東大生クイズ王・伊沢拓司が語る、大学時代の過ごし方とYouTuberという職業【インタビュー後編】

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公開日:2019/3/1

『勉強大全-ひとりひとりにフィットする1からの勉強法』(伊沢拓司/KADOKAWA)

 今、一番勢いのある東大生クイズ王・伊沢拓司さんが書き下ろした新刊、『勉強大全』の執筆秘話から伊沢さんが考える大学受験、学び、書籍作りについて伺いました。

写真:前康輔

大学時代の過ごし方とYouTuberという職業

―本文でも触れられていましたが、自分が何に向いているのか、将来何になりたいか分からないけれども、とりあえず大学にみたいな人も多いと思うんです。大学時代を浪費してしまい、なかなか納得した道を見つけられなくて、社会人になっても転職を繰り返してしまう、20~30代も増えているように思います。大学時代のベストな過ごし方についてどうお考えですか?

 今回はあくまで「大学受験を例に取った」勉強本というコンセプトで書いたんですが、「学問」を語る上で「大学」は軸になるなと思ったので「大学とはそもそも何か?」みたいな話をカンタンにですが入れました。最後まで削るか悩んだパートではあります。この本では再三「合格点を取ることが目標、それをどう目指すかというのは手段」という割り切りを軸にして話を進めているんですが、それってそもそもちょっとズレてて。合格という結果を掴み取るためにはその割り切り方が一番ラクなんだけど、やっぱり本質は「◯◯するために合格するぞ」だと思うんですよね。

―本来の目的を見失っている人が多いですよね。

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 文中でも触れましたが、大学とかって「この大学でこういうことがしたい」と思って入る人より「とりあえず大学に入るという資格を得ねば」というところがスタートになるケースが多いはずで。それが悪いとは全然思わないけれど、本来の構造から見るといびつですよね。その学校に入ったから何かになれるなんてことってないし、基本的には学校の中で自分が努力することで何かを得ないといけないのが普通。学校がなにかしてくれることを期待するんじゃなくて、学校で自分が何をするかというのが重要になる、というのが本線だと思うんです。だから、「いや、ホントのところは受験を点取りゲームと考えるのはスマートじゃないよ、でも受かることが大事だから、一応さ……」ってことは言っておかないと誠実じゃないなと思って、大学についてのパートを残したんです。

 だから正直、僕も大学時代にどう過ごすべきかはわからないです。大学の本来の目的は研究と教育だけれども、大卒資格に価値があることもまた事実だし、いろんな職業があるわけだから「こうあるべき!」とは言い切れないなと。僕自身、大学入った直後はやる気があってゴリゴリ単位とっていましたけど、2年生のときはサッカー見てギター弾いて寝るだけの生活を一年してましたし。一人暮らしでお金もなくて、バイトして日銭を稼いで、安い服とギターの弦買ったらもう終わりみたいな。無為ですけど、それで趣味は深まったから、一概にマイナスとも言えない。今の仕事も大学での研究内容とはかけはなれたものですけど、研究で得たメソッドだったり、見地だったりが活きることもある。そもそも企業人であり、YouTuberでもありますから、自分の職業が何なのかという意識もよくわからないことになってますし、それゆえに大学が自分の人生においてどういう存在だったのかは、まだわかっていないですね。僕自身、その答えについては探している最中という感じです。

 ただ、これだけは多分あってる、と思うことには、「本来はこうなんだよ」ということを知った上で別の選択、つまりは職業訓練校的な大学の使い方を選ぶのと、なーんも知らないで流されるのとでは、やはり時間の価値が変わってくるなと。ですから、ベターな過ごし方としては「大学ってどういうものなの?」ということを正しく知った上で、自分の意志でやることを選択する、ということになるのかなと思っています。

―今はYouTuberとして「クイズの面白さ」をクオリティの高い動画で伝えていらっしゃいます。伊沢さんはご自身のの得意なこと、好きなことを仕事にされているかと思いますが、誰もができることじゃないですよね。

