「私は“伊織もえ”のコントローラーを握っている」雑誌表紙や自主制作写真集でグラビアを飾り続ける伊織もえロングインタビュー

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更新日:2023/4/21

伊織もえさん

 昨年12月開催のコミックマーケットで発売された、伊織もえさんの写真集が累計販売数1.2万部を突破した。世の中に一般流通している写真集でも1万部売れることが稀な昨今、同人誌としては異例の売上だと言える。

 今では、コンビニや本屋に立ち寄ると、高確率で雑誌の表紙を飾る伊織もえさんのグラビアを見かけることができる。SNS総フォロワー数425万人超え、コスプレイヤーからそのキャリアをスタートし、いま最も有名なグラビアアイドルのひとりとなった伊織さんは、どのような想いで撮影に臨んでいるのだろうか。

 本記事ではグラビアの活動を中心に語られた、伊織さんのロングインタビューを掲載する。仕事を楽しみながらも真摯に取り組む、その胸の内に触れてみてほしい。

(取材・文=金沢俊吾 撮影=金澤正平)

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今週もコンビニにいてよかった

──伊織さんはご自身のTwitterのプロフィールに「コスプレイヤーでストリーマーでグラドルです」と書かれていますが、今回はグラビアについて色々お話を伺えればと思います。

伊織もえ:はい、よろしくお願いします!

──今日、ここに来る途中に寄ったコンビニでも伊織さんが表紙になっている雑誌を見かけました。コンビニや書店で見かけない日はないんじゃないでしょうか。

伊織:ありがとうございます。おかげさまで、今週は3誌の表紙をやらせていただきました。

──昨年9月には雑誌・専門誌の表紙掲載数が100冊を突破されました。コンビニに行くたびに自分のグラビアが置かれているって、どういう感覚なんですか?

伊織:初めて表紙に載ったときは、ドキドキしながらコンビニに行って、写真を撮ってお母さんに送ったりしていました。今はどちらかというと「今週もちゃんといてよかった」って安心するような感覚です。

──露出が減ってしまうことへの不安があるのでしょうか。

伊織:それはもちろんあります!「伊織もえって消えたよね」と言われたくないですし。あと、私が表紙になっている雑誌が何冊も置いてあると「あれ、もしかして売れてないのかな? まだ入荷したばっかりだからかな?」なんて考えちゃったり。おいおい、贅沢だぞって思うんですけど。

──以前、YouTubeの配信で「雑誌グラビアはノーギャラが多い」というお話をされていました。雑誌グラビアが宣伝的な役割だとすると、伊織さんの知名度であればもう役目は果たしたようにも思えます。それでも雑誌に出続けるモチベーションはどこにあるのでしょうか?

伊織:それは単純に、水着グラビアが好きだからです。これまで100冊以上に載せていただきましたが、どの雑誌でどんな水着を着たのか、全部覚えています。キレイなスタジオで、プロの方々に素敵な写真を撮ってもらえるのが本当に幸せなんですよ。

伊織もえさん

グラビアを作るために、グラビアに出る

──雑誌グラビアにたくさん登場する一方で、ご自身がプロデュースされるコミックマーケット(以下、コミケ)用の写真集やファンクラブ向け写真集『月刊伊織もえ』も作られています。伊織さんのなかでどのような違いがありますか?

伊織:もともと「写真集は自分で作るもの」という意識がありました。会社員時代に「こんな衣装を着て写真を撮りたい!」と思ってコミケで自作の写真集を発売したところから伊織もえはスタートしているので。コミケ用の写真集は、衣装選びとメイクはもちろん自分で、スタジオを探すのも、印刷も自分でやります。

──その作り方は、仕事がたくさん増えた現在も変わらずですか?

伊織:はい。本当に忙しいときだけスタッフさんにスタジオ予約の電話をお願いしたりしますけど、基本的にはひとりでやります。その体制で半年に1回のコミケで3冊の写真集を作って、約100ページの『月刊伊織もえ』も毎月作って配信してます。

──凄まじい量ですね……。

伊織:『月刊伊織もえ』はよりコアファン向けに作っていて、オフショットやちょっとしたコラムも載せているので全ページグラビアではないんですけどね。とはいえ、自分で衣装を選んで毎月しっかり撮影しています。そのペースでのグラビアをインプットがない状態で何年も続けていると、やっぱりネタ切れしてきます。そんな時に活きてくるのがグラビアのお仕事なんです。

伊織もえさん
『月刊伊織もえ』より。
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──「お仕事」というのは、雑誌のグラビア撮影などのことでしょうか?

