一大ブームの火付け役が語る『ESSE』だけの「つくりおき」の魅力は?

暮らし

公開日:2017/10/13

「つくりおき」ブームは『ESSE』からはじまった!?
大人気シリーズ最新刊『つくりおきおかずで朝つめるだけ!弁当 BEST!』の刊行を記念して、著者の小田真規子さんと『ESSE』編集長の佐々木智子さんに「時間がおいしくしてくれる」つくりおきの魅力について語り合っていただいた。

佐々木智子(『ESSE』編集長・左)、小田真規子先生(右)

 

編集長 今でこそ大ブームになっている「つくりおき」ですが、この言葉を初めて巻頭で大特集したのは2008年10月号の『ESSE』、より正確に言うと小田真規子先生ではないでしょうか。

小田 もう9年も経つんですね。初めて企画をいただいたときは、実は抵抗があったんです。ホーローなどの四角い箱に冷たいおかずを入れて撮影する、って普通の料理撮影と真逆じゃないですか? プレートの上に温かいおかずを盛るのがそれまでの常識でしたから、「本当にこれでいいの?」という不安がありました(笑)。

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編集長 ところが、その企画が大人気になりまして。それで翌年の4月号でもまた「つくりおきおかず」を活用したお弁当特集をしたところ、やっぱり反響がすごかったんですね。

小田 ここまで「つくりおき」がブームになった背景には、共働き家庭が増えたことが大きいと思います。より経済的に効率よくお料理をつくりたいと考えて働くお母さんが増えてきている。外へ働きに出ることでお弁当を持っていく人口が増えていることも関係しているかもしれませんね。

編集長 皆さん、お忙しいですからね。でも夜や週末にちょっとがんばって仕込んでおけば、忙しい朝や日常にわずかでも時間の余裕が生まれる。そういった考え方が支持された部分が大きいのではないでしょうか。先生はプロの料理家として、「つくりおきおかず」をどう捉えていらっしゃるのでしょう?

小田 私は、「つくりおきおかず」は〝調理科学の集大成〟だと思っています。例えば、冷蔵庫でお肉を放っておいたら硬くなるし、野菜ならおいしさが半減しますよね? 冷蔵状態でいかにおいしさを保ったまま日もちさせるか、と考えたらひとつひとつクリアしなきゃいけない調理の課題が見えてくる。

編集長 でも、ただ調味料に長く漬けておけばいい、味を濃くすればいい、という単純な話だけだったら、ここまで多彩なレシピは生まれませんよね。

小田 お肉ならやわらかい食感を保つために味噌の酵素や塩、油を活用したり、野菜なら水分が出ないような切り方にする……。そういった素材の特徴を理解した上で、うま味や食感、香りを持続するためには、下ごしらえや加熱の段階でどういう工夫ができるんだろう、と考え尽くす。調理科学の集大成とはそういう意味です。

編集長 小田先生に手がけていただいている『ESSE』の「つくりおきおかず」の最大の特長は、「1週間保存OK」ということです。これは他にはない強みだと自信を持って言えます!

小田 やっぱり1週間はもたないと。週末につくって、次の週いっぱいおいしく食べられないと、お母さんたちの日常の助けになりませんから。

編集長 しかも、日もちするだけじゃなく、時間が経つほどにおいしくなるのも小田先生の「つくりおき」の素晴らしいところ。先生はつくってから1日目、5日目、7日目と、段階ごとにすべての料理を試食されているんですよね?

小田 はい。味や食感の変化がわかって面白いですよ。すべて私とスタッフが必ず7日目まで試食して、「これならおいしく食べられるね」と納得できたものだけOKとして、撮影しています。

編集長 それから、これは『ESSE』の雑誌としての方針でもあるのですが、食材も調味料も特別なものは使いません。使うのはどこの家庭にでもあるものだけ。でもきちんとおいしいし、日を追うごとに味や食感が違う楽しさもある。ここが小田先生の「つくりおき」のすごさであり、なんとかこの感動を読者の方にもお伝えしたいですね。先生から、これから「つくりおき」に挑戦される読者にアドバイスをお願いできますか?

小田 「塩」と「酸味」を上手に活用すると、ぐんと楽になりますよ。いつもより塩を少しきつめに振るだけでも、保存性が高まり味わいも長続きします。これは日本人の保存食の考え方と一緒ですね。そして「酸味」は、料理全体を引き締めて味を間延びさせません。酸には肉をやわらかくする作用もありますし、保存性も良くなります。そういった調味料の特性を知っておくと、「つくりおきおかず」に限らず、お料理はもっと楽しくなるはずです。

おだ・まきこ●料理研究家・フードディレクター・栄養士。「スタジオナッツ」を主宰し、雑誌、テレビ、広告などで活躍中。商品開発などのコンサルティングにも関わる。

ささき・ともこ●週刊誌『SPA!』、女性向けファッション誌『LUCi』などを経て、2005年より『ESSE』副編集長、14年4月より12代目編集長に就任。

小田真規子先生 つくりおき試食会レポート


8月某日、累計70万部突破のロングセラー「朝つめるだけ!弁当」シリーズから選ばれた「最強つくりおきおかず」6品を小田先生がつくり、書店員が試食する会が扶桑社主宰で開かれた。テーブルには鶏ハムのグリーンオイル漬け、焼きサバのカレーなます、中華風ゆで卵など、名前からして食欲をそそる料理がずらり。つくった翌日と5日目では味がどう変わっているのかも含め、実際に食べ比べた書店員の皆さんに感想を聞いた。



久美堂 藤田哲也さん
5日経った「ゆで牛肉とトマトのマリネ」を食べてびっくり! 口の中でとけちゃいそうなこのやわらかさ、「あれ、別のお肉を食べているのかな?」と思わずメニューを確認してしまいました。料理は時間が経てば食感が硬くなったり、味が落ちたりするのが当然という先入観があったのですが、とんでもない。どれも本当においしかったです。

三省堂書店 雨宮雅美さん
まず驚いたのが「1週間日もちOK」ということ。お肉やお魚など鮮度が重要なおかずは正直「大丈夫なのかな」と思っていたのですが、つくって1日経ったものがおいしいのはもちろん、5日目のものも味がまろやかになって、また別のおいしさが発見できました。つくりおきを試したことがなかったのですが、これなら挑戦してみたいです。

 

取材・文:阿部花恵 写真:鈴木恵子