映画と同じ作り方で生まれた! 普遍的なのに世にも新しいハロウィン絵本『ジャック・オー・ランド ユーリと魔物の笛』 山崎貴監督×郷津春奈さん対談

エンタメ

2017/10/18

 いよいよ公開迫る映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』の山崎貴監督と『舟を編む』など多数のアニメーション作品に携わるアニメーター・郷津春奈。映像作品の世界に身を置く2人がタッグを組み、互いに初となる絵本を生み出した。

 “信じる心”をテーマにした、読む人のなかで育っていくようなその絵本は、どこか懐かしいのに、触れたこともない新鮮な味わいを連れてくる。制作の過程、そして、そこにあった“物語”とは――?

■魔物から逃げるための仮装――そこから発想を転換

――昨年からスタートした「ジャック・オー・ランド」は横浜アリーナを舞台に繰り広げられる史上最大級のハロウィンフェス。絵本『ジャック・オー・ランド ユーリと魔物の笛』誕生の種は、そのイベントにあるそうですね。

山崎貴監督(以下、山崎) 子供も大人も楽しめる、そのフェスティバルの芯になる物語を考えてほしいと頼まれたことがきっかけなんです。普遍的で読んだ人が自分の心のなかで育てていけるような物語を、と。なんだかワクワクして書いてみたら、“では、絵本にしましょう”ということになって。じゃあ、絵はどうする? というところで、郷津さんが登場。

郷津春奈氏(以下、郷津) 初めてお会いしてすぐ、“こんなのどうですか?”と、山崎さんから次々とメールで絵が送られてきて。それが、どれも素晴らしい絵で、“あ〜、仕事、取られちゃう〜!”と、焦りました(笑)。

山崎 ははは(笑)。

郷津 物語を書いているとき、山崎さんのなかでは、もう絵が浮かんでいたのですね?

山崎 物語と同時進行で絵を描いていました。郷津さんとの初めての本格的な話し合いは、まさにこの部屋でしたね。

郷津 延々とご飯も食べずに、終電まで打ち合わせしましたよね。

山崎 イメージや方向性をはじめ、下書きのラフ線をあえて入れるなど、手触り感や温かみのある絵でやれたらいいなとか、その描き方も含めて話し合いました。

郷津 その次はキャラクターの細かいところを詰めていって。

山崎 “魔物の王、ジャック・オーはどんな服を着ているんですか?”とか、郷津さんからは、ガンガン質問を受けたよね。“他の人が思いつかないようなこと、もっと考えてください!”とかも言われて。

郷津 そんななかから、ジャック・オーのローブの襟に、街灯がついたり……。

山崎 郷津さんのコントロール下で、普段の映画監督の仕事とは逆のことをさせられていた気がするなぁ(笑)。

――1年に1度、人間と魔物が一緒にお祭りをする、魔物の街“ジャック・オー・ランド”で毎年、繰り広げられるその日=ハロウィンはなぜできたのか? 物語はその謎を追うとともに、勇敢な人間の男の子・ユーリとその友だちであるゴブリン魔物のコブが見つけた、“大切なもの”を語っていきますね。

山崎 ハロウィンの起源には、悪霊たちを驚かせて追い払うために、人間が仮装したり、魔除けの焚き火をしたりと言われているそうで。そのルーツの感じを残しつつ、日本的なお話に再構築していったのですが、僕は魔物から逃げるために仮装するのではなく、仲良くするために仮装ができたらいいなと思ったんです。

郷津 仮装をすれば魔物もびっくりせずに、お互い出会えるんじゃないかと?

山崎 そう。魔物と人間、どう手を繋げば、種族を超えて仲良くなれるかなって。子供に贈る話なので、メッセージも内包したかったんです。たとえば相手のことを知らないがゆえに怖がっていたり、淋しいのに強がっていたり、日常のいろんなケースに置き換えられることを。戦争も含め、相手のことがわからないから起こっていることが、世の中にはたくさんあるような気がしていたので、そういうものを寓話という形で表現できればなと。

郷津 読み手である子供たちにそうしたことが伝わるかどうか、打ち合わせのとき、ここで朗読もしましたよね。

山崎 全編にわたって、何度もね。まるで本打ち(脚本の打ち合わせ)をしているような感じでしたね。

■何かが変わる“信じる心”を伝えるために

――この絵本の芯にあるのは“信じる心”。『永遠の0』『ALWAYS 三丁目の夕日』など、山崎さんの映画監督作品にも通じるところがありますね。

山崎 僕の思う“信じる心”みたいなものは、裏切られてもいいものなんです。たとえば『ALWAYS 三丁目の夕日』で、吉岡秀隆さん演じる、作家の茶川さんが、一緒に暮らしている少年・淳之介くんの文章を勝手に借用して、小説を書くんですけど、その“裏切り”が発覚したとき、淳之介くんに“うれしいです”っていう言葉とともに、信じる心をぶつけられる。そこで茶川さんの何かが変わるんです。たとえ信じる心を裏切っても、そうした純粋なものに出会ったとき、ちょっと変わる、浄化されるというのが、僕は好きなんだと思います。

