イギリス人女性の日本発見紀行で、英語が楽しく学べる!? 作者に聞く、マンガ版バードの誕生秘話<前編>

アニメ・マンガ

2018/1/19

『バイリンガル版 ふしぎの国のバード 1巻 UNBEATEN TRACKS in JAPAN』(佐々大河:著、アラン・スミス:翻訳/KADOKAWA)

 漫画誌ハルタで大人気連載中の『ふしぎの国のバード』。明治初期の日本を旅した、実在のイギリス人女性旅行家イザベラ・バードをモデルに、彼女が日本の「奥地」を踏破していく軌跡をコミック化したものだ。この『ふしぎの国のバード』が英語を楽しく学べるコミックとなった、『バイリンガル版 ふしぎの国のバード 1巻 UNBEATEN TRACKS in JAPAN』が2018年1月20日(土)に発売される。

 バイリンガルコミックとは、英語のセリフに対応する和訳がコマ外に併記された日英対訳コミックのこと。マンガを読みながら楽しく英語を学べるのが特徴だ。バイリンガル版の発行にあたり、英国メディア・ジャーナリスト川合亮平氏が、作者の佐々大河先生にインタビューを行った。ここでは本書掲載のそのインタビューを再編集して、2回にわたって紹介する。
 インタビュー前編では、作品が生まれるいきさつや、エンタメと史実のバランスをとるための工夫や苦労について語ってもらった。

■『ふしぎの国のバード』誕生秘話

――早速ですが、『ふしぎの国のバード』の誕生のきっかけを教えてください。

佐々大河氏(以下、佐々) もともと、外国人を主人公にした歴史物を描きたいという気持ちはずっと持っていたんですよ。

――その気持ちはどこからきたんですか?

佐々 渡辺京二さんが書かれた『逝きし世の面影』(平凡社)という本がありまして、近代以前の日本を外国人が記録した資料が少なからず残っているんですが、それらを集めて整理されています。外国人の目を通して見た150年くらい前の日本の生活が、現代の我々日本人にとって外国のように映るという現象がとても不思議なんですよね。そして、当時の日本人と、彼らを観察して驚いている外国人を比べてみると、後者の方が今の我々に近い感覚を持っているというのがとても面白いと思ったんです。それがきっかけで、〝近代人から見た前近代の日本〞への興味と、それを表現したいという願望を大学生時代から持っていました。

――なるほど。そこから出版までの道のりは?

佐々 ハルタ(『ふしぎの国のバード』が掲載されている雑誌名)の前身の『Fellows!』に、作品を持ち込んだのがきっかけです。バードではなかったんですが、他のイギリス人を主人公にして、幕末を描いた作品でした。その作品自体は(今のところ)発表されなかったんですが、このラインで進めていこうという話になり、歴史上実在の人物を5、6人リストアップした中の1人が、イザベラ・バードでした。当時の担当編集者さんも自分もバードの旅行記を読んだことがあったこともあり、最終的にバードに決定するんです。あと、バードは日本の生活を記録しにやって来たので、その部分が、僕がそもそも描きたいと思っていたものを具現化するのに一番適した題材だということもありました

■エンタメと史実表現の両立

――『バード』を描き始めた時の心境はどうでしたか?

佐々 楽しかったですね。もちろん、楽しいだけでなく試行錯誤の連続ではあるんですが。

――試行錯誤というと?

佐々 やはり、当時の日本の生活を今までとは違う形で提示したいという気持ちが僕の中で大きくて。それをするためには、エンタメ作品としてより楽しんでもらえる内容にしないといけない、ということですね。連載当初は担当編集者さんからはよく「資料集みたいにならないように。漫画らしく読者に楽しんでもらう作品に」と言われていました。

――エンタメ性を出すために、あえてバードの元の旅行記に沿わない部分もある、ということですよね。とはいえ、当時の〝物〞に関してはディテールにこだわって描写していらっしゃるようですが。

佐々 そうですね、バード自身が、小物の描写を丁寧に書いているんですよ。それから、大森貝塚を発見したことで有名なエドワード・モースというアメリカ人の動物学者が残したコレクションの資料集も、漫画を描くときに活用しています。例えば彼は、当時の貧しい人が住んでいる路地裏に入って行って、そこに干してあるボロボロの雑巾なんかを住民から買い取ったり、当時の駄菓子なんかも瓶詰にして、それがまだアメリカの博物館に残っています。バードにせよ、モースにせよ、日本に当時来ていた外国人が残さなければ消えてしまっていたであろう前近代の日本の物がたくさんあるということですよね


――元の旅行記を読み、特に気をつけて描写している部分があれば教えてください。

佐々 それはやっぱり、当時の生活をできる限り克明に描く、ということですね。その部分は『バード』を描く前から、僕が描きたかった世界でもあります。バード自身がすごく大切にしていたことでもあると理解しています。

――では逆に、エンタメ漫画として、フィクションを盛り込んでいる部分はどの辺りですか?

佐々 物語のバランスを考えて、何日かに渡って体験されていることを、1日にまとめたりなどしています。
 また、バードではなく、他の外国人が残した記録も入れていたりしています。ただし、風習や生活に関する描写はなるべく脚色せずリアルに描くことが大切だと思っています。そうは言っても、事実とエンタメ性のバランスを取るのは難しいので、常に悩みながら描いています。

――バードのキャラクターはいかがでしょうか?

佐々 この漫画の中でのイザベラ・バードというキャラクターは、当時のイギリス人を描くというよりも、どちらかというと、今の我々と同じ感覚を持った人ですよ、という姿勢で描いています。彼女に感情移入して当時の日本を楽しんでください、ということなんですよ。例えば実際のバードは、敬虔なキリスト教徒でしたし、厳格な思想を持っていました。彼女の書いたものを読むと、確かに彼女の感動は見えるんだけど、それを漫画のように言動で素直に表現したかというと実際はそうではなかったと思うんです。だからそういう部分は、読者に感情移入して読んでもらうために、現代人的な部分を脚色してあります。もちろんこの演出に違和感を覚える方もいらっしゃるということは承知していますが。

――僕個人(川合亮平氏)としては、そういった演出は、エンタメ作品には大切なことだと思いますね。

 前編はここまで。インタビュー後編では、バイリンガル版の見どころや、バードにつきそう通訳:伊藤鶴吉について、佐々大河先生が作品に込めた想いなどを語ってもらいます。

取材・文=川合亮平
※後編に続く(1/24配信予定)