『レーエンデ国物語』作者・多崎礼が見た、山崎怜奈の「鋭い目線と力強い言葉」。対談から浮かび上がった、コンプレックスとの向き合い方とは?

文芸・カルチャー

PR公開日:2024/2/29

多崎礼さん、山崎怜奈さん

 全5巻に及ぶ長編大作ファンタジー小説『レーエンデ国物語』。「革命」をテーマに、架空の国家・レーエンデ国での群像劇を描く。家系に縛られ続けた無垢な少女のユリア、寡黙な射手のトリスタンを中心に描く1巻『レーエンデ国物語』。屋敷が襲撃に遭いレーエンデ東部に行き着いた名家の少年のルチアーノ、彼が出会った怪力無双の少女であるテッサを中心に描く2巻『レーエンデ国物語 月と太陽』。「レーエンデの英雄」を題材に戯曲を描く天才劇作家のリーアン、彼の双子の弟で俳優のアーロウを中心に描く3巻『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』が刊行され、2024年4月17日にシリーズ最新刊の4巻『レーエンデ国物語 夜明け前』を発売する。Xをはじめ、SNSでも数多くの感想がつぶやかれる話題作だ。

 本書に「物語に浸るとはこういうことか。人間のリアルを突きつけてくる、至高のファンタジー」と推薦コメントを寄せたのは、ラジオ番組『山崎怜奈の誰かに話したかったこと。』(TOKYO FM)のパーソナリティ、Web番組『ABEMA Prime』(ABEMA)のコメンテーターなどで活躍する、山崎怜奈さん。

 小説『レーエンデ国物語』の作者である多崎礼さんとの対談では、「装丁」をきっかけに惹かれたというシリーズへの愛を熱弁。やがて、2人の話は「言葉」との向き合い方に及んだ。

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■心に響いた一文「振り返るな。立ち止まるな」

――山崎さんが『レーエンデ国物語』と出会ったきっかけは何でしたか?

山崎怜奈さん(以下、山崎):書店で、装丁が美しい本だなと思ったのが出会いでした。でも、ラジオ用に読むべき本もたくさんあり、当時は“あとで読みたい本リスト”にメモするのみだったんです。読むタイミングをうかがっていたら“推薦コメントを”とオファーをいただいて、ご縁を感じました。

多崎礼さん(以下、多崎):きれいな装丁に仕上げていただいた力ですね。過去に書店でのアルバイト経験があり、私も“面陳”といって装丁を見せて、平積み作業をしていたので、目立つ場所に並べていただけるありがたさが分かるんです。ありがたいことに、書店内では一等地の売り場に置いていただくのも多く、山崎さんのように、目に留めてくださる方がいらっしゃるのは感謝しきれません。

山崎:書店でアルバイトされていたのは、羨ましいです。本を並べるのに憧れがあって。

多崎:書店員は好きな本だけを売れるわけではないので、辛さもありますよ。好きな本ではなく人気の本を並べないといけませんし、書店の一角に趣味の本をポップ付きでこっそり並べて、怒られたときもあります(笑)。

山崎:『レーエンデ国物語』の装丁はマットで、タイトルが“箔押し加工”ですよね。箔押しは“出版社が気合を入れている証拠”と教わったので、「なるほど。気合が入ってるんだ!」と(笑)。

多崎:着眼点がスゴい(笑)。

――(笑)。実際、読んでの感想はいかがでしたか?

山崎:結果、推薦コメントのために読んで、正直「とんでもない仕事引き受けちゃった」と、圧倒されました。コメントは40文字ほどに制限されていたので、ふさわしい言葉が浮かばず、締め切りギリギリかちょっと超えるまで粘ったんです。5~6個考えて「好きなように組み合わせてご使用ください…」と、提案しました。

山崎怜奈さん

――採用されたのは「物語に浸るとはこういうことか。人間のリアルを突きつけてくる、至高のファンタジー」でした。

山崎:言いたいことがたくさんあり、まとめるのは難しかったです。「読みはじめたらもう抜けられない」とか、「一緒に乗り越えないといけない」とか。「感情がとっちらかって言葉にならない」と、思いつくまま書きました。採用していただいた「人間のリアル」は、要約された文字数でパッと目に留まるワードを入れようと思っての強めなフレーズでした。

多崎:しっかり読み込んでいただいて、ありがとうございます。

山崎:登場人物みんなの生き様がそれぞれカッコよく、全員を好きになりますよね。けっして綺麗事ではなく、見て見ぬふりをして生きていけるなら「それでいい」と思える、人間の辛さを掘り下げていらっしゃって。美しいものだけを見せるのではなく、“体力がないと読めない物語だった”という、ファーストインプレッションは間違っていなかったです。1巻でユリアにトリスタンが言った「振り返るな。立ち止まるな」のように、日常でふと思い出すフレーズもたくさんありました。

多崎:普段、ファンタジー作品は読まれるんですか?

