「コンプレックスは他人から見たらどうでも良くても、自分はそうじゃない」――ジャンボたかおの経験をエンタメ力で昇華した、小説の制作インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2023/10/6

説教男と不倫女と今日、旦那を殺す事にした女
『説教男と不倫女と今日、旦那を殺す事にした女』(レインボージャンボたかお/KADOKAWA)

 最終章まで含めて全5章で構成された小説『説教男と不倫女と今日、旦那を殺す事にした女』(KADOKAWA)が9月に発売された。著者はYouTubeチャンネル登録者100万人を超えるお笑い芸人、レインボー・ジャンボたかお。
 お笑い芸人ならではのテンポ感で進んでいく会話の応酬、クスッと笑える言葉のチョイス、個性豊かなキャラクターの魅力、そして最終章へと向かっていくサスペンス要素から目が離せない小説だ。

 今回はレインボー・ジャンボたかおへの制作インタビューを通して、作品の理解を深めていく。

噓っぽくならないことはコントでも小説でも大切にしている

噓っぽくならないことはコントでも小説でも大切にしている

――小説の中に、自分と重なる部分はありますか。

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レインボー・ジャンボたかお(以下、ジャンボたかお):重なるところばかりです。第3章ではとある女の子が主人公になって話が展開していきますが、その中で自分の家の電話番号を、人通りがある公園の遊具に書かれてしまう描写があります。しかも、そこには番号だけでなく「エッチしたい人、ここに連絡して~!」という言葉も添えてある。これは、僕が小学生のときに経験した思い出を元にしています。

 小学5年生の僕は、野球チームに入っていてその練習のために学校へ集まりました。すると、クラスメイトの女子数名がなにかを落書きしている現場に遭遇したんです。遠くから「おい、なにしてんの?」と声をかけても「うるせーっ」という言葉が返ってくるだけ。僕を含めた野球部の男子は、特に気にするでもなく練習へと戻りました。
 その後、休憩時間になってふと「そういえば、あいつらなにしてたんだろう」と思い、女子がいたところに友だちを連れて行ってみると「セックスしたいからここに電話して~!」と書かれていました。

 小学5年生の僕は、それを見てものすごく怖かったんです。今でも鮮明に思い出せるくらいだし、トラウマと言って差し支えないレベル。セックスという単語も友だちと会話の中で出したこともなかったので、とにかく見てはいけないものを見てしまったという感覚で、心臓がバクバクしていたのを覚えています。人の悪意は本来、目で見て分かるようなものではないですが、あのときの電話番号には悪意がにじんでいるような気がしました。
 さらに、恐ろしさに拍車をかけたのは、市外局番が僕たちの通う学校の範囲だったということ。しかも、なんとクラスメイトの女子の緊急連絡先でした。

――実際に経験したことを小説に織り交ぜているんですね。だからリアリティーを感じるんですね。

ジャンボたかお:噓くさくならないというのは、僕が生業としているコントでもまったく同じです。リアリティーを感じるところから、ほんの少しずらすことが面白いと思っているので。小説もコントも作り物だと思う人がいるかもしれませんが、そんな中でも自分が体験したことをベースにしたり日頃思っていることをセリフに込めたり、リアルな部分が入ることは大切だと思っています。

――ご紹介いただいたエピソードも含めて、結構重めなやりとりも多かったのかなと思いましたが、コントを書いているときと比べて、どのくらい“笑い”を意識しましたか。

ジャンボたかお:意識としてはほとんどコントと変わらないですね。クスッと笑ってほしいところとか、この表現って自分らしいと思う部分もかなりありますから。とにかく楽しんで読んでほしいという気持ちで書きました。

自分にとって田中は思い入れの深い存在

――自分と1番重なるなと感じるキャラクターはいますか。

ジャンボたかお:これは明確に田中です。僕も童貞だったときにはコンプレックスを感じていたし、田中の脳内であふれていたどうしようもない文句は、僕が世の中に思っていたことだったりします(笑)。コントの中でも、思い入れのあるキャラクターには田中って名前を付けることがあるので、よくある名前ではなくて、僕にとっては“特別な名前”なんです。

――コンプレックスと向き合いたくないという人もいるかと思いますが、ご自身ではどのように感じていますか。

ジャンボたかお:コンプレックスって他人から見たらマジでどうでもいいことだと思うんですけど、本人にとってはどうでもいいことじゃないんですよね。僕は21歳で童貞を卒業しましたが、そのときまでずっと「セックスばっかりしているやつに負けたくない」と本気で思っていました。でも、そういう自分が嫌か、というと実はそんなこともないです。

 童貞を卒業した瞬間はすごく楽になりました。でも、「じゃあもっと早くに経験したかったか?」と聞かれたらまったく思わないです。それは、童貞だった時期に思っていたことが自分の人格形成に大きな影響を与えてくれたから。

――それは時が経っていい思い出になったということですか。

ジャンボたかお:とんでもない。いい思い出になんてなりませんよ。むしろ今でも当時の嫌な気持ちを思い出せるくらいです。羨ましいとか、憎らしい、悔しいといういろんな感情が一気に押し寄せるような感じです。

 自分の人格形成に影響を与えてくれたとは言いましたけど、21歳で童貞を卒業できなかったら……なんてこと恐ろしすぎて考えたくもないですから。

――そういう自分の感じたコンプレックスが田中に反映されているんですね。

ジャンボたかお:田中が友だちとカラオケに行ったときに、歌詞を替えて童貞ネタをいじられるという描写がありますが、これも僕の経験です。ちなみに、家に帰って泣いたのも事実です。読む人によっては「そんなことで泣くのかよ」と感じるかもしれないですが、自分のコンプレックス、他人から言われて傷ついた言葉を思い出したら、それが僕にとってどれだけ嫌なことだったのかは分かってもらえるはずです。

取材・文/山岸南美

【著者プロフィール】
レインボージャンボたかお
吉本興業所属のお笑い芸人。千葉県千葉市出身、血液型O型。毎日コントをアップしているYouTubeチャンネルの登録者数は100万人を突破している。