「熱い読者さんたちを裏切らない作品づくりがしたい」デビュー10周年&人気シリーズ『メイデーア転生物語』最新6巻発売記念! 作家・友麻碧インタビュー【後編】

文芸・カルチャー

公開日:2023/5/15

メイデーア転生物語6 片想いから始まる物語
メイデーア転生物語6 片想いから始まる物語』(友麻碧:著、雨壱絵穹:イラスト/KADOKAWA)

 2023年、作家デビュー10周年を迎えた人気作家の友麻碧さん。作家人生における【シーズン1】と位置付ける10年の軌跡をたどりながら、新たに幕を開けた【シーズン2】への意気込みを語っていただきました。さらに、大人気シリーズ『メイデーア転生物語』の誕生秘話と、2023年5月15日(月)に発売された最新作『メイデーア転生物語6 片想いから始まる物語』についてもたっぷりお聞きしています。ぜひお楽しみください!

※『メイデーア転生物語』シリーズのネタバレを含みます。

構成・文=高倉優子

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――まずは、作家デビュー10周年、おめでとうございます! 昨年末に公開したインタビュー【前編】では、『かくりよの宿飯』『浅草鬼嫁日記』『鳥居の向こうは、知らない世界でした。』の初期3作品シリーズを作家人生の【シーズン1】と位置付け、以降の作品から【シーズン2】に突入すると教えていただきました。改めて【シーズン1】はどのようなものであったか、振り返っていただけますか?

友麻碧さん(以下、友麻):ありがとうございます。【シーズ1】の初期3作品シリーズは、「かっぱ同盟」から「友麻碧」にペンネームを変え、心機一転、頑張ったシリーズたちでした。がむしゃらに、勢い任せで立ち上げたこの3作品シリーズの時代が長かったので、全てが完結して「自分の中のひとつの時代が終わった……」というような気持ちになりました(笑)。

【シーズン2】の作品は、今のところ『メイデーア転生物語』『水無月家の許嫁』の2シリーズになります。もう勢い任せというのがなかなか難しいのですが、しっかり目標を定めて、安定感ある作家活動を頑張っていけたらなと思っています。

――では、その『メイデーア転生物語』について詳しくお聞かせください。ご自身の作品のリメイク版とのことですが、着想したきっかけは?

友麻:『メイデーア転生物語』については、この作品を取り巻く状況がややこしすぎて、どこから語ればいいのやら……という感じなのですが。まず、原案となったのはデビュー前にWEB上で書いていた作品です。要するに10年以上前の作品ですね。ファンタジア文庫から『メイデーア魔王転生記 ―俺たちの魔王はこれからだ。―』として出版していただいたのですが、力及ばず2巻で打ち切りとなってしまいました。その打ち切りは自分にとってとてつもなくショックで……。「いつか必ず再書籍化する!」という目標があったからこそ頑張れましたし、現在刊行中の富士見L文庫版『メイデーア転生物語』シリーズに繋がったのだと思っています。

メイデーア魔王転生記 -俺たちの魔王はこれからだ。-
メイデーア魔王転生記 -俺たちの魔王はこれからだ。-』(かっぱ同盟:著、るろお:イラスト/KADOKAWA)
メイデーア転生物語 1 この世界で一番悪い魔女
メイデーア転生物語 1 この世界で一番悪い魔女』(友麻碧:著、雨壱絵穹:イラスト/KADOKAWA)

――リメイクするにあたり、どのように組み立てていきましたか?

