ryuchell(りゅうちぇる)さん「帯文の受け取られ方が20代までと30代以上で全然違った」初書籍に込めたポジティブな想い

文芸・カルチャー

更新日:2021/12/24

こんな世の中で生きていくしかないなら

著:
出版社:
朝日新聞出版
発売日:
ryuchell

 2015年、テレビに出演し始めた当時から、独自のファッション性とキャラクター、そして妻(当時は恋人)のpecoさんへの愛を貫き続けるryuchell(りゅうちぇる)さん。2018年にはRYUCHELL名義で歌手デビューを果たし、今年11月には芸名をryuchellと変えることをYouTubeの公式チャンネルで発表した。ファッションの傾向や名前の表記が変わっても、自分は自分、というスタイルは決して曲げることなく、活動の幅を広げるryuchellさん。このたび刊行された初の著書『こんな世の中で生きていくしかないなら』(朝日新聞出版)もまた、しなやかに生きていくコツを教えてくれる1冊だ。「本を出すつもりはなかった」という彼が、文章に込めた想いとは?

(取材・文=立花もも 撮影=島本絵梨佳)


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――〈自己肯定感なんて、そう簡単に手に入らないよね〉〈「自分らしさ」って、そもそも必要なのかな?〉と目次にも並ぶ言葉が、ryuchellさんから出てくると思っていなかったので、ちょっと意外でした。

ryuchellさん 読んでくださる方に、ちゃんと寄り添える本にしたかったんです。テレビに出ているときは、さまざまな年代の、属性も異なる方々に観られることを意識して、番組の趣旨にあわせて明るく楽しく過ごすことを意識していましたし、みなさまが想像するとおりのりゅうちぇる像を守ろうと思っていたんですけど、YouTubeやSNSではちょっと真面目に、僕のバックグラウンドや本音を話すようにしていて。本はそこからさらに踏み込んで、僕だって同じ人間だし、みんなと変わらないよ、落ち込むこともあれば、なんのために生きてるんだろうって迷うこともあるよ、ってことを伝えながら、読んだ人の心にしっかりと響くものにしたいなと思いました。

ryuchell

――pecoさんとも仲睦まじいイメージが強かったので、ちゃんと喧嘩もするんだ、っていうのも意外でした(笑)。

ryuchellさん そりゃあ、そうですよ。表舞台でチューしないのと同じように、いちいち険悪な雰囲気は見せません(笑)。みなさまが思っている以上に、小さいことから大きいことまで喧嘩しますよ。子育てに関してぶつかることはあんまりないんですけど、やっぱり、生まれ育った環境の違う他人同士ですから、「どうしてこういうことするの?」って、信じてる“普通”がすれ違ったときに、ぶつかることはある。余裕があるときは流せることも、忙しかったり疲れていたりしてピリピリしていると、自分の気持ちばかりを押しつけてしまいがち。そのへんは、ごく平凡な若者夫婦だと思います。

――それでもお互い譲りあって、寄り添いあって、お互いを「運命の人」に育てていくのだというお話が素敵でした。長く一緒にいるために、心がけていることはありますか?

ryuchellさん 本にも書きましたが「理解できないけど認める」ってことは、相手がぺこりんに限らず、いつも意識するようにしています。どんなに気が合う相手でも、100%わかりあえることなんてないし、「それはどうなの?」って思うことは絶対にある。でも、相手に悪気があるわけじゃなくて、自分とは大事にしているものが違っていたり、単に性格が違うだけだったり、理由があって行動しているんだ、感情的になってしまうんだ、ということがわかれば、一歩譲れることもある。だから、何かあると状況や自分の気持ちを紙に書きだして、自問自答するようにしています。物事の発端をちゃんと見つめるのは、寄り添いあって生きるためには大事かな、って。

――そうじゃないと、あわない人はすべて切り捨てていくことになっちゃいますしね。

ryuchellさん 家族や友達みたいな近しい相手にこそ、それをやらなきゃだめだなと思います。我を押しつけて、孤独になって、つらくなるのは自分ですから。僕のなかにはずっと、「共有はいいけど強要はだめだ」という想いがあって。よかれと思ってという親切も、相手を信頼することも、全部、自分がやりたくてやっていることですよね。それなのに、ないがしろにされたとか裏切られたとか言って相手を責めるのは、自分が勝手に抱いていたイメージに相手を押し込めているだけなんじゃないかと思う。もちろん、悲しいし腹は立ちますよ。でも僕は、自分と関係ないところで勝手に期待されて、一方的に責められたらすごくいやだから……それをしないように、どんな人が相手でも、それが家族であっても、期待をしないように気をつけています。

――〈諦める、割り切る、逃げる、戦わない。そして、期待しないこと。〉その5つがryuchellさんの生きるための武器だと、本書にはくりかえし書かれています。

ryuchellさん もちろん最初から諦めていたわけでも期待していなかったわけでもなくて、たくさんの人と出会う中で、傷ついたり傷つけたりして、その感覚は養われていくものだろうなと思います。でもね、おもしろいんですけど、30代以上の方はたいてい、この言葉にネガティブな印象をもつんですよ。「帯にそう書かれていたから、もっと暗い内容の話かと思ったのに、そうじゃないから驚いたし、ハッとしました」みたいな感想をいただくんですが。

