「自分が感動できるものかが大きな基準」──WEAVERドラマー・河邉徹さん『蛍と月の真ん中で』【後編】

文芸・カルチャー

更新日:2021/10/22

蛍と月の真ん中で

著:
出版社:
ポプラ社
発売日:
河邉徹さん

 3ピースバンド・WEAVERのドラマー河邉徹さんが、2021年10月に5作目の小説となる『蛍と月の真ん中で』を上梓した。インタビュー前編では、作品の舞台となった長野県辰野町を訪ね、取材した際のエピソードや執筆過程について伺った。

 後編では、河邉さんにとって音楽と小説には、いったいどんな違いがあるのか? 意識している作家さんは? 次回作のテーマは…? などなど、創作について伺った。

(取材・文=三田ゆき 撮影=江森康之)

歌詞と小説、写真──それぞれに合う「自分の表現したいもの」がある

――辰野から受けた印象は、「光と呼ぶもの」という楽曲にもなっているそうですね。音楽と小説ではアウトプットのかたちが違いますが、表現したいものもまた違うのでしょうか。

河邉徹さん(以下、河邉):そうですね、歌詞にするものと小説にするものでは、伝えたいものが違います。たとえば、『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』を思い浮かべていただきたいのですが、テレビで見る30分の物語の中で伝えられるものと、映画の1~2時間の尺で伝えられるものって、やっぱり違っているんですよ。『ドラえもん』も『クレヨンしんちゃん』も、映画になると宇宙に行ったり、恐竜が出てきたりしますが、そういった要素は、ふだんの30分のアニメの中にはないものですよね。それと同じで、やっぱり小説には小説に合う「自分の伝えたいもの」があると思いますし、それを歌詞に当てはめてしまうと、なにが言いたいのかわからなくなってしまいます。自分の言いたいことをアウトプットするためのツールとして、違うものがふたつあるというイメージです。

 もし僕が歌詞という表現のツールしか知らない状態であれば、歌詞に入りきらない大きな「言いたいこと」を無理やり歌詞に当てはめて、しっくりこないなと思っていたかもしれませんね。もちろん、その反対もありえたでしょう。自分の表現したいものに合うそれぞれの道具を持つことができたのは、僕にとってすごくいいことだったなと思います。

 ひとつの物語を音楽と小説というふたつのツールで表現したものは、以前、『流星コーリング』という作品でも経験がありますが、音楽と小説は、相乗効果でそれぞれの力を高め合うものなのだと感じています。小説があるおかげで、音楽を聴いて浮かび上がってくる景色が広く、細やかなものになりますし、音楽があることによって、小説に描かれたものが心の中に引っかかり、簡単には流れ落ちてしまわない作品になる。僕は音楽も小説も好きですから、これからも、どんなかたちになるかはわかりませんが、相乗効果のある作品を作っていけたらいいですね。

蛍と月の真ん中で
『蛍と月の真ん中で』(河邉徹/ポプラ社)

――さらに『蛍と月の真ん中で』の主人公は、カメラマンを目指す若者です。本作は、音楽と小説、写真という3つの表現手段をお持ちの河邉さんだからこそ生み出せた作品だと思いますが、写真で伝えたいものも、音楽や小説とはまた違うのでしょうか?

河邉:そうですね。物語の中にも書きましたが、「写真は、そこにしかない光を集めて、離れた場所に持っていける」という特性を持っています。自分が見た景色を、そこにいない誰かに届けられるということですね。写真とは、言葉よりもずっとスピードがあるもの、言葉を置いてきぼりにしてなにかを伝えられるものなんです。自分で撮るようになって、写真のそういった強みや楽しさをすごく感じていますね。写真の中でも、とくに風景写真って、流星が流れた瞬間とか、虹がかかっているとか、まれに見る綺麗な夕焼けだとか、そういった希少性の高いものが感動を呼ぶわけですが、最近は、もっと普遍的な風景と自分の言葉を組み合わせることで、写真自体の価値を高めるようなものが作れないだろうかと考えています。

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――作中のトピックとしてもSNSを取り上げていらっしゃいますが、小説も歌詞もSNSも、“言葉”を使うものですね。河邉さんが言葉を選ぶ基準とは、どういったものですか?

河邉:作品を作る上では、自分がいいと思っているもの、自分が感動できるものであるかどうかが大きな基準になっています。ただ、その「いいと思う」「感動する」という感覚は、おそらくは一生、みんなが共通して持てるものではありません。誰もが違う感覚を持っているからこそおもしろいのですが、たとえば誰かと共作をするといった場合、難しいポイントにもなりえますね。

 実は今回の作品も、書きはじめたときは「ぜんぜんおもしろくない」と感じてしまって、けっこう苦労したんですよ。題材はおもしろいと思うのに、文章になるとおもしろく読めない。自分がおもしろいと思えないから、続きも思い浮かばない……その原因を探り出せるのは経験とスキルだと思うのですが、そのときの僕には、まだなにが原因なのかがわからなかった。「もう少し『、』や『。』を増やしてみよう」と考えたり、文末の言葉を調整したりと試行錯誤する一方で、自分の好きな作家さんの本を読み返しました。「僕はなぜこの人の本を読んでおもしろいと思えるんだろう?」という視点で読み、その作家さんになったつもりで文章を書いてみるというやり方で、「原因は文体にあるのではないか」ということを突き止め、この物語を自分なりにおもしろいと思って読めるものにすることができたんです。

――その際には、どんな本を読まれたのですか?

