言葉ではない、身体を使ったコミュニケーションを、マンガに。『ムラサキ』作者・厳男子最速インタビュー

アニメ・マンガ

2018/9/18

電子コミックサービス「LINEマンガ」で連載されているオリジナル作品、『ムラサキ』がどうかしている!
中毒症状を訴える読者が続出し、なんとコミックス1巻刊行前に「次にくるマンガ大賞2018」Webマンガ部門に入賞。作者の厳男子に直撃した、世界初(!)のインタビューをお届けします。

『ムラサキ』書影

『ムラサキ』(1巻)
厳男子 LINEコミックス 620円(税別)
ダンスに魅せられた女子高生、一条紫は想い人への気持ちを陰ながらダンスで伝える変態男、翡翠翔之助と運命的な出会いを果たす。彼と共に創作ダンス部設立に向けてスタートするはずだったのだが――!? 読者の圧倒的支持を集めたLINEマンガのオリジナル作品が待望の単行本化!

 

 ぽっちゃり眼鏡女子の一条紫は、かつて鑑賞したステージで憧れを焚き付けられ、創作ダンスに情熱を燃やしていた。部を作るために奔走したが、学内に賛同者は現れない。しかし、ひょんなことから学園のアイドル・菫ソラの背後を追いかけ、全身全霊のダンスを捧げる人影に気付く。その正体は、翡翠翔之助。彼を創作ダンス部に入部させるため、紫は25キロの減量を誓う。……と、第1話のあらすじを説明しただけでも、何かがおかしい。ぶっちゃけヘンだ。しかも、画力は超絶ハイクオリティ。なんなんだこのマンガは!?

『ムラサキ』コマ
ダンスによって「空気が塗り替えられていく」。主人公・一条紫が運命的な出会いを果たした瞬間。

「1・2話は主人公がダイエットしてるだけって思われるかもしれないですけど(笑)。でも、固定された舞台があって音楽があって照明があったらダンス、というわけではないと思うんです。この主人公は、部に引っ張り込みたい男の子を追いかけたり、痩せるために山道を疾走したりしながら、地球を舞台にしてダンスしている、というふうに見えなくもない。バトルマンガも、絵だけを追いかけるとダンスにも見えるじゃないですか。カンフー映画では、組み手が美しい舞のようにも見える。登場人物たちが常にダンスしているようなマンガに見えたらいいな、と思って描いています」
 

表現をする面白さはダンスが教えてくれた

 ダンスと出合ったのは、芸術系の大学に進学した頃だと言う。

「専攻は油絵を描く洋画コースだったんですが、1年生の時に体育の授業でたまたまダンスを選んだんです。授業自体もすごく面白かったし、年度末の発表会で、1人でフリを作って1人で踊ったダンスを、先生が絶賛してくれたんですよ。それまで、油絵のほうでまともに褒められたことは一度もなかったのに(苦笑)。確かに、ダンスを踊り切った瞬間に“突き抜けた!”って感じがしたんですよ。自分の中にあるもやもやしたものを、ヘタクソだし荒削りだけど作品という形で外に出す。それを人に見せて、面白がってもらう。表現することの面白さを教えてくれたのは、僕にとってはダンスだったんです。その感覚が、どうしても忘れられなくって。2年目以降は履修登録をせずに、大学院時代も含めると結局6年間、油絵を描きながらダンスの授業も受け続けました」

 ダンスが大好きだ。絵を描くことも大好きだ。マンガは子どもの頃から読んでいる。だったら……ダンスをマンガで描けばいい! ダンスを題材に、人生で初めて描き上げたマンガで、2009年にアフタヌーン四季賞萩尾望都賞を受賞する。2014年には陶芸を題材にした短編『TOUGEI 闘芸』で、ちばてつや賞優秀新人賞を受賞。実はこの作品も、実体験が元になっている。

「地元が陶芸のさかんな土地で、僕も子どもの頃、陶芸教室に通っていたんです。陶芸家って硬い土を毎日こねているから、前腕の筋肉がムッキムキなんですよ。“まずこうやって土をこねて……”と言われても、“その筋肉、子供にはないから!”って(笑)。その印象が強く残っていて、ムキムキの筋肉を持て余している凄腕の元傭兵が、陶芸家を目指す話にしてみました」