 少なくとも、いろいろな場所で活動できる、勉強できることには感謝ですね。そもそもWEBメディアの仕事もずっと準備をしていたというよりは、目の前にボールが転がってきたから始めたという感じでしたし、YouTuberになることも最初はそれほど興味がなく、わりと流されるように始めた仕事でした。自分は研究者になろうと思っていたけれど、それは向いていないということもわかったので、「やりたいことを仕事に」というよりは「チャンスが来たものにしがみついている」という方が正しい気がします。

―QiuzKnockの登録者数は58万人を超えていますね!毎晩、動画配信を楽しみにしているファンも増えていると思います。

 ありがたいことに表現の場所を複数頂戴したので、その場その場をほんとに大事にしないとなという意識でやっています。いや、そう口にすることで自分に暗示をかけてるのかな?わかんないですね……。

 今回は書籍でしたからなるたけ丁寧に論理を追って、後からの補足がいらないような形にしました。同じ内容を話すとしても、テレビだとコメントを振られる立場だから15秒以内で結論だけ言い切ったり、YouTubeなら笑いを交えつつ10秒におさめて、後から論理を補強したり、あえてオーバーに動いたり……みたいなやり方になると思います。今回伝えたいことをよりよい形で伝えるのなら、書籍というフォーマットがベストだったと思います。

 逆に、今回追えなかった具体的な方法論だったり、個々人の事例に対するケーススタディはより相性の良いYouTubeでやってきたので、合わせて使ってもらえると嬉しいですね。

 各メディアごとにペルソナを使い分けるのは大変ですが、楽しくもあります。YouTubeにはYouTubeの、テレビにはテレビの文法がありますし、WEBメディアの編集長として書くときと、書籍を書く時でも違います。ほかなら非常識に思えるような伝え方が、YouTubeの視聴者層には響いたりもする。逆もまた然りで、この本の内容を丁寧にYouTubeに出してもウケなかったはず。そこのスイッチだけは入れ間違えないように気をつけていきたいなと思います。

装丁や写真、「プロの技術」に触れた書籍作り

―『勉強大全』装丁もシンプルでとても素敵ですね。書店でも目立っています!装丁については、伊沢さんも案を出されたりするのか?

 今回は寄藤文平さんと文平銀座のみなさんにデザインしていただきました。とにかく見やすく、とっつきやすく……と僕の中で思っていて、あれやこれや相談させていただいたんですが、伝えたものがデザインに即変換されていくさまというか、打ち合わせをしながらどんどんとデザインができていく所を間近で見て感動しました。

 プロの技の凄みを体感できたことも、今回得られたとても良い経験したね。イメージを伝えると、それに寄藤さんの知識と経験がプラスされた形でアウトプットが出来上がり、あとは僕がそこから選ぶだけ。それでいて、「うわ、これがいいな」と僕自身腑に落ちるものができるのだから、本当にすごいです。

 寄藤さんにはタイトルについてもご意見いただいて、『勉強大全』という名前についても「いいんじゃない」と最初にいってくださりました。本当にこの本に携わってくださりありがとうございました。

―口絵の写真や章扉の写真も、伊沢さんらしい表情がとらえられていてすばらしいですね。伊沢さんの馴染みのある地域で撮影されたのですか?

 やはり文章ベースの本ですし、多少なりとも休憩ポイントがほしいなと思いまして。あとはやはり前作とかぶっちゃいますけど、目線を自分の中に作って語る必要があって、そしてそれを伝える必要もあって……という中で、ファーストインプレッションというか、読み手が受ける感覚として、僕自身の学生時代を本全体として上手にトレースできれば良いなと思っていました。

 なので、写真のロケ地は学生時代の思い出の地ばかりですね。放課後たむろしてた西日暮里の煙ためのゲーセンとか、よく行ってたうどん屋とか、あとは通ってた塾とか。高校生の頃通っていて、大学時代はバイト先だった塾で撮影をするのとかは、なんかこそばゆかったですね。お世話になりっぱなしだった塾長が遠目で見ていて。僕はどう写っていたんでしょうか。