河邉:そのときは、小野寺史宜さんの小説ですね。小野寺さんの小説は、文体に独特のリズムがあるので、「こういうリズムで書いてあるから、僕はこの本をおもしろいと思って読めるんだ」と理解した上で、自分の作品に立ち返って書くということをしていました。本を読むことは好きで、読めるときは週に2冊くらいは読んでいます。どのくらい読むかは時期によりますが、自分で小説を書いているときなどは、読むことが力になることもあれば、反対に読みたくなくなってしまうこともある。インプットを必要としている時期と、アウトプットに専念したい時期があるのでしょうね。

『蛍と月の真ん中で』は、生き方に悩んでいる人に読んでもらいたい

河邉徹さん

――読書家でいらっしゃる河邉さん。好きな作家さんなどはいらっしゃいますか?

河邉:『蛍と月の真ん中で』にコメントを寄せてくださった、伊吹有喜さんです。僕、伊吹さんの書かれた『雲を紡ぐ』(文藝春秋)という小説に、すごく感動してしまって。田舎の描写や、主人公が成長していくさまなどに重なるものを感じて、『蛍と月の真ん中で』にコメントをお願いしたんです。それから、最近「やっぱりすごいな」と思っているのが、村上春樹。村上春樹「さん」って言うのもおかしいくらい多くの人に親しまれている作家さんですが、自分で小説を書くようになるまでは、村上作品のよさがそこまで理解できていなかったような気がするんですよ。僕は半年ほどロンドンに住んでいたことがあるのですが、ロンドンの書店でも、平積みで売られている日本人作家は村上春樹だけでした。近ごろは、海外でもここまで読まれている理由を解き明かしたいなと考えながら読んでいます。

――ライバルだと思っている作家さんはいらっしゃいますか?

河邉:ライバルだと表現するのもおこがましく、むしろファンに近いと思いますが、朝井リョウさんです。僕よりもずっとキャリアは長くて、素晴らしい物語をいくつも生み出している小説家ですが、年齢も近いですし、強いてライバルと表現させていただけるなら…という感じです。お会いしたこともないのですが(笑)。朝井リョウさんも現代を舞台にした小説を書いていて、さらに痛みがあるところまで踏み込んで書かれる力があるので、敵わないなと。大好きな作家さんで、すごく楽しんで読んでいます。

――『蛍と月の真ん中で』は、風景が目に浮かぶような、映像的な作品でもありました。脚本に挑戦されるご予定などは?

河邉:プロに任せたほうが素晴らしいものが仕上がるとは思いますが(笑)、僕も挑戦することは好きなので、機会があればやってみたいなとは思いますね。まさに今、『流星コーリング』がマンガになりつつあるところなのですが、そちらではマンガのプロットの制作に挑戦しました。マンガのプロットの書き方って、おもしろいんですね。1コマ目では誰がなにをしていて、2コマ目ではどうなってって、僕は絵が書けないので、文字で書いていくんです。それをマンガ家さんにマンガにしてもらうのですが、その作業をしてから「マンガのコマって、どんなふうになっているんだろう?」と意識が向くようになりましたね。もちろんマンガはこれまでも好きで読んでいましたが、そこまでマンガについて理解できていなかった自分でも、挑戦してみればこうしてかたちになっていくんだという経験ができました。脚本についても、自分がイメージしたものをそのままかたちにできるという意味では、機会があれば挑戦できたらいいですね。

――『蛍と月の真ん中で』は、どんな方に読んでもらいたいですか。

河邉:現代はいろいろな情報があふれていて、「どんな生き方をすればいいんだろう」と悩んでいる方も多いと思います。そんなふうに、生き方に悩んでいる方に読んでもらえたら嬉しいですね。

河邉徹さん

――小説家としてこれから書きたいテーマはありますか?

河邉:前作『僕らは風に吹かれて』ではミュージシャンを題材にした小説を、今回は写真を撮っている主人公を題材にした小説を書きました。3作目の『アルヒのシンギュラリティ』のように、空想の中で広げていく物語も好きですが、しばらくは自分が得意なことや、経験したことを題材に書けたらいいなと思っていますね。たとえば、次は小説家を主人公にしてなにか書くことができるかなとか、最近はインテリアに凝っているので、もっと詳しくなれたらインテリアを題材にしても書けるかな、といったことを考えています。自分がちゃんと題材をものにして説得力を持たせ、その題材を描く表現自体も自分のものにした上で表現していけたらと思いますし、それが表現のオリジナリティにもつながるのではないかなと。素晴らしい文章を書かれる専業の小説家の方々に、文章だけでは敵わないような気がしているので、自分の生き方も含めて、自分だからこそできる小説の表現を突き詰めてみたいと思います。

この記事で紹介した書籍ほか

蛍と月の真ん中で

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ポプラ社
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