「この話いつまで続くんだろう」と考えながら聞くと話が長くなる!? 精神科医・水島広子先生に聞く、疲れずに人の話を「聴く技術」

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更新日:2021/6/15

水島広子先生
水島広子先生

 やたらと愚痴の多い人、子どもの話ばかりする人、悩み相談をしてくるわりに人の意見は聞かない人……。話を聞いているだけで疲れてしまう相手をかわすには、どうしたらいいんだろう? 堂々巡りの話をどうしたら終わらせられる?

 シリーズ10万部を突破した「それでいい。」シリーズの第2弾、『やっぱり、それでいい。』(創元社)は、相手を変えようとするのではなく、話を聞く姿勢をちょっと変えるだけで、格段にラクになる方法を伝授してくれる1冊だ。

 マンガ家・細川貂々さんとともに本書を刊行した、著者で精神科医の水島広子さんに、多くの人が陥りがちな勘違いと、大人の人間関係に必要なコツについて、うかがいました。

(取材・文=立花もも)


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アドバイスするということは「相手を否定する」ことに繋がってしまう

やっぱり、それでいい。
『やっぱり、それでいい。』(細川貂々、水島広子/創元社)

――人の話を聞いて疲れてしまうのは、「相手のためにならなきゃ」と思っているからで、聞く姿勢を変えるだけでモヤモヤしたりしんどくなったりしなくなる。と、マンガ家の細川貂々さんとの共著『やっぱり、それでいい。』に書かれていました。

水島広子先生(以下、水島) 私たちは幼いころから「相手の立場になって考えなさい」と言われて育ちますから、話を聞くときも相手の立場に立って考えようとしますよね。それが根本的な勘違い。「もし自分だったら」というのは言葉どおり、相手の状況に自分が置かれたらという想像で、相手にとっての真実と重なるとは限りません。

――同じ状況に立たされても、どんな選択をするかは人によって違いますもんね。

水島 ほとんどの人は、相手の話を聞いているつもりで実は自分のことを考えているんです。だから「私にもそんなことがあった」という共感や「私ならそんなことはしない」というアドバイスが、相手にとっていまいちピンとこないものであることも多い。そもそも、「アドバイスが欲しいんだけど」と持ちかける人の多くは、単なる前置きとして言っていて、本当はただ話を聞いてほしいだけなんです。そして気をつけなくてはいけないのは、アドバイスをするという行為自体、基本的に相手の現状を否定しているのと同義だということ。

――アドバイスが、相手の否定になるのですか?

水島 どんな状況であろうと、その人なりに頑張った結果、「今」があるわけでしょう。「もっとこうしたら?」と言うのは「今のあなたじゃだめ」という否定が前提になってしまうんです。言われたほうも無意識にそれを感じとるから、たいていの場合、素直に受けとれない。

――対して、アドバイスをする人は「自分」の話に置き換えて話しているから、アドバイスが受け入れられないと、それはそれで否定されたような気になってしまう……。

水島 そう。たとえば、「ここからいちばん近い駅は××です」と教えてあげたとして、相手がその隣の駅まで歩いて行ったとしても腹は立ちませんよね。何か用事があったのかな、道に迷っちゃったのかな、とすんなり受けとめられる。そうした客観的情報のやりとりなら互いにストレスが発生しにくいのですが、「もっとこうしたほうがいい」というアドバイスは過去の経験から蓄積したデータベースが基になっている。それはとても主観的なものだから、相手に聞き入れられないと「せっかくアドバイスをしてあげたのに!」とフラストレーションを溜めてしまう。「そんな男とは別れたほうがいいって言ったのに、まだつきあってる!」とかね(笑)。

――あるあるですね(笑)。

水島 だから、意見が相手に採用されなかった場合、自分がイラっとしてしまうかどうかは見極めるポイントのひとつです。果たして自分は客観的な情報を渡すことができたのか、それとも相手の現状を否定してアドバイスしてしまったのか。自分の評価を押しつけて、相手の現状を決めつけてしまうのは、結果的に自分が疲れるだけ。だからこそ、思考を“脇におく”ことが必要なんです。

――『やっぱり、それでいい。』にも書かれていた、雑念をとりのぞく作業ですね。よけいな思考はなくして、相手の現在に集中するという。

水島 「私だったら……」とか、相手の話に反応して自分のことを思い浮かべてしまったら、そのまま脇におくんです。「考えちゃだめ」みたいに打ち消すのも、しない。そこから「ああ、また自分のことを考えてしまった」というように、思考が連鎖していきますからね。

――なんだかとても難しい作業のような気がするんですが……。

水島 不得手な性質の方もいるでしょうから、絶対とは言い切れませんが、15年近く続けているワークショップで見ている限り、訓練すれば誰にでもできるようになりますよ。映像的にぽいって投げるイメージをする人もいれば、「データベースから出る」ってスイッチを入れるだけで済む人もいて、やり方は人それぞれですけれど。日常で誰かと話すとき意識的に練習すれば、それほど時間もかかりません。とはいえ、私たちは修行僧じゃありませんから、いつなんどきも相手の話に100%集中しなきゃいけないってこともありません。話を聞いておもしろいと感じたなら、その感情に支配されたままでも別にいいんです。ただ、その場合はつまらないと感じたとたんに相手の話から気がそれますから(笑)、そんなふうにネガティブな反応が起きたときの対処法として覚えておくとラクになるということです。