プロ野球開幕! 『グラゼニ』にみる野球界のシビアで過酷な現実

スポーツ

2013/3/29

 今年もプロ野球が開幕した!

 とはいえ野球人気の低迷が囁かれるようになってから久しく、今では子どもの野球離れは顕著。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)のような国際大会はそれなりに盛り上がったものの、そもそもプロ野球への関心は薄いのが実情だ。頼みは30代以降の中高年のファンの存在だろうか。その影響は当然のことながらマンガの世界にも及んでおり、最近は『巨人の星』(梶原一騎、川崎のぼる/講談社)のようなプロ野球を舞台とする野球マンガを見なくなった。

 しかし、中には健闘している作品もある。それが、『週刊モーニング』(講談社)で連載中の『グラゼニ』(アダチケイジ:著、森高夕次:原著/講談社)だ。フィクションではあるが、東京ヤクルトスワローズを中心とする日本のプロ野球の世界をモデルにしている。

 主人公の凡田夏之介はエースでも4番打者でもなく、神宮スパイダースというプロ球団で中継ぎを仕事としている左腕投手。野球マンガで中継ぎ投手が主役というのは、おそらく史上初ではないだろうか。しかも、夏之助はやや丸顔でメガネをかけている庶民的な風貌で、お世辞にも二枚目とは言いがたい。恵比寿のなじみの定食屋でも、最初のうちは気づかれなかったほどである。おまけに自身の年俸1800万円(その後、オフの契約更改で昇給して現在は2600万円)を気にしていて、マウンドに上がると自分と対戦するバッターの年俸と比べて恐れたり見下したり、常に査定について考えているのだ。

 ちなみに、タイトルの『グラゼニ』は、戦中~戦後にかけて名門だった南海ホークス(福岡ソフトバンクホークス)で選手、監督として活躍した鶴岡一人が発した「グラウンドにはゼニが落ちている」という言葉を略したもの。プロ野球選手はグラウンドで活躍すればするほど給料が上がる、ということを示す比喩である。それと同時に、学生野球などと違ってお金のために野球をやる以上、競争は激しく、大変クールな世界であることをも意味している。『グラゼニ』においては、むしろそうした実情に目を向けることの方が多く、連載当初から野球のプレーそのものよりも、この世界独特のしきたりや習慣、あるいは夏之介のようなリリーフ投手や外国人選手、2軍の選手などの厳しい現実が描かれている。また、取材を受けたり、契約交渉に臨む場面など、プロ野球の裏側の姿が見られるのも特徴だ。そんな視点が野球好きの読者の心に響いて、人気となっていったのだろう。

 ところがこの『グラゼニ』、回を重ねるごとにストーリーが徐々に変化しつつある。野球のプレー以外の面を描くことも多いのだが、もともと随所にマニアを唸らせるような高度な野球のテクニックを紹介するエピソードもあり、初期の頃に比べると、その割合が徐々に増えているのだ。

 特に、8巻で夏之介がリリーフから先発に転向を命じられたのをきっかけに正統な野球マンガとしてもかなり熱がこもってきており、野球の表裏両面のおもしろさが楽しめるようになった。夏之介は果たして先発転向として成功するか? そしてスパイダースの順位の行方は? また、夏之介個人もなにやら春の兆し(?)が出てきた気配だ。

 人気が低下しているとはいえ、プロ野球の話題にはやはり華がある。シーズン開幕の高揚した空気に乗って、ビールでも飲みながら『グラゼニ』読むのもまた一興だろう。

文=キビタキビオ