 今回は写真家の前康輔さんに撮影していただいんですけど、かなり自然な、ナチュラルな場面を撮っていただけて、もうホント良かったです。撮影の時、序盤は自分自身でも撮られている意識というか、「構えている」部分があったんですけど、前さんが「一緒に遊びに来てる感じで」と言ってくれて、前さんの話術にノッているうちにどんどん自然になっていったというか、ナチュラルに楽しんでいたら良い写真に……という感じで、前さんのプロのワザを目の当たりにしました。めちゃすごいなと。前さん超ナイスガイでした。コロッケ美味しかったです。

―各分野のプロフェッショナルが形作っていく書籍作りの凄みが伝わってきますね。

 著者として名前が出るのは僕ですけど、本当に多くのスタッフさんがプロフェッショナルの技術を集めてくださって、執筆への気合だったりとか、「自分もプロにならねば」という良い重圧がかかりましたね。みなさんに見合う仕事ができたか気になります。

―「クイズ本」に続いての「勉強本」。伊沢さんの文章が読みたい読者は、続々と増えていると思います。次はどんなテーマでご執筆されたいですか?

 悩ましいですね……。書くことは好きなのですが、まだまだスキルアップをしないといけないなと。特に最近、書いてばかりで読めていなくて、積読がたまっているので、まずはそれを吸収するところからスタートかなぁと。

 もちろん、前に言ったように「勉強自体の楽しさ」に焦点を当てたものには携わりたいですね。あとは、そろそろまた作りためたクイズを放出したい気持ちもあります。クイズについても、普段の仕事の中でドンドン新しい知識、新しい見方を得られるので、その分だけ欲望がふくらむというか、もっともっと知って、面白いものを思いつきたいです。いやでも、今回の書籍についてはYouTubeでやりたいような理想像を捨ててより現実的なことを書いていく仕事だったから、この本がヒットしたなら、ここで言っているようなことは書籍に向いてないのかも? 戦略の再考は必須ですね……。

 いずれにせよ、自分が発掘した面白いものだったり、自分が見地を提供できたりというものを、良い表現方法で外に出していきたいですね。まずはそのための勉強をやりたいです。

―最後に受験生や資格試験を控えている読者に一言お願いいたします。

『勉強大全』に興味を持ってださりありがとうございます。

 勉強本を書いておいて無責任なことを、と言われそうですが、やっぱり決めるのは御本人なんだと思います。どの勉強本を読むか、どの情報を信じるか、どれを採用してどれを不採用にするのか。すべては本人が、本人の未来のためのみによって決定をくださねばならぬことです。受かるのも自分なのだから、決めるのは自分です。ですから、ぜひこの本も「疑って」いただけると嬉しいです。「決める」ことは「疑う」ことから始まりますから。

 逆に言えば、自己分析さえできていればエゴに振る舞ってもいいのです。合格を掴み取りさえすればオールOK。人の言う正攻法など、強いパーソナリティの前には無意味です。ですから、その良いエゴのための、体のいい道具として、ぜひこの本を活用していただきたいです。

【前編】構想から1年、東大生クイズ王・伊沢拓司が伝えたい勉強法の全て

【プロフィール】
伊沢 拓司(いざわ たくし)

日本のクイズプレーヤー&YouTuber。1994年5月16 日、埼玉県出身。開成中学・高校、東京大学経済学部を卒業。現在は東京大学農学部大学院、東京大学クイズ研究会(TQC)に在籍。「全国高等学校クイズ選手権」第30回(2010年)、第31回(2011年)で、個人としては史上初の2連覇を達成した。TBSのクイズ番組「東大王」では東大王チームとしてレギュラー出演し、一躍有名に。2016年には、Webメディア「QuizKnock」を立ち上げ、編集長を務め日本のクイズ界を牽引する。同時に、自身の経験を活かしYouTubeで勉強法のアドバイスや公演なども行っている。『思考力、教養、雑学が一気に身につく! 東大王・伊沢拓司の最強クイズ100』(KADOKAWA)など著書多数。
Twitter @tax_i_
QuizKnock http://quizknock.com/