山崎:さほど読まず、現実社会を描いた作品が中心でした。それでも『レーエンデ国物語』には、浸れる感性を持っていたのがビックリで、没頭できて楽しかったです。

多崎:ファンタジー作品は、読む人と読まない人がハッキリ分かれるジャンルだと思うので、嬉しいです。

山崎:「現実にレーエンデ国はないんだよね?」と思うほど、リアリティがあって。苦しい環境下に置かれた登場人物を見て、救いがないと捉えるか、それとも、一周回って救いだと捉えるか。判断を読者に委ねていて信頼と愛が強まり、『レーエンデ国物語』ならでの重厚感は、ファンタジー作品になじみない方でも、入り込んでしまうほどの説得力があると思ったんです。

 実体験とも重なって、私は3巻にある「芸術に貴賤はない。貧富の差も民族の壁も飛び越えて、誰の心にも等しく響く」の一文が、特に好きでした。実は、過去にヨーロッパ6カ国を日ごとに渡る弾丸ツアーを組んだことがあるんです。当時、ロンドンで無料開放されている美術館や博物館を回ったとき、肌の色、出身国、使う言語の違う人たちが同じ展示品に足を止めていたのを思い出して、ファンタジー作品であっても、現実との境界線がないと感じました。

山崎怜奈さん

■スイスをモデルに作り上げたレーエンデ国

――スマホで『レーエンデ国物語』の読書メモを、詳細に書いていらっしゃったんですね。

山崎:同時並行で数冊を読んでいるので、忘れないように書いているんです。舞台背景や登場人物の名前を出てきた瞬間に書き込み、ページをめくりながら振り返って。多崎先生は『レーエンデ国物語』を、どこから書きはじめたのか。出発点が知りたいです。

多崎:出版社の方から「長い年月をかけて、空想世界の大河小説を書きませんか?」とお話をいただき、最初は「国が滅びるまでの話を」と打診されて。でも「国が滅びるなら、再び興すまでの『革命』の物語を書きたいです」と応えて、5巻構想になったんです。

山崎:レーエンデ国はどのように作ったんでしょうか。1巻ごとに百数十年も時間が経ちますよね。でも、私たちは経験したことがない。世界史の授業のように、各国の歴史を学ばれたんですか?

多崎:地理も世界史も苦手ですけど、“物語のために”と必死に勉強しました(笑)。実は、レーエンデ国はスイスがモデルなんです。国の大きさ、立地、歴史は参考にしています。

山崎:たしかに、作品からヨーロッパの内陸に近いものを感じていました。あらかじめ、結末を決めた上で書いたのかも、気になります。

多崎:そうです。結末からの逆算で、実際の原稿は1巻の冒頭から書いています。頭から積み上げていかないと、私もレーエンデ国について分からない部分があるし、全体像をつかめないんです。

山崎:作家さんによっては、事前のプロットに沿って執筆される方、頭の中で自然と登場人物たちを動かせる方と、創作の方法もまちまちだと聞いたことがあるんです。多崎先生は、どちらでしょうか?

多崎:私は、事前にしっかりプロットを固めます。結末を決めないと、怖くて書けないんです。何も決めずに書きはじめる方のお話を伺うと「頭の仕組みがどうなっているんだろう」と思いますし、尊敬します。

山崎:背景をしっかり考えていらっしゃるから、違和感なくのめり込めるんですね。ただ、魅力的な登場人物も多く登場する作品で、どんな産みの苦しみがあったのだろうと想像していました。

多崎:苦労したのは、1巻の主人公であるユリアです。私に乙女心がないので、家系に縛られる彼女の心情を理解するまでに時間がかかりました。親の言うことを受け入れるのが“いい子”とする感覚をつかむまでが難しく、イメージはあったんですけど、言葉に変えるまでの時間がかかったんです。

山崎:ユリアの想いは2巻以降も受け継がれますし、鍵となる人物ですよね。彼女に限らず『レーエンデ国物語』からは、登場人物たちのリアルな苦しみも伝わってきました。「革命」に立ち会った経験はなく、想像でしかないですけど、描かれる戦争の物語が、今あるウクライナ、イスラエルの問題とも重なったんです。ニュースを見て“レーエンデ国に生きる人たちは、現実の問題といかに向き合うか”と考えたのは、ファンタジー作品ながらも、人間のリアルな苦しみが反映されていたからだと思いました。そうした登場人物たちの作品では描かれないバックグラウンドも、考えていらっしゃるんですか?

