言葉は人を傷つけも救いもする――俳優・綾野剛と「言葉」の関係

文芸・カルチャー

更新日:2021/8/30

綾野剛

 映画・テレビドラマをはじめ、縦横無尽に活躍を続ける俳優・綾野剛。12年におよぶ雑誌連載をまとめた初の著書『牙を抜かれた男達が化粧をする時代』には、彼自身がその時々の写真と言葉について「自己分析」した解説「証言」が収録されている。その中に書かれた「言葉は心に留めるのではなく(中略)燃やし尽くしてほしい」という言葉が印象的だった。俳優としてさまざまな役を、セリフを通して表現してきた彼は、どのように言葉と向き合ってきたのか。言葉のもつ怖さから優しさ、そしてSNSで発信することまで、綾野剛が今「言葉」について思うことを語ってもらった。

取材・文=小川智宏 写真=北島明(SPUTNIK)


advertisement

自分は言葉で生かされましたし、言葉に愛してもらった。それを大切にしたい想いは一度も途絶えていない

――『牙を抜かれた男達が化粧をする時代』を拝見して、写真と言葉の関係性がユニークだなと思いました。たとえば「煌めけ」というたった一言の言葉が、写真と合わさることで何倍にも何十倍にも膨らむようなことが起きていて。

綾野:書籍としては写真は言葉に対して余分なものだなとも思います。僕はときに鋭い言葉も使うので。基本的に言葉って暴力になり得ます。当然喜びを与えるものや、愛おしいものであるという考え方も僕の中で生きていますが、言葉というのはベースは暴力的なものなんです。せめて写真で相殺させたい思いがありました。写真がなければ、もっと強烈に人を傷つけていた可能性がある。今見返すと、そんな感じはします。

――言葉の危険性もわかっているし、その温かさ優しさもわかっているからこそ、綾野さんが提示しているような表現になっていったのかもしれませんね。

綾野:役者は、言葉を生業にしてる以上、感情を生業にしています。セリフがない作品がもしかしたら一番魅力的なのかもしれない。表情の方がよっぽど雄弁であり、ロケーションの方が語る。セリフのせいですべてを壊している瞬間もあったりする。やはり暴力的だと思う反面、言葉に救われたこともたくさんありますから。そういった感情を忘れない、ということ。自分は言葉で生かされましたし、救われ、言葉に愛してもらった瞬間があるから。それを大切にしたい想いは一度も途絶えていません。

――俳優として、脚本に書かれた言葉を自分の中に取り込んでいくときも、そのような言葉に対する感覚が強くあるということですね。

綾野:その感覚を持っていればまず暴力性を前提に言葉を放つなんてことは、よっぽどのことがない限りありません。本当に怒ったときって、声なんか出ないのでは、と。本当に怒ったときこそ、すべて行動に変わる。無言が一番怖い。怒りの情報が伝わりやすい。芝居でも言葉や感情の選定をしていく上で、脚本家、監督、俳優部は一番そこに気をつけないといけないのかもしれません。

綾野剛

受け取って下さる皆様に熱狂してもらう為にも、まずは自身が熱狂しないといけない

――綾野さんって、たとえばInstagramに写真を投稿されていますけど、言葉での発信はしていないじゃないですか。逆にそれが言葉をすごく大事にされている証なのかな、とも思うんですよね。

綾野:励みになります。それ以上の説明は不要なのです。写真やデザインを主役として表現しているので。誤解を恐れず言うと僕にとってSNSは「続けていくもの」ではないのです。あくまでもクリエイションのひとつの可能性なのです。作品と連動させても面白いですし、飽きたらフォーマットや、やり方を変えていい、もっと言えばやめても良いのです。もっと豊かな発想で表現したい。逆に言うと、ラーメンだけの写真を撮ってる人もカッコいいですし、魅力的です。僕は一貫性より多様な変化をすることが重要だと思っています。

――綾野さんのInstagramの写真は、言葉がない分、逆に感じられるものがあるような気がします。それこそ同じ写真でも、朝起きたときに見たときに感じるものと、夜寝る前に見たときに感じるものが変わっていたりとかして、すごく雄弁だなって思いますけどね。

綾野:初めは伝える努力をしました。でも、言葉で伝えようとし過ぎるのではなく、もっと“伝わる”を信じられるかが重要になってきました。あくまで自作品のアウトプットのひとつの場所が、誰かにとってインプットになれば幸いです。

――言葉といえば、『牙を抜かれた~』に収録した写真と言葉についてご自身で解説した「証言」の中で「言葉は心に留めるのではなく自らのエンジンを稼働させる為の燃焼ガソリンとして燃やし尽くしてほしい」と書かれているのが印象的でした。綾野さんらしい言葉だなあと。

綾野:基本、座右の銘はありません。大事に保管するというよりは、次から次に座右の銘も変わっていくといいますか。劣化し錆びつかせた座右の銘よりも、新たな挑戦へのコンセプトへ導いてくれる心意気みたいな感覚でしょうか。それくらい、自由なものでいいと思います。

――おそらく俳優としてそのセリフを言ってるときも、そういう気分なんでしょうね。その瞬間に燃えているものというか。

綾野:まさに。熱狂しないと。そして受け取って下さる皆様に熱狂してもらう為にも、まずは自身が熱狂しないといけない。今後やる作品でも、熱狂できるものを提案し続けます。

綾野剛

スタイリング=申谷弘美 ヘアメイク=石邑麻由
衣装=ジャケット:アン ドゥムルメステール ¥334,400(コロネット株式会社 03-5216-6524)

あわせて読みたい

この記事で紹介した書籍ほか

牙を抜かれた男達が化粧をする時代

著:
出版社:
ワニブックス
発売日:
ISBN:
9784847083716