『告白』から『未来』まで、湊かなえの双葉社刊行8作品が初の電子書籍化!全あらすじを紹介!

小説・エッセイ

公開日:2020/8/1

湊かなえ

 今年5月、すこしでもステイホーム期間に潤いを……と、湊かなえさん自身の発案によりデビュー作『告白』が期間限定で双葉社のサイト上で無料公開された。「新型コロナウイルスに負けるな! 外出自粛をされている皆様、本で心の旅に出ましょう。気持ちばかりの『無料旅行券』をお送りいたします。」という湊さんからのメッセージに、励まされた読者も多いだろう。

 自粛の解除とともに無料公開は終わったが、このたび双葉社から刊行されている湊かなえ作品全8冊の電子書籍化が解禁。6月8日より、主要電子書店で配信がスタートした。『告白』から、まだ文庫化されていない単行本『未来』まで、これを機にぜひとも湊かなえワールドの軌跡に触れてほしい。

『告白』累計360万部を超える湊かなえの原点

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『告白』(湊かなえ/双葉社)

 中学校内の事故で死んだ幼い娘は、このクラスの生徒に殺された――終業式の日、生徒たちを前に女性教師・森口が淡々と語りはじめた衝撃の告白。ある“復讐”を置き土産として彼女が学校を去ったあと、残された生徒たちは異様な空気に支配され、新たな事件の火種へと変わっていく。クラス委員長や犯人、その母親と、視点人物を変えて淡々とした一人称語りのみで進んでいく本作。それぞれの疑心や嫉妬、愛情、秘密と嘘が絡み合ってさらなる悲劇を引き起こしていく……。デビュー作とは思えぬ迫力と構成力に、本作は「週刊文春ミステリーベスト10」1位、本屋大賞1位を受賞。2010年に松たか子主演で映画化もされ、累計360万部を超える湊かなえの原点だ。

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『少女』死への好奇心、少女2人の行動が事件に結びついていき…

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『少女』(湊かなえ/双葉社)

 親友の死を目撃したことがある、と転校生・紫織に打ち明けられた高校生の由紀は、どうせなら人の死ぬ瞬間を見てみたいと思う。小学校からの友人で、自殺を考えたことのある敦子は、死に触れることができたらもっと強くなれるのではないか、と思う。動機はちがえど、ともに「人が死ぬ瞬間を見ていたい」と願った2人は、夏休みにそれぞれボランティア活動を始める。由紀は病院の小児科病棟で本の読み聞かせ、敦子は老人ホームでの軽作業。だが、とある事件をきっかけにぎくしゃくしていた2人だったが、互いに内緒のまま始めたボランティアでの経験が事件に結びついていき、やがて思いもよらぬ真相が明らかに……。死への好奇心、少女の友情、そして若さゆえの傲慢が絡み合う本作は、本田翼&山本美月出演で映画化された。

『贖罪』幼い娘を変質者に殺された母親。娘の友人4人に執着し続ける真意は?

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『贖罪』(湊かなえ/双葉社)

「あなたたちを絶対に許さない。必ず犯人を見つけなさい。それができないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい」――幼い娘を殺された母親は、事件から3年後にそう告げた。娘を殺した犯人とおぼしき男と言葉をかわしたのに顔を思い出せないという、娘の友達だった4人の少女たちに。そして12年後。いつか犯人が殺しに来るかもしれないと怯え、生理がこないままの紗英。殺された友人に恥じないように、と小学校教師になった真紀。事件によって心が壊れ続けたままの晶子と、姉の夫との間に子を宿した由佳。それぞれが抱えた事件の秘密と、最後に果たした贖罪とは。4人に執着し続ける母親の真意は……。小泉今日子主演でWOWOWにてドラマ化。

『夜行観覧車』高級住宅街に渦巻く好奇心や見栄、嫉妬が生み出すもの

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『夜行観覧車』(湊かなえ/双葉社)

 念願のひばりヶ丘に家を購入し、越してきた遠藤一家。けれど高級住宅街にふさわしくないと近隣からは嫌がらせを受け、娘の彩花が私立中学の受験に落ちた頃から、家庭の雰囲気は荒れていく。いつ何が起きてもおかしくない一触即発の空気のなか、ある晩、ついに事件が起きる。けれど血が流れたのは遠藤家ではなく向かいの高橋家。人目を惹く美しい妻と、品行方正で優秀な3人の子どもたちをもつ、医師の弘幸が後頭部を殴られ殺されたのだ。直後、次男の慎司が失踪し、事情を知らずお金を貸した彩花の母・真弓は、事件に関与してしまったのではないかとおそれるが……。幸せなエリート一家にいったい何が起きたのか。高級住宅街に渦巻く好奇心や見栄、嫉妬が生み出すものとは。鈴木京香主演でドラマ化された、家族の物語。

『境遇』息子が誘拐され、夫の不正献金疑惑が浮上。犯人の目的は?