多崎:たぶん、あるのかなと思うんです。舞台設定も、各巻の章トビラにある物語関連のキーワード解説は、編集担当の方のアイデアでしたけど“この章では、流行っている食べ物を解説しましょう”と言われて、“たしかに、流行っているものがあってもおかしくない”と気が付いたんです。レーエンデ国で暮らす人たちが、苦しい生活を強いられているのは間違いなくとも、彼らにも息抜きがありますし、書く書かないは別として、生活を想像しておかないと、物語が進まないんです。風景も同じ、描いていない街角の光景にも、カメラをフォーカスできます。

山崎:景色が浮かぶのはもちろん、登場人物たちが風景を見たときの、カメラを通した視界の変化は感じられました。自分が“レーエンデ国にいる”と錯覚したし、湿度、匂い、温度、風も伝わってきたんです。

多崎:ありがとうございます。モデルとなったスイスを参考に、執筆前に入念に研究したんです。例えば、“森はどうすれば終わるのか?”と想像しながら、ここからが森で、平原だとハッキリ区分けされているわけでもないだろうと思ったので、現実的な風景を描くため、色々な角度から調べました。

多崎礼さん

■SNSでの“あらぬ声”といかに向き合うか

――ここまでの対談で、多崎先生から見た山崎さんの印象はいかがでしょうか?

多崎:心を見透かされそうなほど、鋭い目線をお持ちですよね。言葉の鋭さもあって、私は好感を抱いたんですけど、誤解されてしまうときもあるのかなと。

山崎:幼少期からずっと、コンプレックスだったんです。自分が言葉で他者を傷つけたかもしれない、とその場で、その瞬間に気が付いてしまうので、会話への抵抗感もありました。そこから、誰かのしゃべっているラジオを聴き、誰かの書くエッセイを読むようになったんです。アイドルグループ時代も大人しい印象のメンバーが多い中で、自分は言葉が鋭くなりがちだったのも、コンプレックスでした。

多崎:キャラが立っていますし、自信を持っていいと思います。

山崎:フォローしていただき、ありがたいです。コメンテーターのお仕事では、ニコニコしながら思ったことをまっすぐに発言しますし、鋭さに気が付きながらも「今、言っちゃった…」となるタイプなので、タチが悪いのかなと思うんです(苦笑)。かたや、連載を担当させていただいているエッセイ(Hanako Web『山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」』)では、冷静に素直な思いを書いています。

――言葉のお話では、多崎先生はSNSでの批評など、あらぬ声が気になってしまうそうですね。

多崎:そうなんです。意図したものが伝わらないのが、辛いんですよ。小説は理解されないと意味がなく、表現が誤解されると“書いているけど、伝わらなかったか…”と、自分に対してガッカリします。ですから最近、ミュートするというワザを覚えました。アイドルグループ時代から、たくさんの声にふれてきた山崎さんの経験も聞きたいです。

山崎:過去には、誰かの言葉に傷付いて死にたくなる瞬間もあったとは思います。でも、自宅でなくなったトイレットペーパーを補充していたときにふと“どんなに嫌なことがあっても結局明日も生きていこうとしている”と気が付いたんです。SNSで批判されて、納得できるほどの説得力があるなら“直そう”と受け止めますけど、そうでなければ“表現しないと、いてもたってもいられなかったんだろう”と思って。感情のままにつぶやいているなら、意見に乗っかったところでその人が人生を保証してくれるわけではないし、気にすることもないと割り切っています。

多崎:参考になります。ちなみに、小説を書きたい意欲はあるんですか?

山崎:あります。世界観、登場人物の設定はできているので、物語の流れさえ組めれば書ける段階です。書きたい物語は山のようにあって、生活で“生々しく、本になったら共感していただけそう”と思う瞬間を、たくさんメモしています。

――時間も残りわずかですが、最後に対談の感想を伺えればと思います。

山崎:他にも多彩な方々と対談されていて“私で大丈夫かな?”と、不安だったんです。時間をかけて作られた物語の読者代表としての、責任感もひとしおでした。

多崎:本当に言葉の鋭さに惹かれました。実は、対談まで私も不安だったんですよ。ラジオで色んな作家さんとお話しされているので、“作家のクセに薄っぺらい”となったらどうしようと思っていたので(笑)。

山崎:いえいえ、自分にはできない職業ですし、そんなことは思いません(笑)。作家さんも十人十色で面白いですし、『レーエンデ国物語』のような大作を書かれるのは、専業でないと無理だとも思いました。

多崎:実は、プロデビュー後もしばらくは書店のアルバイトを続けていて、当時、編集担当の方から“小説だけで生きていけるのはほんの一握りなので、アルバイトは辞めないように”と言われたんです。今では専業になったんですけど、書くだけではアウトプットのみになりますし、また、書店のアルバイトをやりたくて。

山崎:私も、ほとんどの仕事がアウトプットですし、インプットをスケジュールに組み込まないと、中身が枯れてしまう感覚があるんです。最後に意外な共通点が見つかりました!

多崎礼さん、山崎怜奈さん

取材・文=カネコシュウヘイ、写真=金澤正平
ヘアメイク(山崎怜奈さん)=田中康世(Nous)
スタイリング(山崎怜奈さん)=Maki Maruko
衣装協力=トップス・スカート(Seivson 問い合わせ先:THE PR https://theinc-pr.com/)、シューズ(CHARLES & KEITH https://charleskeith.jp/)、リング・ピアス(moil https://moil-order.com/