山崎貴監督「ゴジラを文芸作品にしたかった」エンタメ映画を作り続けた監督が『ゴジラ-1.0』で“少し先に進みたい”と思った理由とは?【山崎貴インタビュー】

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公開日:2023/11/27

『ALWAYS 三丁目の夕日』を想起するのはなぜか?

――お話をうかがうほどに、今回の『ゴジラ-1.0』には監督の過去作、とりわけ戦中・戦後すぐを舞台にしたものがすべて注ぎ込まれている印象が強くなりました。今『アルキメデスの大戦』の話が出ましたが、それこそ『永遠の0』や『ALWAYS 三丁目の夕日』を思わせる要素もあり……そうしたこれまでのキャリアを結集する意識をお持ちだったのすか?

山崎:意識はしていないですね。でも、ゴジラを語る物語を作っていこうと思ったら、焼け跡の中で、ぼろぼろの恰好なんだけどすごい輝きを持っている人と、真っ暗な主人公が出会って、それが光のほうに吸い寄せられていったときに、また暗闇に引き戻される物語を作りたかった。そう考えたときに、今おっしゃったような、戦後や戦中の映画を作り続けてきたことで入ってきた情報が、繋がった部分はあったんだと思います。資料も大量に読みましたし、取材も大勢の方にさせてもらいました。そういうものが、「ゴジラ」という大きな存在に対抗することを考えていたら、自然とすべて出てきたんでしょうね。意識はしていなかったのですが、できあがってみたら確かに、そう言われてもおかしくない内容だなと、自分でも思いました。やっぱりゴジラをお迎えするには、そのぐらいの全力でやらないとダメだったということでしょう(笑)。

山崎貴監督

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映画を撮ることで「戦争」について考え続ける

――それにしても、戦争とその傷にエンタメで向き合い、こだわり続けることの裏には、どんな思いがあるのでしょう?

山崎:大きいのは子どものときに『紫電改のタカ』と『はだしのゲン』を読んだことなんですよ。『紫電改のタカ』は少年マンガなんだけど、ちばてつや先生の作品ですから、簡単なヒーローものではないんですね。ものすごく恐ろしいと思っていた敵にも血が通っていて、で、それを殺すということはどういうことなのかを、主人公が自問自答する。そんなキャラクターが迎えるラストが、とても衝撃的なんです。読んで以来、「特攻とは果たして、何だったんだろうか?」と、ずっと追究したい問題として心のなかに大きくあります。『はだしのゲン』は親戚に騙されて手にとって(笑)。

――内容を知らずに。

山崎:最初から「こんな怖いの、読めないよ」と思いながらも、読む手を止められなかったですね。夏休み中に読みふけって、寝ると必ず原爆の夢を見るし、夏休みだから終戦記念日とか、原爆の日がくるじゃないですか。その日を迎えると、もう本当に、何をどうしていいかわからないような感情に襲われました。そんな夏があって、以来、こちらもずっと引きずっています。僕にとっては、戦場に行って、戦争を戦った人たちの話の代表が『紫電改のタカ』で、戦争の終わりと戦後に生きて、一番ひどい目に遭った人たちの話の代表が『はだしのゲン』なんです。

――なるほど。

山崎:親からも戦争体験は聞くし、とにかく自分の中には戦争がものすごく大きな存在としてある。その一方で、時間が経つにつれて、戦争の記憶がどんどん世の中から失われていくのを見てきました。一次情報というか、本当に戦争を体験した人からの情報を直接聞いたことがあるのは、僕の世代が最後ぐらいになってきてしまっている。だからこそ、日本で映画を作る意味を考えたときに、戦争のことは折にふれて描かなきゃいけないな思っているんです。それにくわえて、戦争という状況によって、人間がどう狂気に陥っていったか。紋切り型の捉え方、定型の戦争じゃなく「個人が戦争に対して何を思ったのか」を追求して、描けたら、それは非常に「映画」的ですよね。だから常に、いわゆる戦争映画ではない新鮮な切り口を探していて、今回のゴジラも実は、そうしたものでもありますね。

ゴジラ-1.0
©2023 TOHO CO., LTD.

――明快です。

山崎:……ま、でも本当のところは、僕が多分怖がりだからです。子どもの頃から、戦争のことを考えたら怖くて、怖くて、しょうがなかった。だからこそ、正体を見極めようと思って、ずっと戦争のこと考えてしまっていたんです。怖いものの正体さえつかめれば、怖くなくなる。それが子どものときから、怖がりな自分の唯一の解決法だったんですよね。

――理解してしまえば大丈夫だ、と。

山崎:でも戦争は、一向に正体がつかめない。『チェンソーマン』にも、一番怖いものとして「戦争の悪魔」が出てくるじゃないですか。あれはまさにですよ。つかもうとすればするほど、存在が巨大化してくる。「あいつのせいで戦争が起こったんだ!」なんて、言えたらいいんですけど、全然そんなものじゃない。人類という種にかけられた、巨大な呪いだとすら感じることがあります。そうやってわからないものだから、戦争というものが何だったのか、ずっと必死にじたばたと考えている気がしますね。映画を撮ることで。

山崎貴監督

焦土と化した日本に、突如現れたゴジラ。
残された名もなき人々に、生きて抗う術はあるのか。
ゴジラ七〇周年記念作品となる本作『ゴジラ−1.0』で監督・脚本・VFXを務めるのは、山崎貴
絶望の象徴が、いま令和に甦る。

キャスト
神木隆之介 浜辺美波
山田裕貴 青木崇高
吉岡秀隆 安藤サクラ 佐々木蔵之介

監督・脚本・VFX
山崎 貴

映画『ゴジラ-1.0』公式サイト
全国東宝系にて公開中

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