声優・悠木碧が、西尾維新ワールドの魅力を語る!「一つも無駄のない文章はまるで呪文のよう」

小説・エッセイ

更新日:2020/12/6

詠唱劇『新本格魔法少女りすか』
イラスト:西村キヌ

 2020年10月、『新本格魔法少女りすか』の完結を2カ月後に控え、たちあがった詠唱劇。声優を変えて、本作の第1巻をリレー形式で詠み上げていく生配信企画だ。トップバッターの声優は、OVA『クビキリサイクル』で主人公を演じた梶裕貴とヒロインを演じた悠木碧。二人に出演時の印象と西尾維新作品ならではの魅力を訊いた。

 

すべてが異質だからこそ“わかる”瞬間に惹かれる

 まだ早い。それが初めて『クビキリサイクル』を手にしたとき、高校生だった悠木さんが感じたことだ。

「主人公である“ぼく”の、圧倒的な天才がそばにいるゆえの諦めと、でも諦めきれず傍観者になりきれない感じが、当時の心情にすごくシンクロして。触れると飲み込まれてしまう、と怖くなったんです」

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 その『クビキリサイクル』のアニメ化で出演が決まったのは24歳のとき。演じたのは、“ぼく”ではなく、圧倒的天才・玖渚友だった。

「理解できなくて怖いけど、理解できないからこそ気になるし愛おしい。それが“ぼく”から見た玖渚で、高校生の私ならきっと同じように憧れ畏れていたでしょう。でも大人になった私は、彼女の不自由さも理解できるようになっていた。それは私が成長したというよりは、あるときから声優として評価されるようになり、私自身は何も変わらないのに周囲からの扱われ方が変わってしまったことにやや違和感を抱いていたからだと思います。異質な存在として扱われる玖渚の不自由さを感じていたから、“ぼく”は彼女に惹かれたのだろうし、玖渚もそんな自分と一緒にいてくれる彼に惹かれた。二人は表裏一体の存在で、怖がる必要なんてなかったんだな、と。そんな二人の結びつきは『新本格魔法少女りすか』のりすかと創貴にも通じる気がします」

 赤い髪に赤い瞳。カッターで身体を傷つけ血を流すことで魔法を使うことができるりすか。「ありがたいのはキズタカだね」(意:キズタカがいてくれてありがたい)というように日本語があまりうまくない彼女を悠木さんは詠唱劇でどのように演じたのか。

「どんなトーンで言えばいいのか、最初は戸惑いました。創貴が〈下手なドイツ語の訳みたい〉と言っているのをヒントにグーグル翻訳を連想して、AI音声独特の間やイントネーションを参考にしたら、ようやくうまくいって。でも無機質な声でなく、りすかのかわいらしさはちゃんと表現したかった。浮世離れしているし、物理的にもすごく強い。強者ゆえの余裕があり、威風堂々としてもいる。でも同時に時空を超えてしまうほど軽やかで、りすかは正義感も強いんです。私たちの常識や善悪でははかりしれない感覚の持ち主だから、どこで逆鱗にふれるかわからない怖さはあるけれど、他者への愛情もちゃんとあって、人を理不尽に傷つけることは許さない。そんな彼女もまた、聴く人に愛されてほしいと思ったんです」

 そんな彼女の相棒となる同級生の創貴は、人間ではあるが小学5年生とは思えないほど達観し、卓越した頭脳の持ち主だ。そして彼の目的は、りすかをはじめとする魔法使いを己の〈手駒〉にすること。

「ワニとチドリみたいな関係性の二人ですよね。ワニの歯に残った肉を食べることでチドリは生きながらえ、ワニは虫歯にならずに済む。“利害一致”だけど、それだけじゃない。恋愛や友情という言葉でくくるのは簡単だけど、そのありようは誰にもまねできない唯一無二のもの。ああ、人と人とがともに生きるとはこういうことなんだと思いました。群れるのは息苦しいけど、隣に他者がいてくれて初めて自分の形状を確認できるものかもしれない。これは自粛中に私が感じたことですが、感じることも考えることも一人きりではできないし、異質な相手だからこそ、わかりあえる部分を見つけたときにうれしくなるし惹かれてしまう。それは私たちが西尾先生の作品を読むときも同じなんです。設定はあまりに突飛だし、一つも無駄のない文章はまるで呪文のよう。でも読んでいるうちにキャラクターを通じて共鳴する部分を見つけて、好きになってしまう。だからいつまでも作品を追い続けることをやめられないんです」

ゆうき・あおい●1992年、千葉県生まれ。2011年『魔法少女まどか☆マギカ』の鹿目まどか役で声優アワード歴代最年少の19歳で主演女優賞を受賞。21年1月スタートのテレビアニメ『蜘蛛ですが、なにか?』に主演。来春公開の『映画ヒーリングっど♥プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』に出演。

取材・文:立花もも

詠唱劇『新本格魔法少女りすか』

『新本格魔法少女りすか』のシリーズ完結を記念して、第1巻を異なる声優ペアでリレー朗読する企画。アニメーションも音楽もなく、ただ声だけで西尾維新の原作文章を味わう。第一話は、悠木碧&梶裕貴をトップバッターに、釘宮理恵&鳥海浩輔、高橋李依&松岡禎丞の3組が演じた。第二話は、三森すずこ&福山潤、水瀬いのり&小野賢章(12月15日配信スタート)。http://officeendless.com/sp/risuka/(アーカイブ配信:2021年2月28日まで)

詠唱劇『新本格魔法少女りすか』

詠唱劇『新本格魔法少女りすか』