友麻:序盤はWEB版にとらわれずガラッと変える、親しみやすい作品にする、情報の出し入れを親切にする、という点でしょうか。前回の失敗がどこにあったのか……ということは、とてもとても考えて、対策しました。

『メイデーア転生物語』には、「10人の大魔術師たちがメイデーアという世界で繰り返し生まれ変わっている」という前提があるのですが、この手の世界の秘密、ややこしい情報は小出しにしつつ、とにかく序盤はキャラクターに愛着を持ってもらえるような楽しいストーリーを意識して作ろう、と。

 そこで、リメイクにあたりとてつもなく大きな役割を担ったのが「魔法学校」という舞台でした。魔法学校の要素は、実のところ旧版にはなかったので……。リメイク版では主人公のマキアが「魔法学校でトップを取る」「好きな人に会いに行く」という目標を掲げていて、そのために班員たちを集めて魔法学校の課題に励む、というような学園ストーリーから始まります。

――青春編と呼べるような、みずみずしい雰囲気ですね。

友麻:親しみやすい展開の中で、読者さんたちにキャラクターのことを知ってもらい、少しずつ少しずつ世界の秘密、転生の秘密というのを混ぜ込みながら、5巻を通し『メイデーア転生物語』の基盤を作ったという感じです。要するに旧版では1巻で進めた内容を、リメイク版では魔法学校という舞台を活用して5巻かけて進めたという感じですね。おかげさまで今回は、打ち切りの心配はせずに刊行できております。

 余談なのですが、読者さんたちがWEB版とリメイク版の2作を呼び分けるのに「旧メイデーア」「新メイデーア」と呼んでいて、私もこの呼び方を活用しております。今ではさらに省略されて「旧メ」「新メ」と呼ばれています。面白いですよね!

――魔法の概念やその仕組み、ルスキアをはじめ各国の設定など。すべてが緻密に描かれていて読み応えがあります。参考にした作品などもあるのでしょうか。

友麻:ストーリーは今時の転生モノの要素を取り入れつつも、魔法の概念や魔法学校に関してはライトノベルっぽさよりも海外の児童文学やファンタジー作品のような雰囲気を醸せたら……というのが企画の段階でありました。編集者さんとのやりとりでは「アカデミックな雰囲気」と表現していた気がします。

『はてしない物語』『指輪物語』『ナルニア国物語』『ハリー・ポッター』シリーズなど、学生の頃に親しんだ海外の児童文学の影響は大きいですね。この辺のラインナップの要素は、読者さんたちも度々感じ取ってくださったのではないかなと思います。

――緻密に構築された世界観だけに、書き進める上では苦労なさったことも多いのではないでしょうか。

友麻:キャラクターや国の名前を、いかに読者さんたちにストレスなく覚えていただくか、という点には気を配りました。私自身もそうですが、固有名詞やキャラクターの名前が覚えられないと「これ何だっけ……」と混乱してしまうことになるので。キャラクター紹介欄や解説欄を充実させて、可能な限り読みやすい仕様にしています。ここは担当編集者さんが毎巻、気にかけて作ってくださっていて、いつも本当にありがたいです。

 また、この作品は「名前」というものが物語のキーになってくるので、主人公のマキアが名付けるシーンを印象的に描いたり、自身の名前を「第一呪文」という固定の呪文に取り入れたりしています。名前や名付けという要素に関しては、かなりこだわりを持って描いていますね。

――登場人物も多いですが、書き分けは大変ではなかったですか? また、魔法学校についての秘話があれば教えてください。

友麻:このシリーズに関しては、リメイクというだけあって大半のキャラクターが最初から出来上がっていたので、あまり書き分けに苦労することはありませんでした。またこれも少し複雑な話になるのですが……。前作の『浅草鬼嫁日記』も旧メイデーアを原案としているので、性格や容姿がやや似たキャラクターがいるのです(私はこの現象を「中の人が同じ」と言っています)。

 メイデーアの魔法学校には「ガーネットの9班」という、主人公のマキアが所属する班があるのですが、その班員たちはリメイク版で誕生したキャラクターばかりです。彼らをどんなキャラクターにしようか、どんな集まりにしようか、というのは少し悩みました。