こんな世の中で生きていくしかないなら

――確かに。反転してポジティブ、とは思いましたが、その言葉自体にはネガティブな印象をもちがちです。

ryuchellさん でも、僕もそうだけど、10代・20代の人間は「あー、わかる。そうだよね」っていう反応なんですよ。30代以上の方々って、子どもの頃から何かを強いられてきたというか、簡単に諦めるなとかもっと努力しろとか言われ続けてきた世代なんだと思うんですよね。でも今の10代、20代は、SNSの影響で人の失敗も成功もみすぎている。経験していなくても簡単に“わかって”しまうんです。そのぶん、どうせだめなのわかっているから、みたいに挑戦しなくなったり、他人の目を気にしすぎてしまったり、淋しい面もあるんですけど、自分自身にも過剰な期待をせずに済むというのはラクなことでもあって。『こんな世の中で生きていくしかないなら』というタイトルも、特別にネガティブではなく、「まあ、だってそうでしょう?」くらいのフラットな感覚なんです。

――なるほど……!

ryuchellさん 僕のインスタのフォロワーで、いちばん多いのは30代の方なんですけど、NHKの番組にも出演している影響か、意外と50~60代の方もいらっしゃって。僕の考え方に触れて、そういう生き方もあるんだ、それでいいんだって気づくことができて衝撃だった、ってお声もたくさんいただくんです。自分たちの時代は、諦めることも逃げることもしてはいけないことだったから、って。でも、そう思っていただけるのは嬉しい反面、その方々が過ごしてきた時代にも、いいことはたくさんあったはずじゃないですか。今、多様性とか言われて、価値観が揺らいでいる中で、古いと言われている価値観のすべてを否定したくはなかった。僕は確かに新しいと言われることが多いけど、上の世代が築きあげてきた“古き良き”ものもみて育っている。受け継ぐものは受け継いで、できるところは時代に対応したアレンジを加えて、柔軟に自分の生きる道を選択していきたいし、読んだ方にもそう感じていただけたらいいなと思っているんです。「自分たちの時代はだめだった」でも「新しい価値観にはついていけない」でもなく、「こんな選択肢もあるんだ」と知ることで、今からでも自分なりの生き方をみんなで選んでいけたらな、と。

――それもまた、強要しないということですもんね。

ryuchellさん そう。たとえば今、世の中的には、「自己肯定感を高めよう」という流れがあるし、僕も子どもを育てる上でそれは大事にしているところではあるんだけれど、ずっと自分に自信がもてなくて、好きになれずに何十年も過ごしてきた人が、いきなり自己肯定感を高めるのってかなり難しいじゃないですか。だから、まずは自分をこんなふうに甘やかしてみたらどうだろう? とか、自分のことを好きになれない自分をまずは認めてあげようよとか、僕なりに選択肢をいくつか提示することで、ホッとしてもらえたらいいなと思います。あと、この本には、仕事とか恋愛とかテーマを決めていなくて。どんな属性の人でもなにかしら共感できるところがあるように、という書きかたも意識しました。

――ryuchellさん自身が、「ジェンダーレス男子」とくくられることに違和感があった話とか、ご自身の弱みを曝け出しているのも、読者が勇気づけられるところだと思います。

ryuchellさん 原宿でショップ店員をしていた時代、僕のファッションやメイクを馬鹿にする子はひとりもいなかったけど、テレビに出るようになって、キャラクターも派手だったせいか、いろいろ言われるようになりました。それでも、これが自分なんだからと続けていたら、「ジェンダーレス男子」と言われるようになったんですけど、僕以外の、メイクをしたり可愛いものが好きだったりする子たちもみんな、ひとくくりにされることに抵抗があったんですよね。彼らには、僕とも他の誰かとも違う個性があるのに、なんで一緒にしちゃうの? って。でもまあ、タレントとしてテレビに出る以上、わかりやすく定義したほうが視聴者のみなさんも受け入れやすいんだろう、というのもわかるから、割り切るしかなかったですよね。でもそうして、やっぱりブレずに自分を貫いていたら、「ジェンダーレス男子っていうか、ryuchellはryuchellだよね」みたいに言ってもらえるようになってきた。

――枠組みが、自然とはずれたんですね。

ryuchellさん 原宿のショップ店員で読者モデルだったという肩書も、ぺこりんの彼氏だという肩書も、今はわざわざつけられることはありません。他人のことは期待しなくても、社会に対しては割り切っていても、自分のことだけは信じて貫いていたら、いつか肩書よりも名前が勝つときがくるんだなと思いました。それまでは、耐えて続けるっていうのも大事なんだ、と。あれこれ言われるのがあたり前だという芸能の立場にいるから、耐えやすかったというのもあるかもしれないけれど、自分を守るための武器として〈諦める、割り切る、逃げる、戦わない。そして、期待しないこと。〉を身につけるのは、誰にとっても役に立つんじゃないのかなあ。

――ryuchellさんの言うそれは、最初から何もしないとか、拗ねて立ち止まるとかってことではないですもんね。戦うべきところはちゃんと戦っている。でも前に進むためにはいったん逃げることも必要だよ、と。そのためのバランスを、自分なりに模索していくすべを教えてくれる本だと思いました。

ryuchellさん そうですね。この間もSNSに書いたんですが、神様ってほんと、超ドSで。壁を乗り越えたと思ったら、その先で必ずまた壁が現れるんです。しかも、前と同じやり方では通用しない、もっと大きい壁が。だけど、経験を応用することはできるはずだから、自分なりに乗り越え方を編み出していったり、乗り越えられなかったときはどうするか、自分のご機嫌をとる方法を学んだり……一つひとつ、やっていくしかないんですよね。僕自身も、まだまだ学んでいる最中なので、その手探りの状態も含めてみなさんと共有できる本になっていたら嬉しいです。

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