錦戸亮主演でドラマ化「陰陽屋」シリーズ待望の新作発売! 100万部突破の人気作はどのように生まれた?

文芸・カルチャー

更新日:2018/4/23

舞台となった東京都北区王子にある王子稲荷神社

 シリーズ累計部数100万部を超えている大人気シリーズの最新刊『よろず占い処 陰陽屋開店休業』(天野頌子/ポプラ社)が発売された。

 前巻『よろず占い処 陰陽屋狐の子守歌』では、「捨て子だった瞬太(しゅんた)の母親がついに登場……!?」という、かなり気になるところで終わっていたこともあり、最新刊を待ちわびていた!

 そして今回は10巻目……ということで、天野頌子先生にインタビューを敢行。10巻分の「陰陽屋」シリーズについて、制作秘話・裏話・キャラクターたちの将来など色々と伺いました。「登場キャラクターに『いい人』が少ないですよね」なんて失礼な質問にも優しく答えてくださった天野先生に大感謝です……!

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――『陰陽屋』が生まれたきっかけを教えてください。東京都北区「王子」を舞台にするのは決めていたのでしょうか?

 実はよく覚えてないんです……。なんせ(始まりは)10年以上前ですからね。

 その当時、「陰陽師ブーム」で盛り上がっていたこともあって、「面白そう」というのもあり、色々調べてみた……のかなぁ(笑)。

 王子が舞台というのは、後からです。ニセ陰陽師の男性と化け狐の男の子という設定を編集さんに持っていたときに、「舞台の街は決めてますか? 実在の街がいいですね」と。

 狐と言えば「王子」というのもあり、「狐の行列」(王子で行われている年越しの行事)というのをやっていたのは知っていたので。京都の伏見にするという発想はなかったですね。

――長期にわたって愛されている作品。だからこその「苦労」と「いいところ」は何かありますか?

 苦労というほどではないんですが、スマホとか新しいものが出てきて……。5年後また違うものになってるかもしれないので、そういったものは「ふわふわっ」とさせてます(笑)。うかつにLINEとかインスタとか書けないですね。

 あとは初期の頃、(作中に)出てくるお店も入れ替わってしまって……だから、はっきりお店の名前を出すのはやめようと思いました。

 嬉しいことは、ずっと読んでくださってる読者が、瞬太を息子か孫のように思ってくれるようになっていることです。「就職先は夜に道路でライトを振っている誘導員がいいんじゃないですか?」とか、真剣に考えてくれる方もいて(笑)。

※瞬太は化け狐の夜行性なので、昼間に起きていることが難しいのだ。しかも、かなりの不器用で、匂いにも敏感。作中に「なれる職業がないのでは?」という話題もあったので、心配した読者の方から親身なご提案が……。

――祥明(しょうめい)というキャラクターはどうやって生まれたのでしょうか?

(祥明に限らず)キャラクター作りのお手本にしていたのは『渡る世間は鬼ばかり』。

 あの作品って、ありとあらゆる嫌な人が思いつくままに、嫌なことを「わーっ」と言うじゃないですか。

 だけどある時、小姑役で有名な東てる美さんがトーク番組に出ていらして、視聴者から「思ってることを言ってくれてスッキリしたわ」という意見があったとおっしゃったんです。それでみんな、「スッキリしたいんだぁ」って。

 じゃあスッキリするような、意地悪なことを言っちゃうキャラが1人2人いてもいいんじゃないかなと。それが祥明の毒舌につながってます。祥明がめんどくさがりなのは、私がめんどくさがりなのもあるかもしれません。

――個人的に、祥明の母である優貴子さんが大好きなのですが、モデルはいますか?

※優貴子さんは、息子愛が強すぎるあまり、息子に恋人ができないよう妨害したり、愛犬を勝手に捨てたりと、とにかく「私と息子を引き裂くものは、ありとあらゆる手段を講じて抹消する」お母さんである。

 私の周りにあんなひどい人はいないです(笑)。みどりさん(瞬太のお母さん)とは対照的に、迷惑なお母さんということで……息子に対するお母さんの愛が暴走したらどうなるのかを書いてみました。

――キャラクターの裏話、裏設定などあれば教えてください!