郷津 “信じる心って何?”と、改めて考えさせられました。それを子供たちに伝えるということも。

山崎 物語のなかでは、ユーリの心も行ったり来たりするしね。人間って、ふと悪いものが出てきて、それに乗っちゃうことってよくあるじゃないですか。人としては、こっちの方向に進むべきだけど、あっちに行った方が便利だったりするとき、悪しき方向へ進むというのが。その危うさみたいなものは、大人も子供も隔てなく、みんな持っていると思うんですよね。

――そんな心の魔物を、ユーリが捕まえる場面が印象的でした。子供たちにとって、まるで“お守り”になるようなページですね。

山崎 あの絵はわかりやすかった。ある道具をその表現として使って。

郷津 この場面は物語の重要なポイント。自分の心の葛藤をどうやって収めるかみたいなところをわかりやすく絵で表現できないかなと、あれこれ思いを巡らせましたね。天使と悪魔が自分を挟む、という絵もわかりやすいけど、そうではないものにしたかった。

山崎 現実では、天使と悪魔、両方の話を聞くことはまずないと思うんだよね。僕は、悪いやつが出てきて、そいつに呑み込まれるか、そいつを倒すか、どっちかだなぁ。

郷津 私の場合は自分が10人くらいいて、会議をするんです。大きなテーブルに座って(笑)。

山崎 10人も!?

郷津 性格が複雑なんだと思うんです。さっき山崎さんが、信じる心で浄化される感じが好き、とおっしゃったじゃないですか。私はどちらかといえば、そういうものを否定的に思っていたんです。

山崎 リアリストなんだね。

郷津 サンタクロースも6歳頃には、もういないとわかっていた。世の中、そんなにうまくいくわけない、いろんなことを簡単に信じたりはしない、という子供だったんです(笑笑)。この絵本を読む子のなかには、そういう子もいるんじゃないかと。だから、私みたいな、そんな子供にも伝えられるような“信じる心”を描きたかったんです。

山崎 そうだったんだ。

郷津 実は、絵を描く前、10人くらいの子どもたちに物語を読んで、聞いてもらったんです。私の同級生のお子さんとか、その子たちの友だちに集まってもらって。この物語がちゃんと伝わるか、どの部分が面白いと感じるのかということを知りたくて。

山崎 えーっ! そうだったの!?

郷津 感想も書いてもらったんです。そしたら、ジャック・オーの持っている笛が青く光るところが面白かったとか、“友達を信じる”ところが好きと。あ、伝わっているな、と納得して。それで朗読を聞いていた子供たちの表情を思い浮かべながら絵を描き始めたんです。

■“絵本らしさって何?”という基本に立ち返って

――『妖怪ウォッチ』や『ポケットモンスター サン&ムーン』など、普段はアニメーターとして絵を描かれている郷津さんですが、ご苦労なさった点は?

郷津 たとえば、ジャック・オーの笛が“青く光る”のは、笛が青くなるのか、青い光が出るのか、どっちなんだろう?とか。

山崎 そこを悩むのが、アニメーターの思考だよね(笑)。

郷津 “絵本っぽい感じの絵を描いてください”という、山崎さんの言葉にも考え込みましたね。そこから“絵本らしさって何?”という基本にも立ち返って。

山崎 レディメイドな絵にし過ぎると、短時間で消費されるものになってしまうからね。朴訥な、アートに近い、けれどわかりにくいものにもしたくなくて。そのあたりを2人でいろいろ悩みましたよね。

郷津 “僕はこういう本を読んでいました”って、『おおきなきがほしい』という絵本も貸していただいて。

山崎 文・佐藤さとるさんと、絵・村上勉さんの、このチーム、すごく好きなんです。

郷津 “この絵のちょっと歪んでいる感じとか、水彩みたいな感じがいいよね”って、そこから、“歪み”を持っているような絵がいいんじゃないかな、という発想も出てきて。

山崎 日本のアニメ的な線でもない、もうちょっと外国を感じさせるような雰囲気もいいよね、とか。

■絵本づくりとしては、新しかったし、面白かったし、変だった(笑)

――“絵本らしさ”という、根源的なところにも思考が巡ったお2人の絵本づくり。そこでは映像の世界とは違う、新たな扉が開いたのではないでしょうか?

