイスケリチャードさん
以前より秋元さんに少し個人的な思い出があり、その方がやることに自分が必要ならぜひといった感じでした。色んな分野のすごい人が多く関わってると伺っているので、どんな趣味の方でも入りやすい&しっかり楽しんでいただける内容になるんじゃないかなと思います。音楽のことは描いた後に決まったと伝えられたので正直私はあまり把握できていませんが、小説に関しては作中に出てくる小物を描いたりするだけでなくストーリーも実は1枚に表現していたりと読んだ後にさらに発見があるものになっております。ダ・ヴィンチを読んでる方だけ私のこともダ・イスケと呼んでいただいても大丈夫です。

今後の文芸は音楽や映像をどう取り込むかが重要

ノベライズ:坂上秋成さんインタビュー

 秋元康さんが書く歌詞の熱心なファンだったという坂上さん。『Bullets』プロジェクトへの参加を打診された時も、ためらうことなく手を挙げたという。小説の担当が決まって間もなく、秋元さんからの原作が届いた。

「最初に惹かれたのは、歩道橋というモチーフでした。高校生くらいの男女が、お互いよく知らないまま歩道橋で会うことを繰り返す。そのシチュエーションに魅力を感じたんです。さらに、原作から拳銃や灯台というモチーフ、ロードムービーという構成を取り入れていきました」

 大切にしたのは、原作そのものというより、原作から立ち上る匂いやニュアンス。そこから、秋元さんが表現したい世界を汲み取ったという。

「乃木坂46の『制服のマネキン』をはじめ、秋元さんが作詞した曲には大人に対する反抗心、子どもの純粋さが強調された作品がたくさんあります。原作からも大人と子どもという対立構造が感じられたので、そこを一番大事にしようと思いました。窮屈な世界を生きる子どもたちが反抗し、大人とのせめぎ合いになる。その果てに、子どもの時間は終わってしまうのか、あるいは続くのかということを重要なテーマとして考えました。かなり自由に書かせてもらったという印象です」

 プロットを作り終えた時点で、楽曲のキービジュアル、制作中のMVも坂上さんのもとに届いたそう。曲やイラストからのイメージも、作中に反映させていった。

「曲から受けたのは、静かでどこか儚げな印象。繰り返し聴きながらイメージをつかみ、歌詞から印象的なフレーズを拾って小説に取り入れました。例えば“最深部”という言葉がそう。ルイとリョウマの関係に刹那的な雰囲気を加えたくて、“またね、またね”というフレーズも小説で使いました」

 ルイとリョウマ、ふたりの人物像はどのように作り上げていったのだろう。

「今回は女性読者を読み手として意識したので、まずルイの人物像を固めました。どういう話し方やテンションだったら読者に届くかと考え、すぐに活発ではっちゃけたイメージができました。ルイが暴走気味なので、リョウマは落ち着いたキャラクターにしています」

 こうしたプロジェクトだからこそ、坂上さん自身も新たなチャレンジをしている。

「オリジナルの小説だったら、ルイのように夢を抱く主人公を書くことはなかなかありません。文体も、1行書いたら段落を変えるくらいの勢いで、音楽的にリズムよく読めるようにしました。僕なりにエンタメに振り切ったつもりです」

 近年は、小説×音楽×映像のコラボレーションが広がっている。作家である坂上さんは、こうした流れについてどう受け止めているのだろう。

「ポジティブな印象しかないですね。そもそも僕は2013年のデビュー作『惜日のアリス』で、おそらく純文学で初めてPVを制作したんです。メディアミックスのしづらさが純文学の弱みになっている部分があるので、これからの文芸はどうやって音楽や映像を取り込むかが重要になると考えていました。今回の小説を書きながらイメージしたのは、実写映画。実現されるかどうかわかりませんが、今後プロジェクトがどのように広がっていくのか、僕自身も楽しみです」


参加クリエイター

こばしり。さん

こばしり。

こばしり●シンガー。2017年11月にYouTubeで活動開始。メイクやファッションの動画を中心に投稿する美容系YouTuber。ゲーム好きが高じてYouTubeのゲームチャンネルも運用。

konocoさん

konoco

このこ●シンガー。2014年、カバー動画の投稿をきっかけにネットを中心に活動開始。フルアルバム『Inseparable』『Vivi≠de』をリリース。

MIMIさん

MIMI

みみ●作詞作曲担当。2016年よりボカロPとして活動開始。18年に公開した「マシュマリー feat.初音ミク」で注目を浴びる。「生きづらい世の中」をキーワードにした楽曲で高い支持を得る。

ダイスケリチャードさん

ダイスケリチャード

だいすけりちゃーど●イラストレーター。1994年、滋賀県生まれ。2016年活動開始。宇佐見りん『推し、燃ゆ』の表紙イラストなどを手掛ける。画集に『丑三ツ時 ダイスケリチャード作品集』など。

坂上秋成さん

坂上秋成

さかがみ・しゅうせい●作家。1984年、東京都生まれ。著書に『惜日のアリス』『ファルセットの時間』『ONE PIECE novel LAW』(原作:尾田栄一郎)などがある。

あきもと・やすし●1958年、東京都生まれ。作詞家、音楽プロデューサー、放送作家など多彩な顔を持つ。美空ひばり『川の流れのように』を筆頭に、数々のヒット曲を手掛ける。

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