かつて『ハリー・ポッター』作者ももらっていた「生活保護」

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2013/1/6

 昨年、大きな議論を呼んだトピックに「生活保護」がある。次長課長・河本準一の母親が生活保護受給者であることに端を発し、「不正受給にあたるのではないか?」とバッシングが繰り広げられた一件だ。その後、火種はほかのタレントや公務員などにも飛び火。一方で受給者への風当たりはいっそう強くなった。しかし、ほかの先進国を見れば、日本の生活保護バッシングは異常事態といわざるを得ない。というのも、たとえば『ハリー・ポッター』(静山社)シリーズの著者であるJ・K・ローリングは、“シングルマザーとして生活保護を受けながら、あの小説を書いていた”というのだ。

 そのことについて言及しているのは、雨宮処凜の新刊『14歳からわかる生活保護(14歳の世渡り術)』(河出書房新社)。この本のなかで雨宮は、生活保護問題に詳しい弁護士・尾藤廣喜にインタビューしているのだが、尾藤は他国の生活保護を受けられる人が受給している割合(捕捉率)を解説。日本は、生活保護基準を下回る所得しかない人で、かつ預貯金などの資産がある人を除いて計算すると、受給している人は32.1パーセント。しかし、スウェーデンの捕捉率は82パーセント、ドイツが64.6パーセント、フランスにいたっては91.6パーセントにものぼる。

 日本の捕捉率がこれほどまでに低い理由について、尾藤は「生活保護は、恥をかかないと受けられない制度になっている」ことを指摘する。もちろん、他国でも「国からお金を貰う」ということが恥ずかしいという思いはあるらしい。だが、そのため海外の政府は「恥をかかなくてもいい制度にしよう」と努力しているという。その一環に、生活を保護する一方で失業後も新しい仕事に就けるよう、職業訓練や就労援助に力を入れている点がある。ローリングが在住するイギリスの場合は、これが「半端じゃない援助」なのだ。

 たとえば歌手デビューしたいと思っている人には、日本における福祉事務所やハローワークのような機関がバックアップし、「どうやったらCDを作れるかとか、プロモーションをどこに頼めばいいか」といったことまで、細かなプログラムを組んで援助していく。日本であれば、本書にもあるように「そんな夢みたいなこと言ってないでコンビニで働きなさい」と返されるのがオチだろうが、イギリスでは「そんなことは言わない」。こうした制度のなかから『ハリー・ポッター』は生まれ、いまではその印税で多くの税金を納めているわけだ。

 かたや、“生活保護を受けることを恥だと思わなくなったのが問題”というような片山さつきの発言にも明らかなように、日本は「生活保護=恥」「貧困は自己責任」という見方が根付いている。その意識に政治がつけ込んでいる状態だ。本書では、生活保護受給者が増加している背景に、“その手前のセーフティネットの脆弱性”があることを挙げ、「年金政策や住宅政策や労働政策が失敗しているから、生活保護に過重な負担がかかってしまう」のではないかと投げかけているのだが、受給者バッシング以前に、この制度の問題に焦点をあてるべきなのではないだろうか。

 さらに、この本では、雨宮が今年1月に札幌で起こった40代前半の姉妹2人が孤立死した事件のルポも綴っている。生活保護を受けられる状態にあっただけでなく、死の淵に立たされていることは誰の目にも明らかだったにもかかわらず、3度も彼女を突き返した福祉事務所の対応には、怒りを通り越して悲しみと空しさでいっぱいになる。「仕事がなくなって収入が途絶えたら。それによって家賃が払えなくなり、住んでいる場所を追い出されそうになったら。病気や怪我で働けなくなったら。高齢になり、貯金も年金もなくて生活できなくなったら。頼れる人が一人もいなかったら」――この雨宮の言葉は、誰もが「いつ」陥ってもおかしくない話だ。

 生活保護を、「この国で、最低限死なない方法」と雨宮は書く。“終身雇用がとっくに破綻し、非正規雇用率が増え続ける”この時代、生活保護の問題は他人事ではない。本書などを通して生活保護について知識を深めることは、きっと“自分の身を守る”武器になるはずだ。