山崎 実は、いつもの仕事の延長線上でもあったんです。脚本を書くような作業、キャラクターを開発するみたいなところから始めて、それを表現できる方に描いてもらう。非常に映画づくりに近いですよね。この絵本が、新鮮な感覚を持って読んでいただけるとしたら、それは多分、絵本づくりの手法とは異なる、映画のつくり方に近いやり方をしていたからだと思うんです。

郷津 そうですね。

山崎 相談しながら、だんだん形を作っていくというのも、すごく映画的な手法なので。絵本づくりとしては、そこがきっと新しかったし、面白かったし、変だった(笑)。そしてそれは、郷津さんがアニメーターだからこそできたと思うんです。

郷津 そうかもしれません。

山崎 絵を描いていただくのが、絵本作家として、ご自身のスタイルを確立した方だったら、軋轢が生じていたかもしれないし、逆に、完全におまかせしてしまったかもしれない。けれど郷津さんは、こちらの要求に対しても柔軟に応じてくれる“変える力”を持っている真のアニメーターだった。“私はアニメーターです”と言い切っていらっしゃいましたよね。その言葉を聞いて、これはいろいろツッコんだことができるかもしれないと、自分のスイッチが切り替わったんです。おまかせしてしまうより、一緒につくった方が絶対にいいなと。

郷津 絵を描いているときは、アニメーターとは、まったく違う筋肉の使い方をしましたけれどね。普段描いているテレビやスクリーンのように決まったフレームではないところなどに苦労しましたし、いつもの仕事にはあまりない歪みやうねりを取り入れて子供達の想像の世界が膨らむように気を遣いましたね。アニメーションの感覚も活かし、なるべく躍動感のある絵を心がけました。アニメーションの「設定」のように、“この場所にこの建物はないのだから描いてはならない”とかそういった決まりごとにもあまりとらわれず、それよりも登場人物に“どう見えているか”、子供達がどういう印象を持つかということを大切にしたいなと。そういうことを考えたり、想像しながら描くことはすごく楽しかった。

山崎 ラストのページには、ものすごい数の魔物たちが出てくるよね。

郷津 すべて違う魔物にしたかったので、ちょこちょこ考えて。山崎さん、1日に1人ずつ、魔物キャラの絵を送ってくれるって言ってたのに。

山崎 完全に忘れていて、その場で7枚くらい魔物の絵を書いて送りましたよね。

郷津 このページの魔物たちのなかには、実は山崎さんだけでなく、背景を描いてくれた方や編集担当さんなど、この絵本づくりに携わった様々な方たちが考案した魔物たちも紛れ込んでいるんですよ。

山崎 へぇ!

郷津 この絵本、お話と絵を素直に、最後まで楽しんでもらえたらいいなぁ。そしてこの世界観のなかに浸っていただけたらすごく幸せ。

山崎 誰かの宝物になるような本になればいいですね。大切に持っていてもらって、時々、ページを開いてもらって。そして大人になって思い出したように読んだり、親になってから、また子供に読んだりしていただけたら、すごくうれしい。僕自身、絵本や児童書から、たくさんのギフトを受けてきたので、この絵本が、次の世代にそれを託すバトンのようなものになったらいいなと。

取材・文=河村道子

やまざき・たかし
●1964年生まれ。映画監督。作品に、日本アカデミー賞を受賞した『ALWAYS 三丁目の夕日』『永遠の0』『STAND BY ME ドラえもん』、『海賊とよばれた男』など多数。12月9日(土)より『DESTINY 鎌倉ものがたり』が公開される。

ごうづ・はるな
●アニメーター。『妖怪ウォッチ』『舟を編む』『コードギアス 亡国のアキト』『ポケットモンスター サン&ムーン』をはじめ、多数のアニメーション作品に原画、作画監督、デザイナーとして参加している。

『ジャック・オー・ランド ユーリと魔物の笛』
山崎貴:作、郷津春奈:絵/ポプラ社 1300円(税別)

“うたがいのふきだまり”に触れ、目覚めなくなってしまった幼なじみのエルのために、変装をして、魔物の街に乗りこんだ人間の少年・ユーリ。呪いを解くには黒い大きな城に住む恐ろしい魔物の王、ジャック・オーの笛が必要なのだった。ユーリは魔物の街で助けたゴブリン魔物のコブと友だちになるが、2人一緒にジャック・オーにつかまって――。