 班長で一生懸命なマキア、天才肌でクールなネロ、礼儀正しく毒舌なレピス、チャラ男のフレイ……と、個性豊かなキャラクターが揃いましたが、いざ書いてみると掛け合いが楽しく、とてもバランスのとれた愉快な仲間たちです。今となっては「ガーネットの9班」は、この物語になくてはならない存在となりました。彼らが魔法学校の青春を、まぶしく輝かしいものにしてくれたと思っています。

メイデーア転生物語 2 この世界に怖いものなどない救世主
メイデーア転生物語 2 この世界に怖いものなどない救世主』(友麻碧:著、雨壱絵穹:イラスト/KADOKAWA)

――友麻先生の作品と言えば、癒しの存在が欠かせません。「使い魔」として、かわいいキャラクターが登場しますね。

友麻:ドワーフハムスターの精霊「ドンタナテス(ドン助)」と「ポポロアクタス(ポポ太郎)」ですね。彼らは、私がかつて飼っていたハムスターたちがモデルです。うちの子たちは、「ドングリ」「タンポポ」という名前でした。

――友麻先生が好きなキャラクターと台詞、読者に人気が高いキャラクターをご存じであれば教えてください。

友麻:私の一番好きなキャラクター。うーん、メイデーアはどのキャラクターも愛着がありすぎるのと、それぞれ過去の物語を持っているので、本当に一番を決めがたいのですが……。ここはエスカ司教と言っておきます。人相の悪いオラオラした司教様なんですが(笑)、あの見た目と性格と司教服姿のギャップがいいなと思っていて。作者として動かしやすいキャラクターというのもあるのですが、色々な意味で安心感があるところが好きですね。

 人気キャラクターは事前にTwitterで読者さんたちに聞いてみたのですが、やはり主人公のマキアと、メインヒーローのトールは鉄板で、このふたりの組み合わせや恋愛模様が好きだという方が多いと感じました。それ以外のキャラクターは意外と分散していて、男性だと魔法学校のユリシス先生、そして学年首席のネロが人気のようでした。女性だと、マキアの親友のレピスが一番人気だったかな、と。

 ユリシス先生は魔法学校の「精霊魔法学」という教科の先生で、主人公のマキアにたびたび助言をしてくれます。第二王子にして国内最強の魔術師という肩書きで、ちょっと腹黒いとこもあり……。ビジュアルも素敵なので人気なのも納得です。ネロは学年一の天才で、機械いじりが得意ということもあり、マキアに炊飯器を作ってくれます。気だるげなビジュアルでふわふわしているように見えて、じつは結構重たい立場を背負っているというか、芯のしっかりした言動をするキャラクターなので、人気があるのもなるほどなあ、と思いました。レピスはマキアの親友ですが、常に敬語を使う大人びた少女。でもちょっと毒舌なところもあって、書いていて楽しいキャラクターですね。

――待望の最新作『メイデーア転生物語6 片想いから始まる物語』が発売になりました。前作までで、主人公たちの学生時代、および、青春時代が幕を下ろし、一区切りがついたとのこと。最新作はどのような意識で書かれましたか?

友麻:キャラクターにとって大人の時代の幕開けであるとともに、『メイデーア転生物語』という作品において「むしろここからが本編である」というような意識がありました。6巻では、新しい舞台でワクワクのストーリーを……と思っていたのですが、新章突入からクライマックス! みたいな怒涛の1冊になりました(何を言ってるんだか、という感じですが……笑)。

 6巻はもともと書いていた原稿を途中で全部投げて、もう一度最初から書き直してできた1冊だったりします。今このタイミングで自分が読んでもらいたい物語は何だろう……と、かなり自問自答し、気がつけばシリーズで最も重要な1冊になりました。最初の書籍化では「ここ」が書けなかった、それを「やっと書けた」という私にとっても感慨深い特別な1冊です。とはいえWEB版とはかなり違うので、読者さんたちにどのような反応を頂けるのかソワソワしております。

