イギリス人女性の日本発見紀行で、英語が楽しく学べる!? 作者に聞く、マンガ版バードの誕生秘話<後編>

マンガ

公開日:2018/1/24

『バイリンガル版 ふしぎの国のバード 1巻 UNBEATEN TRACKS in JAPAN』(佐々大河:著、アラン・スミス:翻訳/KADOKAWA)

 漫画誌ハルタで大人気連載中の『ふしぎの国のバード』。明治初期の日本を旅した、実在のイギリス人女性旅行家イザベラ・バードをモデルに、彼女が日本の「奥地」を踏破していく軌跡をコミック化したものだ。この『ふしぎの国のバード』が英語を楽しく学べるコミックとなった、『バイリンガル版 ふしぎの国のバード 1巻 UNBEATEN TRACKS in JAPAN』が2018年1月20日(土)に発売された。

 インタビュー後編では、バイリンガル版の見どころや、バードにつきそう通訳:伊藤鶴吉について、佐々大河先生が作品に込めた想いなどを語ってもらいます。

■英語のセリフは「作品本来の意図」


――今回、『バード』がバイリンガル版として出版されるわけですが、この企画を初めて聞かれた際、どう思われましたか?

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佐々大河氏(以下、佐々) 「そんな面白い本があるんですか!?」って感じでしたね。この漫画では、本来ならバードや伊藤が英語で話している部分を、“英語という前提で”日本語で書いています。そして、本来日本語の部分は読者には読めないように工夫している。だから、バードの会話が今回英語になるというのは、本来の僕の意図に合致するものなんですよね。そういう意味ですごく相性が良いと思います。

――このバイリンガル版を、英語学習に役立てようとする方も多いと思います。

佐々 英語学習をするのには色んなモチベーションがあると思いますけど、例えば、(登場人物の)伊藤のように日本を(英語で)紹介したいという方もいらっしゃると思います。伊藤は、英語や日本の文化・風習を一生懸命勉強して、それを(英語で)伝えることに命をかけて一生を過ごした人なんですよ。だから、伊藤と同じような関心がある方とか、異文化交流に興味がある方に読んでいただければ、光栄だなと思います。

■伊藤鶴吉は、史実でもミステリアス


――伊藤というキャラクターはとてもミステリアスな匂いがするんですが、佐々先生ご自身はこのキャラクターをどのように説明されますか?

佐々 実際の伊藤さんもずっとミステリアスな人で、最近ようやく研究が進んではいるのですが、基本的にどこの誰だがわからない、というような印象を持っています。バードの旅行記にも全編“ITO”としか記されていないわけですよ。どこの伊藤? という感じですよね(笑)。

――天真爛漫なバードとクールな伊藤、というコントラストが僕は好きです。

佐々 そうですね、その部分は意識的に描いています。でも実際の伊藤は、機嫌がいいときには冗談を言って周りを笑わせたというようなこともあったようです。でも、主役2人のコントラストを利かせるために、漫画では“笑わないキャラ”にしています。とはいえ、脚色が多めのバードのキャラクター設定に比べると、伊藤に関しては、寡黙さを全面に押し出している点以外は、ほとんど忠実に描いているつもりでいます
 例えば、お酒を飲まないとか、煙草が好きだ、お菓子が大好きだ、料理ができる、とか全部漫画でも描いています。ところで、ほんと、伊藤くんは描きやすいんですよね。描いていてラクです。なぜなのでしょうか?(笑)

■テーマは「滅びゆく文明の記録」


――1巻の中で、佐々先生ご自身で特に印象深いシーン・カットなどありますか?

佐々 第3話、伊藤と公使夫人の会話のシーン、見開き2ページですね。この部分は、『バード』を描き始めたきっかけのコンセプトと直接的につながる部分なんです。最初のネーム(漫画を仕上げる段階での、最初のラフのアイデア)の時点では、この見開きはなかったんですよね。
 本当は一番描きたい部分ではあったんですが、あえて直接的に描くべきじゃないんじゃないかという気持ちがあったんです。でも、担当編集者さんから描くべきだと言われて、それでも半信半疑で描いてみたんです。それで描いてみたら、今まで自分の中に溜まっていた何かが全て吹き出したような感覚がありまして。この部分のネームを描いた後、自分でも怖くなるくらい、叫びたくなるくらいテンションが上がったんですよね
 そういうのは初めての体験でした。『バード』を描き始めたときに表現したかったことが、この2ページでしっかり表現できたかな、という感覚はありましたね。

――1巻の中で苦労した箇所などはありますか?

佐々 それは断然、第5話(日光②)ですね。ネームにものすごく時間がかかりました。お春ちゃんのキャラクターづくりにものすごく苦労しました。お春ちゃんはバードの旅行記にも実際に出てくる人なんですが、細かい人物描写があるわけではないので。子供を描くというのは本当に難しかったです。キャラクターデザインも何回も変更しました。

■イザベラ・バードへ

――もしイザベラ・バードと話せるとして、何か伝えたいこと、聞いてみたいことはありますか?

佐々 とにかく、感謝の気持ちを伝えたいですね。漫画を描かせてもらっているので。それに尽きます。聞いてみたいことは……、本を読んでも、調べても分からない箇所は想像力を働かせて描くのが楽しい部分でもあるので、その部分をあえて尋ねて解決してしまうのは、想像の余地がなくなるので、そこはそのままで大丈夫です(笑)。とにかくお礼を言いたいですね。

取材・文=川合亮平

【インタビュー前編はこちら】