伊織:そうですね。雑誌や専門誌でプロのメイクさん、衣装さん、カメラマンさん、雑誌編集者さんが一緒にやってくれると「そうか、こういうやり方もあるんだ」って学べるんです。だから楽しみつつも、雑誌のグラビアや出版社さんが作ってくださる写真集は「修業の場」だと思って臨んでいます。

──自分で作るグラビアのために、商業誌で被写体としてグラビアをやるような感覚なのですね。

伊織:ずっと衣装のことを考え続けていると、プロの現場で学んだことを自分なりに解釈して、コミケの写真集や『月刊伊織もえ』で自分流にアウトプットするのが今の私のサイクルになっています。

──すごい。もうすべてがグラビアのためですね。

伊織:そうですね(笑)。まあでも、楽しいから続けられるのだと思います。グラビアのお仕事があるといまだにテンション上がるので。

──グラビアのお仕事のなかで、どのタイミングが一番テンション上がりますか?

伊織:水着と下着を着るときですね。まずかわいい衣装を見るだけでも「きゃあ!」ってなりますし。それを着てボディバランスがよくなったり胸の谷間がキレイにできたりするとすっごくテンションが上がるんです。しかも、カメラマンさんが素敵な写真に収めてくれる。これはとんでもねえ! という感じです。

──衣装がポイントなんですね。

伊織:はい、もう衣装は趣味ですね。逆に、体型やパーソナルカラーに合わない水着が出てくると、とんでもなくテンションが下がります(笑)。

伊織もえさん

写真集を買わなくてもいっぱい水着姿が見られます

──伊織さんはSNSの総フォロワー数が425万(※2023年4月現在)です。グラビアに対するファンの反響も毎度たくさんありますよね。

伊織:そうですね。グラビアを見てファンの人が喜んでくれるっていうのが一番うれしい……いや、やっぱり自分がグラビア楽しいのが一番です(笑)。でも、それと同じくらいファンの方も大切です。

──Twitterを拝見すると、たくさん水着の写真をアップされていますよね。

伊織:ほぼ毎日、水着姿をアップしています。写真集を買わなくてもいっぱい見られます(笑)。

──写真集を売るうえでは、あんまり無料で見せすぎない方がいいのではないか? とも思うのですが。

伊織:それはあんまり考えてないですね。グラビア撮影に行ったら、せっかくだから自撮りもするじゃないですか。それでかわいいのが撮れちゃったら、もう見せたくてしょうがないんですよ。とにかく見てほしい。

──眠らせておく方がもったいない。

伊織:そうそう、もったいないんです。あとは、今の時代って中身が不透明だから興味を引いて売れるものではないと思っていて。損をしたくない人が多いので、ある程度中身がわかって安心してからじゃないと買ってもらえないと思うんです。

──普段あまり水着にならないタレントさんが「写真集で露出をがんばりました」みたいな宣伝方法もありますよね。

伊織:ありますね。でも、それが通用するのって、坂道グループの方々ぐらいだと思うんです。グラビアアイドルが露出でレア感を出すのはやっぱり難しいと思います。元乃木坂46の生田絵梨花さんの写真集はきれいなおっぱいが見られて、すごく感動したんですけどね。

──なるほど。

伊織:でも、私もなんでも公開するわけじゃなくて、やらないと決めたものは一切出さない ようにしています。例えば、水着の動画なんかは一切やっていないんです。

伊織もえさん

グラビアDVDをやらない理由

──DVDなど動画ソフトと写真集の両方を出されるグラビアアイドルの方もたくさんいますが、伊織さんが一切やらない理由はなんですか?

伊織:グラビアDVDは、今まで見てきて、「これをやってみたい」っていう作品が無かったのが理由です。やっぱり、私が見ていて楽しくないんですよ。写真って妄想できる余白が多いんだなって改めて思ったんですが、映像表現て、どうしても見たくない部分が見えちゃったり、前後の違和感が出ちゃったり、ストーリーも予算の都合で、女の子が突然ハワイに飛んで、 バランスボールに乗ってぴょんぴょん跳ねたり、アイスキャンディをなめたりするっていうような、目的はわかるんだけど不自然すぎるから長い時間見てられないのが理由です。

──確かに、男性向けに作られているとは思います。

伊織:そうですよね? かわいい女の子がナチュラルに楽しんでいて、しっかり表現やストーリーに幅があって撮影された作品があったらいいんですけどね。

──伊織さんがプロデュースして、女性も楽しめるグラビアDVDを作ったらおもしろそうです。

伊織:ああ、たしかに! それは楽しいかもしれません。いいアイデアが浮かんだらちょっ とやってみたい……。

──楽しくないことはやらない、というスタンスなのですね。

伊織:楽しくないと思いながら物を作るのって、めちゃくちゃ労力がかかるんです。好きな ことだけをやってるから、ここまで仕事を続けて来られたのだと思っています。このスタン スはこれからも変えずにやっていきたいです。

無料バレンタインイベントはファンへの恩返し

──好きなことを続けた結果、表紙グラビア100冊、コミケの写真集1.2万部という驚異的な記録が生まれていますが、ご自身の人気を実感することはありますか?