 真面目なのか、ギャグなのか? いや、真面目すぎるから、ギャグになるのか!? ストーリーが絶妙に歪んでいる&うずうずと笑える、受賞短編のクセになる味わいは、『ムラサキ』にも通じる魅力がある。

『ムラサキ』コマ

 

『ムラサキ』コマ
天才ダンサー・翔之助との出会いを経て、25キロもの減量に成功した紫。自らも踊り手として開眼する。

「自分が一番面白いと思うギャグは、空耳なんです。どうして空耳って面白いのかなと考えていった時に、“だいたい合っているけどズレてる”ってキーワードが出てきて。そういうものを、マンガの中にできるだけ入れていきたいという意識は強いです。そういう発想の仕方をしているから、ストーリーも“だいたい合っているけどズレてる”ものになるのかもしれないですね」

 しかし、なかなか連載枠が勝ち取れなかった。そんな時、LINEマンガの編集者にこれまで作ったネームを見せる機会があった。

「自信のあったネームは別にあったんですよ。一言で言うと、温泉バトルマンガです。栃木の那須温泉に遊びに行った時に、手前から順番に熱くなっていく温泉が9個ぐらいあったんですね。一番奥の一番熱い風呂に、見るからにヤクザの親分みたいな人が浸かっていたんですよ。その情景を見た時に、下っ端が待ち構えている温泉を1個1個クリアしていって、最後に“ボス”と我慢比べで戦う、という構想が浮かんだんです。でも、そのネームはあっさりスルーされて。編集さんから“『ムラサキ』が一番いい。これ以外に何を描くの?”と言われ、“そうですよね!”と(笑)」
 

身体に訴えかけるような情報量の詰まった絵

 80ページ分のネームにペンを入れ、前後編の読み切り短編としてLINEマンガの無料連載に載せたところ、読者から熱狂的な反響が巻き起こった。確信を得たうえで、第3話以降の執筆に向かった。仲間集めの快感や苦労、修業や特訓によるレベルアップ、天才と凡人のコントラストというテーマ……。青春スポーツマンガの王道を歩もう、という意欲は要所要所に感じられるのだ。でも、やっぱり絶妙に歪んでいる。うずうずと笑える。

『ムラサキ』コマ 『ムラサキ』コマ
紫が惚れ込んだ才能、翔之助の佇まいと挙動。『ジョジョの奇妙な冒険』のファンでもあるという厳男子さん。回を追うごとに増してゆく表現力も読みどころだ。

 そんな独特な軌道を描くストーリーの中に、ダンスシーンが矢継ぎ早に出現していく。登場人物の言葉を借りれば〈幻想と眩暈に満ちた新世界を創り出す〉〈言葉にできない 言葉が追いつかない〉ダンスの数々が。

「セリフがある普通のシーンは、読んでくれた人にどういう情報を伝えたいのかはっきりしているし、受け取り方にさほど違いはないと思います。でも、ダンスシーンは、油絵を描いていた時の感覚に近いんですよ。言語化できない、身体に訴えかけるような情報がぎっしり詰まっている絵を描こうと思っています。それを見て、受け取る側がどう感じるかは、千差万別だと思うんです」

 言葉(フキダシ)の世界から、言葉にならない世界へとジャンプする。その体験こそ、他では絶対に味わうことのできない、このマンガの大きな魅力なのだ。

「言葉で法律も規定されているし、現代社会って言葉がコミュニケーションの要ですよね。でも、徐々にどん詰まりになってきていると思うんです。言葉ではない、身体を使ったコミュニケーションを、みんな無意識のうちに求め始めているんじゃないでしょうか。ダンスの可能性って、まさにそこにあるんですよね。その可能性を、このマンガでも表現したい。きっと読んでもらえたら、新しい世界が垣間見えるんじゃないかなと思うんです」

 発売中のコミックス第1巻の続きは、LINEマンガの無料連載で読むことができる。『ムラサキ』が切り開く新たな世界に、シンクロするなら、今だ。

取材・文=吉田大助 (C) Kibidango / LINE

 

厳男子
きびだんご●茨城県笠間市出身。筑波大学大学院在学中の2009年、「SOLA」でアフタヌーン四季賞萩尾望都賞を受賞。14年、「TOUGEI 闘芸」でちばてつや賞優秀新人賞を受賞。18年、初となる連載『ムラサキ』をLINEマンガでスタート。現在、家業のしいたけ栽培をしながらマンガを執筆中。