旅するカップルYouTuber・サニージャーニー、活字で届けた“すい臓がん”闘病の「リアル」

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/28

 人気カップルYouTubeのサニージャーニーが、ノンフィクション書籍『日本一周中に彼女が余命宣告されました。~すい臓がんステージ4 カップルYouTuber 愛の闘病記~』』(双葉社)を出版。2024年3月24日には東京・芳林堂書店 高田馬場店 8階 イベントホールで、出版記念記者会見が行われた。

日本一周中に彼女が余命宣告されました。

 同書は、登録者数21万人超(2024年3月時点)を誇るカップルYouTuber・サニージャーニー初の著書。夫・こうへい視点での独り語り、妻・みずきのインタビューパートを章ごとに展開する。

 日本一周を掲げる“旅するカップルYouTuber”だった2人の生活は、みずきのすい臓がん発覚により一変。ステージ4で「余命4カ月から2年」の宣告まで受け、「私、今死んでも幸せだな」と覚悟を決めたみずきの心を「生き続けないとだめだ!」と変えたのは、こうへいの献身的な愛…。書籍では、みずきの主治医のコメントや診断書、セカンドオピニオンを担当した押川勝太郎氏(宮崎善仁会病院・腫瘍内科医)の証言も収録している。

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日本一周中に彼女が余命宣告されました。

一部分を切り抜かれる動画とは異なる著書で「リアル」を届けようと

 会見冒頭、司会者から出版経緯を聞かれたこうへいは「旅の途中でみずきがすい臓がんになってしまいまして、そのことをYouTubeで発信したときに大きくバズって、色んな方に注目していただいた」と回想。

 当初、出版の話を受けたときは「(みずきの)余命が何もしなければ4ヶ月で、延命治療をしたとして6ヶ月~2年と言われていたので、正直、あんまり書くつもりはなかった」と振り返りつつ、状況が落ち着いたときに版元である双葉社の担当編集者から再び声がかかり「動画で大きくバズったことで、誹謗中傷とかも多かったんですけど、一部分を切り抜かれて発信されてしまうことがすごく多かったんですね。僕たちの印象が、ねじ曲げられた形で世間に届いてしまうことが多かったので、本を出すことで『自分たちがこういう状況だったんだ』と、少しでも多くの人に届けばいいと思って、出版させていただくことに決めました」と明かした。

 一方のみずきは、著書を通して「私自身も知らなかった(こうへいの)気持ちを知れたし、初めて本を手に取ってくださる方も、リアルに感じ取っていただけるんじゃないかと思っています」と吐露。「病気だからって『こう過ごしているはず』という、ネガティブなイメージを払しょくできればなって。延命治療しかないと言われても、楽しく過ごせる時間はあるし、そう過ごしていた方がポジティブに自分と向き合えるんじゃないかと思っているので、そういう部分も、本でお伝えできれば」と思いを募らせた。

 出版後の反響について、こうへいは「僕たちの気持ちがリアルに描写されていて「読みながら泣きました」という声をたくさんいただいて、ありがたい」と感謝。ただ、なかには「嘘八百」「闘病すらしていない」と辛らつなレビューもあり「そういう反応もあるのか、というところがあって。今後、色んな方に手に取っていただいて、僕としては動画を見たことがない方に読んでいただいて、反応をいただけたらリアルなのかと思うので楽しみ」と、期待を込めた。

 こうへい視点の独り語り、みずきのインタビューパートが交互に展開する著書を通して、たがいの思いを知るうれしさも。「今までもみずきは、僕がいれば『人生勝ちだよ』と。余命宣告を受けても、僕がそばにいれば『人生勝ちだと思ってる。それだけで十分』と動画で言ってくれていた」と振り返るこうへいは、著書によって「さらに奥の思い」を知れたと喜んだ。

 かたや、こうへいの独り語りを読んだみずきは、すい臓がんの発覚後に「(こうへいが)あのとき、病院に『もっと強く連れて行ったのに』とか、『もっと違う検査を受けさせたのに』とか、考えさせてしまっていたんだなと申し訳なく思っています」と吐露。「自分事として捉えてくれているんだと実感して、それは、聞けてない気持ちでもあったので強く覚えています」と、パートナーへの感謝をにじませた。

日本一周中に彼女が余命宣告されました。

「より真実に近い届け方」ができるのは活字のメリット

 過去を振り返っての著書執筆では、苦労もあった。こうへいは「お話をいただいたときに『僕が書きたいです』と口走ってしまって『いいですよ』と(出版社の担当編集者が)言ってくださって書きはじめたんですけど、当初は、自分でと言ったのを後悔しました」と苦笑。ノンフィクションのため「時系列」「実際に起こった出来事」を整理する必要もあり、「記憶をたどる作業でしかなかったので、記憶を掘り起こしていくのが大変で。ずっと机の前で何も書けずに、考えている時間が多かったです」と明かした。

 そんなこうへいを支えていたみずきは、自宅のリビングで「(こうへいから)『あのとき、どうだったかな』とか『時系列はどっちが先だったかな』と聞かれるんですけど、私も覚えていなくて」と回想。「2人で『ん~、どうだったかなぁ…』って悩みながら、2人とも覚えていなくて『どうしよう…』となっていた。最終的にはGoogleマップやLINEの履歴、当時の写真や動画を頼りにかなり正確なものになりました」と、執筆当時の様子を振り返った。

 2人が日常的に発信するYouTubeの動画と、本の違いも。動画では切り抜きにより「印象が決定づけられてしまう」リスクもあるため「発言」に気をつけていると述べたこうへいは、本の執筆により「リアルなそのときの体験をそのまま書けたかなと思うので、意義は大きい」と感想をつぶやいた。

 さらに、動画は「同じことを言っていても、雰囲気とか話し方とか、表情とかで全然変わってしまう」と持論を展開。活字では「文章をもとに読者が想像してくださって『こういう人だったんだな』って感じてくれる」ために「より真実に近い届け方」ができると、手応えを示した。

 著書によると、みずきのすい臓がんは現在「経過観察」中で「このまま5年間再発がなければ、根治と言うこともできる」とも。「気持ち自体は元気ですし、病気の症状は今のところないので、これからも元気に活動したい」としたみずきは、2人での日本一周の最中に病気が発覚したことから「最後までやりとげたい気持ちは強く持っていましたし、それ自体が治療のモチベーションになっていたので、今後は体力を戻しながら、日本一周に再度取り組めたらと思っています」と、この先の目標を明かした。

 一方、パートナーのこうへいは「少しずつ日常が戻ってきているような感じ」と、近況について言及。みずきと同じくがんと闘病する人たちの「希望になれるようなことができたら」と思いを馳せ、「今のところは、みずきの元気な姿を見せていくことしか形が見えていないんですけど、何ができるか、一つひとつ考えていきたいと思っています」と、真剣な表情で伝えた。

取材・文=カネコシュウヘイ 撮影=金澤正平

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