伊織:ハッキリと実感したのは2022年9月に「#きゅるん 伊織もえ展」を開催した時です。表紙になった雑誌や衣装などを展示したのですが、Twitterぐらいでしか告知をしなかったのに、1万人ほどの方々が足を運んでくれたんです。

──会場となったタワーレコード渋谷店の、8階から1階の階段に入場待ちの行列ができたと伺いました。

伊織:ずっと会場にいたわけではないので、本人に必ず会えるわけでもない私ひとりの展示会に、これだけたくさんの人が足を運んでくれたことに本当にビックリしました。これは大きなターニングポイントになったと思います。普段はSNSやYouTubeでファンの方と交流させていただいていますが、やっぱりリアルでファンの存在を感じられるのはうれしかったです。

──リアルといえば、今年のバレンタインにチョコを手渡しするというイベントを無料開催していましたね。

伊織:チョコあげちゃいました。バレンタインのときも、ビックリするぐらい予想を大きく上回る人数が集まってくれて、やってよかったです。

──バレンタインはどういった流れで開催が決まったのですか?

伊織:私が「チョコを配りたい」と言ったからです!

一同:(笑)

伊織:でも思いつきじゃなくて、ちゃんと理由があって。今年の2月、去年冬のコミケで販売した写真集の売上が1万部を超えたんです。一般に流通しない同人誌が1万部も売れるってとんでもないことなので、ちょっとでもファンの皆さんにお返しがしたいと思ったんです。だから、バレンタインは全部自腹でやりました。

──なるほど、「お返し」という気持ちがあったのですね。ちなみに、これからもコミケには出続けるのですか?

伊織:もちろんです! もともとコミケから出てきた人間だから、絶対にそこをないがしろにしちゃいけないと思っているので。コロナで中止にでもならない限り続けていきます。

伊織もえさん

私は好きで「伊織もえ」をやっている

──グラビアや水着姿のアップを続けることで、特に男性ファンから性的な目で見られることも多いと思います。ストレスを感じることはありませんか?

伊織:それはあんまりないです。これはよく言っているのですが、男性からそういう目で見られるのがイヤなグラビアアイドルって、絶対いつか無理が出てくると思うんですよね。私は好きで伊織もえをやっているので、ストレスはないですね。

──「伊織もえをやっている」という言葉がすごくおもしろいなと思ったのですが、伊織さんのなかで「伊織もえ」はひとつのキャラクターのような存在なのかなと。

伊織:確かにそうですね。自分自身とは違う「伊織もえ」というひとつの個体として捉えているのかもしれません。もともと私は都心なんか行きたくないし、外に出たくないし、人と会いたくないみたいなタイプなんです。今はこうして「伊織もえ」としてインタビューをしていただいているのでお話しできていますが、いちど気を抜いて伊織もえじゃなくなったらうまく話せないし、東京駅も怖くて歩けないぐらいなんですよ。

──なぜそのようにスイッチを切り替えられるようになったのですか?

伊織:うーん、そうですねえ……責任があるから、訓練してできるようになったのかな。「伊織もえ」は私の意思だけで動いているものではないんです。支えてくれるスタッフさんやカメラマンさん、コミケに関わる方々、こうして取材してくださるメディアの方々みんなが私に肉付けしてくれた結果「伊織もえ」という個体が出来上がったような気がしていて。私はそのコントローラーを握っているようなイメージです。

──訓練して、みんなが思う「伊織もえ」を操縦しているような感覚でしょうか?

伊織:そうですね。もちろん私自身が楽しんでいるのが第一なんですけど、やっぱり「伊織もえ」のお仕事が、たくさんの方々のビジネスや生活にも影響してきているのは事実なので、そこには責任を持って活動していかなきゃいけないと思っています。

伊織もえさん

──責任を持って活動するというお話で、以前のインタビューで「伊織もえとしての質をもっと高めていきたい」という発言をされていました。これから活動していくうえで、どんなビジョンを持っているか教えてください。

伊織:私のいう「質」って、細々したことなんですよ。例えばゲーム配信の質を高めるんだったら「Apex Legends」を練習するとか、グラビアの質を高めるために腹筋を鍛えるとか、コスプレの質を高めるためにウイッグカットを練習するとか。そのひとつひとつを手を抜かずに向き合っていくことが、結果として「伊織もえの質」を高めることになるんじゃないかなと思っています。

──今日お話を聞いていて、本当にストイックにお仕事に取り組まれていると思いました。

伊織:今、本当に恵まれた環境にいて、伊織もえとして活動できていること自体が信じられないぐらい幸せなことなんです。せっかく恵まれているんだから、がんばって仕事の質を上げていかないとバチが当たるような気がしていて。

──ご多忙だと思いますが、無理せずこれからも楽しく活動している姿を見せていただければと思います。

伊織:こちらこそありがとうございました。記事が出るのを楽しみにしています!

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