「自分探し」で迷走しないために。澤村伊智×大木亜希子が語る「自分の仕事の探し方」

文芸・カルチャー

2020/4/26


 仕事に対する悩みは、誰にとっても尽きないものだ。ふとGoogleで「仕事×悩み」と検索してみると2億件以上の結果が出てくるほど、多くの人たちが常に求めている情報なのだ。

 とりわけ時期的に悩みを抱えやすいと思われるのは、仕事に慣れ始めたもののさまざまな壁にぶつかるステージである20~30代にかけての若手社会人だ。先輩や上司との人間関係でも悩み、自分の将来のキャリアについて悩み、自分はこのまま今の会社にいてよいのか、もっと活躍できる場所がないのか…と日々考えている人もいるはずだ。

 そんな人たちに“仕事の矜持”を伝えてくれたのは、ホラー作家の澤村伊智さんとライター・作家として活躍する大木亜希子さん。「成り行きで文筆業に進んだ」と語る二人の対談を通してみえてくるのは、働き方が無数にある現代で「自分の働き方をどう見つけるか」のヒントだ。
《本インタビューは2020年2月に実施されました》

澤村さんと大木さん。どうやって現在の仕事に?

――今回、対談のテーマはズバリ“仕事”です。澤村さんは2018年に岡田准一さん主演で映画化もされた小説『ぼぎわんが、来る』(KADOKAWA)で作家としてデビューされました。どういった経緯で現在の仕事に就いたのでしょうか?

澤村伊智さん(以下、澤村):フリーランスの編集者やライターとして働くかたわら、32歳の頃に友人たちと互いに作った短編小説を見せ合っていたんです。当時は、同人誌のような形にしたり、Webで販売したりといった表立った活動はしていなかったんですが、ふとした瞬間に何となく「長編を書いてみるか」と重い腰を上げたのがきっかけでした。
 
 出版社に勤務していた経験もあったので、退職後も縁のあった先輩に見せたら、「おもしろいよ」と言ってくれて。もちろん「ありがとうございます」と伝えたんですが、それだけで終わってしまうのはもったいないと思って、「第22回 日本ホラー小説大賞」へ応募してみたら大賞を獲得できたので…。作家として活動を始めたのはそこからですね。

――趣味がいつしか本業へ繋がっていった、と。一方の大木さんは、ライターであり作家として昨年話題になった『アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)と『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(祥伝社)を続けて刊行しましたが、どのように今の仕事へたどり着いたのですか?

大木亜希子さん(以下、大木):私は元々、14歳の頃から女優をやっていたんです。ただ、大手芸能事務所に所属していたものの、活躍されている先輩俳優の皆さんのバーター(抱き合わせ)での出演ばかりでなかなか大成できなかったんですよね。芸能コースのある高校に通っていたんですが、卒業後も芽が出ずにいたところ、「20歳以上のメンバーで構成されるアイドルグループができる」と知り、最後のチャンスだと思ってオーディションを受けたのがSDN48でした。
 
 それでもメンバーとしてなかなか活躍ができず、ロケバスで孤独に読書をしていたのは今に繋がるひとつの原点かもしれません。グループは2012年で解散してしまいましたが、その後に就職した一般企業でライターとしての経験を培い、29歳で独立してフリーランスになりました。

今の仕事、作家活動を続けることに不安はない?

――お二人とも作家として順調にキャリアを積まれているようにみえますが、実際の手応えとしてはいかがでしょうか?

澤村:作家としてのデビューからはもうすぐ5年を迎えるのですが、まだ胸を張って「作家だ」とはいえないですね…。自分の名刺やTwitterにも書いていないし、自分で名乗るのはどうも性に合わなくて。どうしても「作家です」とか「小説家です」といわなければいけない場面でも、正直、口元がおぼつかないほどで(笑)。

 そもそも、自分が早くから小説家を目指していたわけではなく、たまたま運に巡り合ったと思っているので、どこかで「自分に名乗る資格はない」と思い込んでいるのかもしれないですね。今でも原稿がスラスラ書けるわけではないし、執筆は毎回のようにヒーヒーいいながら物語を書いている、というところもあるので…。

大木:澤村さんほどの大先輩が「ヒーヒーいいながら」というのは、聞いて何だか励みになります(笑)。

澤村:実は今日も想定したところまで書き進められないままだったので、後ろ髪を引かれる思いでこの場に来たんですよ(笑)。

大木:(笑)。でも、私こそ作家とはいえないと自分で思ってるんです。フリーランスのライターとしての2年目に、2冊も著書を出せたのは光栄だったのですが、作家を長く目指している方々もいるなかで、自分はいつまで出し続けられるのか…。それが分からず、でももちろんこれからも続けていきたいというつもりで、身を削りながら一心不乱に書いているような感覚ですね。


澤村:僕の作品はいわば“フィクション”なので、アイデアさえ広げられれば書けるという部分もあるわけです。でも、大木さんの作品、とりわけ2冊目の『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』や、定期的に更新されている「note」(コンテンツプラットフォーム)を読むと、“私小説的”なので大変そうですよね。

大木:辛さもある一方で、周りに支えられながら続けられているのは楽しくもあるんですよ。実は、1冊目の『アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア』を仕上げられた背景には、アイドル時代の自分が抱えていた葛藤や周囲への怒りが原動力にあったんです。形となって思いを成仏できたので、「ここでキャリアが終わっても、印税でどうにか暮らせれば」と最初は半ばヤケクソに思っていたんですね。

 でも、ドロップアウトしてもいいやくらいに開き直っていたはずが、書いて読んでもらうということがこうして続いているので、人生うまく行くことばかりじゃないけど、次が待っていると考えるのがだんだんとうれしさに変わってきました。

123

この記事で紹介した書籍ほか