――「追想」として主要なキャラクターの過去(秘密)を明かしていく手法で書かれていますよね。

友麻:そうですね。時代を遡り、キャラクターたちの前世の謎を解いていく構造は、前作の『浅草鬼嫁日記』と同じです。『メイデーア転生物語』が『浅草鬼嫁日記』と違うところは「異世界ファンタジーの物語」であるところ、だと思います。キャラクターたちの前世を追いかけることで、世界の謎がひとつ、またひとつと解けていくところに、このシリーズならではの面白さを感じていただけたらな、と。

――本シリーズの、今後について教えてください。

友麻:新刊のサブタイトルの「片想いから始まる物語」というのが、そもそもシリーズ全体を示すキャッチフレーズだったりします。最初はマキアの片想いから始まった物語だったのですが……。本当は誰の片想いから始まった物語だったのか? という問いかけの部分に、今後とも注目していただけたら、と思っております。

メイデーア転生物語 5 扉の向こうの魔法使い(下)
メイデーア転生物語 5 扉の向こうの魔法使い(下)』(友麻碧:著、雨壱絵穹:イラスト/KADOKAWA)※文庫の初回生産限定版はリバーシブルカバー仕様(左:裏、右:表)

――改めて、作家デビュー10周年おめでとうございます。いま、どのようなお気持ちですか?

友麻:次の10年、どう生き延びようかな、と。そればかり考えております(笑)。

――この10年で、一番大変だったこと、嬉しかったことを教えてください。

友麻:一番大変だったというか、しんどかったのは、ぶっちぎりで旧メイデーア(ファンタジア文庫版)2巻での打ち切りだったかなと思います。WEB上に続きの物語があるのに、一番読んで欲しかったところが書籍として世に出せなかった、というのはやはり悔しかったです。作品に対する「ごめん」という気持ちでかなり落ち込みましたし、私にとって本当に一生を左右する出来事だったな、と。

 ですがこの一件があって、今後二度と打ち切り作品は生み出さない、というふうに強く決意して、結局それが今に繋がっているので、あの失敗は自分にとって本当に大きな財産だったな、と思います。失敗の仕方を知っているのは大きいというか……。とにかくいろんな先のことを想定して、のちのち後悔しないよう準備をしたり、意見をはっきり言うようになりました。おかげで担当編集者さんたちには苦労をかけている自覚があります。すみませんっ!

 嬉しかったことはいくつもあるのですが、ひとつはやはりメイデーアの再書籍化ですね。『かくりよの宿飯』『浅草鬼嫁日記』でコツコツ頑張った結果、長年の執念が実ったので、この再書籍化はご褒美のようなものかなと思いました。

――今後についての意気込みと、読者へメッセージをお願いします。

友麻:読者の皆さまには、いつも熱心に作品の応援をしていただき本当に感謝しております。この10年の作家活動の中で、さまざまなタイミングで作品を知っていただいたと思うのですが、多くの読者さんとの出会いに感謝しております。

 関係者の方々に「友麻さんの読者さんはとても熱い」と言っていただくことが多いのですが、私自身も「読者さんが流れを作ってくれる」と思っております。コンテンツを育ててくれるのは、本当に読者さんだと痛感するのです。感想や作品に対する愛あるツッコミや呼び方など、私自身とても楽しませていただいており、ネタを逆輸入することも多々あります。そんな読者さんのご期待だけは絶対に裏切らない作品づくりを、よくよく考えて進めていきたいと思っております。

 デビュー10周年を機に、本格的に【シーズン2】の作品たち(『メイデーア転生物語』シリーズ、および『水無月家の許嫁』シリーズ)に集中していくことになると思います。読者さんに喜んでいただけるような展開も準備中ですので、今後をどうぞお楽しみに。

 また、友麻作品は本編完結後もシリーズ自体は継続しておりますので【シーズン1】の作品たちも、里帰りのようにひょっこり顔を出すこともあると思います。その時はどうぞ温かく迎えてあげてください。それでは、今後とも末長く、どうぞよろしくお願いいたします!

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