 祥明は子どもの頃、割といじめられてたけど、槙原が柔道を教えてくれてなんとかなった。男子の友達はいなかったでしょうね。槙原が唯一、お隣のよしみで仲良くしてくれただけで……。

 ドラマ化した際、「槙原が女の人でもいいですか?」という提案があったのですが、「それじゃあ、祥明に友達がいなくなっちゃう」と思ってやめてもらいました(笑)。

――祥明ファンとしては……祥明の恋愛事情が気になります……! 結婚する意志はあるのでしょうか?

 あのお母さんがいる限り無理では……。結婚しようとも、しないとも考えてないと思います。これまでも女の子から言い寄ってこられて、結局フラれちゃう。自分から口説いたことは一度もない気がします。

……なんとなく、いつも女の子に捨てられるから、やさぐれちゃったのかな。女なんて信じられないって。誰かいい女性がいたら紹介してあげてください(笑)。

 瞬太の恋愛観として、生涯の野望は「一生に一度くらいキスができればいいかな」くらいです。

――天野先生ご自身についてお聞かせください。影響を受けた小説や最近のおすすめの小説も教えてください。

 いっぱいありますが、一番は田中芳樹先生の『銀河英雄伝説』です。最近読んだのは『アルスラーン戦記』。本当に30年かけて終わったんだぁって……。感無量でした。

――小説家になるきっかけは何だったんですか?

 きっかけは「らいとすたっふ」さんが小説講座を開いたことです。

 小学生の頃から小説を書いたり、友達とリレー小説をやったりしていましたが、小説家になれるとは思っていませんでした。だけど、ひょっとしたら田中芳樹先生が講師でいらっしゃるかもしれないと勝手に期待して……大ファンだったから。

 課題で小説を提出しなくちゃいけなかったんですけど、書いて出したら、「これをすぐに商業作にすることはできないけど、舞台は現代日本で、ちょっと不思議くらいの話を書いてみたら」とアドバイスを頂き……。

――そうして誕生したのが、デビュー作の『警視庁幽霊係』なんですね!?

「あれ? これで本当に小説家になれるのかも……」という感じでした。「小説家になるぞ!」と決意して、何年も修業を積んだっていうわけではなかったですね。自分でもびっくりしました。

――小説を書くのがつらい、やめたいなんて思ったことは?

 それはありません。けど、締め切り前はいつも切羽詰まってます。今、盲腸になったら終わりだとか、インフルエンザにかかったら終わりだとか、毎回思います。

 コツコツ書くというより、締め切りが迫ってるから書くという方が多いんです。……大体みなさん、そうじゃないですか? 違うのかな(笑)。

――小説家になりたい方へ、何かアドバイスがあれば教えてください。

 とりあえず書き終える!

 主人公と一緒に推理していたら、この人しかないって絞られてくるので、推理もののときは犯人を決めずに書き出すこともあります。

――ちなみに、『陰陽屋』のラストは決まっていますか? 祥明はどうなりますか……?

 終わりのことは、ぼんやり考えています。けど「あと何冊」とか、きっちりとは考えていません。無理のない感じで終わればいいなと思っています。

 祥明はあのまま美中年になり、美老年になって「王子マダム」たちにチヤホヤされて一生を過ごすのでは……(笑)。もしかしたら私の気が変わるかもしれないんですけど、今の想像では、そんな風に生きていくんだろうなぁって。

――最後に、読者の方へ一言!

 予定外に長くなってしまってすみません。最後まで読んでいただければ嬉しく思います。

 途中で読むのが止まってしまった方は、8巻くらいから再開でいいと思います。全部読み直そうとすると疲れると思うので(笑)。

 さて、気になる最新刊の内容をちょこっとご紹介すると、「瞬太の母親発覚!?」「だけど、今度は瞬太が行方不明!?」「そして祥明、仕方なくお店のお掃除をする(表紙参照)」……という緊迫(?)のお話に。

 長く続いているからこそ、キャラクターに対し親身になり、この先を心配してくれる読者が本当に多い本作。今後も瞬太の成長を見守りつつ、活き活きとしたキャラクターたちが織りなす物語を楽しんでいただきたい。

取材・文=雨野裾 撮影=内海裕之