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『境遇』(湊かなえ/双葉社)

 デビュー作の絵本『あおぞらリボン』がベストセラーとなった高倉陽子と、新聞記者として活躍する相田晴美は、ともに生後間もなく児童養護施設に預けられたという過去を持つ親友同士だ。ある日、「世間に真実を公表しなければ、息子の命はない」という脅迫状とともに、陽子の5歳になる息子・裕太が誘拐された。「真実」とは政治家である夫・正紀の不正献金疑惑についてに違いない。晴美の力を借りて、「真実」を求め、奔走する陽子。すると、陽子の絵本のファンだという一人の女性の存在が浮上する。犯人はその女性なのか、それとも……。朝日放送の創立60周年を記念して2011年に書き下ろされ、松雪泰子&りょうの主演でスペシャルドラマとして放送された。映像化前提という制約のなか、もともとシナリオを学んでいた湊さんならではの構成力に注目。

『Nのために』湊かなえ作品のなかでもっとも泣ける恋愛小説!

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『Nのために』(湊かなえ/双葉社)

 高層マンションの一室で他殺か自殺か分からない状態で起きた事件。被害者は部屋の持ち主である野口貴弘・奈央子夫妻。現場に居合わせたのは夫妻の知り合いである杉下希美、ケータリングサービスで訪れた成瀬慎司、遅れてやってきた貴弘の部下であり希美の友人でもある安藤望、そして犯人として逮捕されたのは、奈央子の不倫相手とされた西崎真人だった。だが本当は、彼ら全員に繋がりがあり、警察には語られなかった真相がそれぞれの回想によって明らかになっていく。その切なすぎる秘密とは……。見返りを求めずただ純粋に相手を思う人々を描きだす、湊かなえ作品のなかでもっとも泣ける恋愛小説であり、ドラマ化された際は榮倉奈々・窪田正孝らの演技に夢中になる視聴者続出。放送後に「Nロス」「成瀬ロス」を引き起こしたほど。

『未来』不幸の連鎖を断ち切りたい! 人生を変えるためのある計画を立てるが……

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『未来』(湊かなえ/双葉社)

〈こんにちは、章子。わたしは二〇年後のあなた、三〇才の章子です。〉という書き出しから始まる手紙を受け取った章子。同封されていたのは東京ドリームマウンテン30周年のしおり。現実には10歳になる主人公の章子と同じ、10周年を迎えたばかりなのに。半信半疑のまま、出すあてのない返事を書き綴る章子だが、その内容から浮かび上がってくるのは、彼女を襲う不幸の連鎖。夫を亡くし、ときおりスイッチが切れて人形のようになってしまう母。祖母から教えられた、知りたくなかった母の過去。そして母と暮らし始めた新しい恋人のせいで始まる壮絶ないじめと、さらなる悲劇。孤独と悲しみを共有できる唯一の友人・亜里沙とともに、章子は人生を変えるためのある計画を立てるが……。作家生活10周年を記念し、絶望の果てに見える未来へのかすかな希望を描きだす。

『山猫珈琲(上下)』ポルノグラフィティの楽曲「Aokage」をイメージした掌編小説も!

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『山猫珈琲(上下)』(湊かなえ/双葉社)

 国内にとどまらず海を越えて湊かなえ作品が支持されるのは、そこに「人間」が描かれているからだ。誰もが抱くシンプルな感情がちょっとした捻れで幸福にも悲劇にも変わる。その危うさが他人事ではない形で描かれているから「自分も、あの人も、もしかしたら」と思いながら読者は夢中になって読んでしまう。「聞き流す」「やり過ごす」「なかったことにする」という技(三種の神器)を体得した結婚後のエピソード、作品のもとになった体験、脚本コンクールの受賞作や、未発表の脚本、同郷のポルノグラフィティの楽曲「Aokage」をイメージした掌編小説などを通じて、作品の源泉に触れることができるのが、デビュー10周年を記念して刊行された本エッセイ。

文=立花もも